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Zだけども  作者: 多幸
3/10

3話 戦場だけども

俺は下町に降り立った。

30メートル。

降りてみると、やけに長く感じた。

塀の上ではただの高さだったのに、

下に立つと、別世界のようだ。

周りを見渡す。

空気が違う。

寒い。

高い塀が太陽を遮り、

下町は影に沈んでいる。

昼のはずなのに、夜みたいだ。

いや――もっと暗いか。

光が、死んでいる。

そして、かすかに酸っぱい臭気。

腐敗と湿気が混ざったような匂い。

ここはもう、街じゃない。

見捨てられた“残骸”だ。

コツン。

コツン。

足音が響く。

やけに大きい。

背中に何かが近づいてくる

鳥肌が走った。

「三上」

振り向く。

先輩だった。

「……びっくりさせないでくださいよ

俺心臓飛び出そうで心配なんすから」

先輩は悲しそうに足元を指さす。

「これ見てくれよ。もう修理不可能だよな。

会社の金で買ってもらえるか

俺も心配だわ」

(心配なの、そこなのか)

指を指す先には粉々になったカメラがあった

レンズは砕け、本体は潰れ、原型を留めていない。

30メートル落ちればこうなるよな

普通は人間もこうなると思うのだが

先輩は平然と立っている。

当たり前みたいに。

「まぁ、大スクープ取ったらチャラだよな。

なんとかなるだろ」

もう吹っ切れたのか、相変わらず軽いな

そして、手には小さなカメラを持っていた

「インスタントカメラでなんとかするか」

「映像じゃないと、

リアルは伝わらない気がしますけど」

「想像させるのも記者の仕事だ」

「前向き、、、ですね」

「当たり前だろう。希望ってのは、

前向いてるやつにしか現れないからな」

(かっこいい……)

「俺も先輩みたいになりたいです」

「俺みたいに?……それは無理なんじゃないか?」

何故か疑問形で、はっきりと言われた。

引っかかる。

だが、深く考える余裕はない。

俺は先輩の背中を追い、暗い中を歩いた。

商店街。

天蓋が覆い、光をさらに遮る。

シャッターは閉まり、

看板は色褪せ、

時間が止まっているように感じた。

静けさが重い。

風だけが一直線に抜けていく。

俺は震えていた。

恐怖もある。がそれと同じぐらい寒かったからだ。

「湿度高いな。温度は12度ぐらいか」

先輩がつぶやく。

「なんで分かるんですか」

「皮膚でだいたいわかる」

皮膚で。

わかるか?

「というか意外と暇ですね」

「暇だな。

俺の感覚で進むと、

戦場は避けてしまうみたいだ」

避ける?

「長年の勘という意味ですか?」

「勘じゃないんだが、説明がむずいな

、、、そんなことよりこのままだと

また空振りだぜ ははは」

「笑い事、、でいいのか

社長にまた言われそうですね」

「だな」

「どうした、三上、顔色悪いぞ」

先輩の背後に奴が現れた

灰色の肌。

白目。

閉じないまぶた。

唾液。

ゆっくり、歩く怪物。

Z。

相変わらず、動きは遅い。

……逃げるか?いやまずは先輩に伝えなくてわ

「先輩、ゆっくり振り向いてください」

「後ろに……やつがいます」

「後ろ?」

先輩がゆっくり振り向いた。

「先輩、逃げますか」

沈黙がつづく

先輩も焦っているのかも

そして――目が輝いた。

「大スクープだぁ!」

「え?」

Zがこちらに気づく。

ゆっくり、向きを変える。

先輩はスキップしながら近づく。

迷いがない。

「きたきた、大スクープだぜ!」

スクープ?危機感ゼロなのか

フラッシュ。

白い光。

Zの顔が照らされる。

まばたきしない。

そのまま。

先輩はさらに距離を詰める。

触れる。

灰色の肌に。

「身体は人と同じなのか……これ記事にしよう!」

服を引っ張り、脱がそうとする。

「三上、早くこい!手伝ってくれ!」

「え?あ、はい、行きます!」

一歩、踏み出し、俺は走って向かう

こんな恐怖の中、Zのスクープという

世間を騒がせる希望が現れた

希望ってやつは

前を向いているやつにあらわれる

確かに先輩にいった通りか

そう思った、

その瞬間。

Zの手が、先輩の頭に触れた。

軽く。

本当に、軽くのせただけ。

(……あれ?)

何も起きていないように見えた。

先輩も、理解していない。

「……お?」

視線が、わずかに上を向く。

その一拍。

ぐわん。

鈍い音。

骨が――ずれる。

軋むんじゃない。

“滑る”みたいに。

ありえない方向へ。

首が、後ろに折れる。

背中側へ。

人間の可動域を外れている。

目は開いたまま、顎が空を向く

そして、その後崩れた。

カメラが落ちる。

カシャ。

場違いな音。

それだけが、やけに鮮明だった。

俺は動けなかった

Zがこちらを見る。

一歩。

一歩。

ゆっくりと

遅い。

逃げられるはずなのに――

身体がいうことをきかない。

喉が閉じる。

声が出ない。

心臓だけがやたらとうるさい。

これはゲームじゃない。

リセットもない。

コンテニューもない。

俺は今、

“死ぬ側”にいる。

スリルなんて言葉じゃない。

俺は覚悟していたつもりだった。

だが

本当の恐怖が現れたとき――

叫べなかった。

ただ、静かに、

俺のすべてを奪っていった。

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