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Zだけども  作者: 多幸
2/10

2話 記者だけども

俺は先輩と現場に到着した。

高い塀の上。

コンクリートの縁に立ち、下を覗き込む。

風が強い。

足元の砂がさらさらと流れる。

そこから30メートル下に、下町が広がっている。

ここが戦場だ。

下町はもともと居住区だった。

商店街があり、学校があり、夕飯の匂いが漂っていた場所だ。

だが度々金網が破られ、Zが侵入されていた。

犠牲が重なり、誰も住まなくなった。

夜逃げのように去った家々。

シャッターは閉じられたまま、二度と開かない。

静かすぎる。

そして、下町を捨てるように築かれたのが、

この高い塀だ

下町の外に広がる金網を第一防衛線とするなら

俺が立っている塀は第二防衛線だ。

高さ三十メートル。

――落ちれば、終わり。

下町の先にある金網の

一部が歪み、裂けているのが分かった。

鉄骨が外側へ折れ曲がっている。

俺は塀の上から戦場を見下ろした。

遠くで銃声が反響している。

乾いた破裂音が、コンクリートに跳ね返る。

高いな……。

落ちたら死ぬか。

生きてても、足を折って、

動けずにZに食われるか。

想像しただけで、胃の奥が冷える。

塀の上には他社の記者たちが集まっていた。

有名新聞社のロゴ入りベスト。

高価そうな望遠レンズ。

一人の記者がシャッターを切っている

塀の上という安全圏から写真を撮る。

ズームして、切り取って、記事を書く。

機動隊も塀の上に配置されていた

警備と称して、ここを守っている

戦場は下だろ

こんな場所を守ってどうする。

それに

飛び降りるやつなんいるわけーー

「よし、降りるか」

先輩がバッグからロープを取り出した。

黒い簡易降下ロープ。

手すりに引っかける。

カチリ、と金具が鳴る。

その音が、やけに大きく聞こえた。

「え? ホントですか」

「ん? なにが」

「ここから降りるんですか?」

「うん。最高だろ」

満面の笑み。

まるで遠足前の子供みたいな顔。

ロープにまたがり、片手で握り、もう片手にカメラを担ぐ。

そして言った。

「戦場で最高のスクープを取ろうぜ。

 俺たちは記者だ。

 リアルを届けるのが仕事だ。

 行かないなんてもったいないだろ」

(かっこいい……)

先輩の言葉に胸が熱くなる。

塀の上の風が強く吹いた。

フードがばたつく。

俺は周囲を見渡す。

誰も降りない。

記者たちは安全圏からシャッターをきる

塀の上から仕事をしているつもりになっているだけ

前の世界の同僚たちと同じだ。

危険は避ける。それで記者気取りか

俺は違う。

こんなやつらとは違いたい。

前の世界でもそうやって一人だった。

理解されず、離れていった。

だがこの世界では違う。

ハザード社の同士がいる。

そして――尊敬する先輩がいる。

選択肢は一つしかなかった

「行きましょう。

大スクープで世間を驚かせましょう」

震える手でグッドマークを出す。

先輩も笑って返すした

その笑顔が、俺には眩しかった。

――次の瞬間。

先輩が目の前からきえる

先輩はグッドマークを返し、

ロープから手を離したのだ

「……は?」

体が落ちていく

ゆっくりと。

いや、速い。

速すぎて、ゆっくりに見える。

フードがめくれ、カメラが宙を舞う。

ロープが空を切る。

音が、消えた。

「うわぁぁぁぁ!」

遅れて、声だけが戻る。

俺の視界が追いつかない。

「先輩ーー!!」

――グシャッ。

鈍い音が、遅れて届いた。

コンクリートに、肉が潰れる音。

塀の上が、一瞬静まり返る。

風の音だけが、やけに大きい。

(死んだ……?)

(これで死んだら、かっこ悪すぎないか……)

頭が真っ白になる。

会社にどう説明する。

言葉が浮かばない。

その時――

「大丈夫、大丈夫。俺は生きてる」

下から声がした。

軽い。

あまりにも軽い。

「……カメラは壊れたけど」

……は?

理解が追いつかない。

よかった、生きてた。

――違う。

そんな感情の前に、

「なんで生きてる?」

その疑問が、先に来た。

あの高さだぞ。

肉が潰される音がした

なのに、普通に喋っている。

安心と混乱が、同時に押し寄せる。

背中に、薄く汗が流れる。

だが――

そんなことよりも、早く先輩に追いつかないと。

「すぐ行きます!」

「おう、下で待ってるわ」

俺はロープを掴む。

ロープを握る手が白くなる。

両手で、力強く握る。

手のひらが汗で滑る。

ゆっくり足をかける。

下は遠い。

めちゃくちゃ遠い。

距離が、現実じゃない。

その時――

「おい! 何してる!」

機動隊の警備員が気づかれ、叫ばれた

まずい

他の記者たちも振り向く。

視線が刺さる。

「戻れ! 民間人は降りるな!

 遊びじゃない!

 降りるな!死ぬぞ」

警備隊は注意する

だが降りようとはしない。

ロープを掴む気もない。

俺は降りながら叫ぶ。

「うるさい、邪魔すんな!」

声が震える。

それでも、止めない。

「あんたらが武器で戦うように、

俺はペンで戦ってたんだ!」

手が滑る。

ロープが軋む。

「俺は安全圏から写真を撮る偽物じゃない

戦場のリアルを世間に伝える本物の記者だ!」

啖呵は切った。

あとは降りるだけ

だが――

怖い。

めちゃくちゃ怖い。

手の感覚が消えかけている。

足の位置が分からない。

ロープが揺れる。

視線が刺さる。

呼吸が崩れる。

それでも。

止まらない。

俺は注目を浴びながら、

一歩ずつ、

戦場へ降りていく。

うーん、機動隊に逆らちゃったんだけど

俺捕まったりしないよな

高さと未来の恐怖が押し寄せていた

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