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Zだけども  作者: 多幸
10/10

10話 極寒だけども

俺と先輩は雪山を登っていた。

一歩進むたび、足が雪に埋まる。

早く鴨志田さんたちを探さないといけないのに、

周りは白い景色しかなかった。

吹雪が視界を奪い、体温も奪っていく。

ん?

どうやって雪山まで来たかって?

走ってきた。

Zである先輩におんぶしてもらって――

……というのは冗談だ。

雪山の入り口までは鉄道が通っている。

先輩と俺はそれに乗ってここまで来たのだ。

最近まで、その駅周辺の宿屋は営業していて、

登山家たちがよく泊まっていたらしい。

だが今は違う。

赤い人の噂。

それ以来、誰も寄り付かなくなった。

だが雪山に来て分かったことがある。

恐ろしいのは赤い人だけじゃない。

吹雪。

寒さ。

視界の悪さ。

全部が脅威だった。

登山家ってよくこんなところ登るよな。

ハザード社にスカウトしたいくらいだ。

「雪山やばいですね……」

俺は震えながらつぶやいた。

先輩は周囲を見ながら言う。

「温度、マイナス五度ぐらいだな」

平気そうだ。

寒さなんて関係ないみたいに。

俺は首をかしげる。

「……その温度、正確なんですか?」

「たぶんな」

なんで分かるんだろう。

Zだから?

「気になるか」

俺は頷く。

「教えてやる」

先輩が急に真面目な顔になった。

来る。

これはきっと――

先輩がZになった過去の話だ。

俺はメモ帳を取り出した。

先輩は言う。

「俺は昔から」

「誰もできないような取材がしたかった」

「だから戦場の取材を選んだ」

(先輩が戦場記者になった理由か……)

「俺は体調が悪ければ戦場取材は危険だと分かっていた」

「だから戦場に行くたび温度を測った」

「すると自分の体温との差から」

「皮膚感覚でその場の温度が分かるようになった」

……。

俺は少し待った。

「……それだけですか?」

「Zだからとか関係ないんですか?」

先輩は肩をすくめる。

「さぁな」

「お前は分かるのか?」

俺は黙ってメモ帳をしまった。

すごく浅い。

だが、先輩らしい。

つまり先輩は、

分かるけど、なぜ分かるのかは自分でも分かっていないらしい。

先輩は吹雪の中で背伸びをした。

「気持ちいいな」

「どこがですか」

「極寒ですよ」

「まつ毛凍ってますよ」

「俺、死ぬんじゃないかと思ってますよ」

先輩は肩をすくめた。

「俺はZだからな」

「熱とか日射は苦手だけど」

「寒さとか吹雪は得意みたいだな」

「へぇー……なるほど」

俺はその言葉をメモした。

Zの特徴。

さらっと重要なことを言った。

だから先輩は黒いフードを被って、

日射を避けていたのか。

俺は暑い日に厚着している先輩を見て、

(この人頭おかしいんじゃないか)

と思っていたが、

どうやら理由があったらしい。

雪山の中、

先輩と呑気に会話していたとき。

先輩が言った。

「俺たちの取材も今は壁にぶつかっているが」

「進んでいればいつか越えられる」

「そうやって大スクープを取るんだよ」

(相変わらず、かっこいいことを言うな)

俺は先輩についてきてよかったと思えた。

「登山も同じだ」

「進んでいればいつか頂上につく」

俺はふと気づいた。

「……あれ?」

「頂上?」

「今って鴨志田さんたちの所を目指してますよね?」

先輩は首をかしげた。

「そうなのか?」

「俺はただ登ってるだけだけど」

え?

えー?

俺は立ち止まった。

「先輩」

「今の状況って……」

「遭難中ですか?」

先輩はニヤッと笑う。

「へぇー、そうなん……」

少し間を置いて。

「なんてな」

「言ってる場合か!」

いや、笑い事じゃない。

冷静に考えてみる。

鴨志田さんを探しに来たつもりが――

俺たちも遭難していた。

そんな中でも先輩はいつも通り。

軽くて、平気そうだ。

先輩について行って大丈夫なのだろうか。

そう思うと――

二度目の人生が

ここで終わる気がしていた。

そのとき。

前方から――

雪を踏みしめる音が聞こえた。

だが白い景色のせいで、

何が向かってきているのか見えない。

「先輩、前から音がします」

「赤い人か」

先輩が一歩前に出る。

「三上、俺の後ろ――」

少し間を置いて。

「……って、お前もう後ろにいるな」

「先輩、あとはお願いします」

「任せろ」

音が徐々に近づく。

足音だけじゃない。

雪の上を転がるような音も混じっていた。

赤い人って何なんだろう。

俺は頭の中で

赤いゾンビを想像した。

その瞬間。

「来たー!大スクープの予感だ!」

先輩の叫び声が、吹雪の音をかき消した。

俺は先輩の背後で身をかがめる。

先輩は拳を引き、

殴る体勢で構えた。

次の瞬間。

ドンッ

拳が何かを捉えた音。

続いて、雪の上に何かが落ちる音がした。

「先輩!?どうですか!」

「赤い人を捕らえたぜ」

「おおー、さすが先輩」

俺は先輩の後ろに回り込み、

吹き飛ばされたものを見に行った。

白い雪の中で、

少しずつ姿が見えてくる。

人のような形。

ダウンジャケット。

金網の外にいるZとは

少し違うようだ。

赤い人とは

Zではないのかもしれない。

それに

赤いとはどういうことだろうか。

鼻から赤い液体が流れていた。

それで“赤い人”か。

そんな馬鹿な、と思った瞬間――

顔はこけていて、やせ細っている。

弱そうな顔。

……なんだか見覚えがある。

俺の顔から血の気が引いた。

「……向上さんだ」

「向上さん!!」

助けにきたはずが、

気絶させてしまった。

俺は向上さんの体を起こした。

腕にはしっかりカメラを抱えている。

先輩は神妙な顔で向上さんを見た。

「なるほどな」

先輩は自信ありげに頷く。

「先輩、もしかして」

「赤い人の正体が分かったんですか?」

「あぁ」

先輩は言った。

「赤い人とは」

「鼻血を流した向上だ」

「……なわけあるか!」

先輩は笑った。

「ははは、だよな」

「これじゃスクープにならねぇ」

そして言う。

「鴨志田さん探すぞ」

俺はすぐ言った。

「いや、まず向上さんを安全な場所に連れていきましょう」

先輩は向上さんを背負う。

俺たちは洞窟を探しながら、

向上さんが目を覚ましてから

状況を聞くことにした。

吹雪の雪山の中で――

鴨志田さんを探すために。

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