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Zだけども  作者: 多幸
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1話 転生者だけども

俺の名前は三上 真司。

俺は走っていた。

アスファルトを蹴る音が、乾いた街路に響く。

靴底が滑り、砂が弾ける。

肺が焼ける。

喉が裂けそうだ。

呼吸がうまく入ってこない。

それでも――止まれない。

目の前を走る、背中があるからだ。

先輩。

距離が縮まらない。

むしろ、少しずつ離されている。

ありえないだろ。

あの人、大きなカメラを担いでるんだぞ。

「遅いぞ、三上」

振り返りもせずに言う。

余裕の声だった。

俺は息も絶え絶えに返す。

「……は、はや……すぎ、です……」

肺が潰れる。

視界の端が暗くなる。

だが、止まるわけにはいかない。

俺たちは記者だ。

戦場に入って、真実を持ち帰る。

それが仕事だ。

俺はハザード新聞社の記者。

戦場のリアルを取り、

スクープを掴むため無茶をする連中の集まり。

命の保証なんてない。

保険だってまともに下りない。

それでも――現場に行く。

過激な連中の巣窟として、国にも目をつけられている。

記者というより、問題児扱いだ。

だが、そのおかげでコアな読者がいる。

「お前らの記事は嘘がない」

その一言をもらうために

俺たちはスクープをつかむ。

先輩は、そのハザード社のエース。

足立 宗比。

命知らずで

不死身の記者といわれている

実際に戦場へ入り、生還し、記事を書いてきた男だ

俺が一番尊敬する人間なんだが

――やっぱりおかしい。

青白い肌。

やせ細った身体。

それなのに、異様に速い。

呼吸ひとつ乱れていない。

汗もかいていない。

黒いナイロンの上着を羽織り、

フードを被ったまま。

太陽をさけるように

炎天下の中を走り続ける

化け物だ。

本気で、そう思う。

俺の足はもう限界に近い。

膝が笑っている。

それでも――追う。

この背中を、見失うわけにはいかない。

たとえ、死んでも

……ん?

「お前に死ぬ辛さがわかるのか」って?

わかるさ。

一度、死んでいるからな。

俺は転生者だ。

ここではない世界からやってきた。

だが、よくある話みたいに特別な力なんてない。

赤子の頃から記憶はあったが、

何かが変わったわけじゃない。

転生しても、俺は俺だった。

平凡で、少ししつこくて、

真実を追うのが好きなだけの男。

気づけば、また記者をやっている。

笑えるだろ。

この世界にも詳しいつもりだ。

魔法はない。

古代兵器もない。

加護も精霊もいない。

異能も妖刀もない。

聞けば、元の世界と変わらないと思うだろう。

だが――決定的に違うものがある。

そして、欠点もある。

この世界には、ゲーム機がない。

くだらない話に聞こえるかもしれない。

だが俺にとっては、わりと重要だった。

シューティング。

ゾンビゲーム。

暗闇から飛び出してくる敵。

弾を撃ち、逃げ、クリアする快感。

あのスリルが、この世界にはない。

俺の趣味が奪い去られていた

でも、そのかわりか分からないが

この世界には、別のものがある。

画面越しじゃない“それ”が。

灰色の肌。

閉じないまぶた。

乾いた白目。

よだれを垂らしながら、ゆっくりと前へ進む。

前にしか進めないくせに、確実に近づいてくる。

ゾンビ

ではなくこの世界では――Zと呼ばれている

初めて見たとき、吐いた。

恐怖で。

臭いで。

音で。

現実で。

ゲームとは、まるで違う。

恐怖もあるが

どこかで、この世界を楽しんでいる

自分がいることを知っていた

狂っているのかもしれない。

Z、正式には

Z細胞感染者。

詳しいことは分かっていない。

分かっているのは一つ。

増える。

ただそれだけで、世界を壊すには十分だった。

生存域の六割が消えた。

噛まれれば終わり。

人は後退し、

金網の中に押し込められた。

まるで、囲われた動物みたいに。

……ゲームみたいだ。

ただし違う。

リセットはない。

死んだら終わりだ。

まぁ、俺はゲームだったら主人公じゃない。

出てもモブだ。

画面の端で逃げ遅れる市民役ぐらいだな。

はは。

――サイレンが鳴る。

現実に引き戻された。

耳障りな警報音。

「来たな」

先輩の声。

足が、さらに速くなる。

俺も倒れそうになりながらついていく

今日、金網が破られた。

Zが、金網の中、生存圏に侵入している。

避難指示の放送がなり混乱を生んでいた

ここはヒーローの登場が必要だ

安心してくれ、この世界にもいる

国に選ばれたZ専門機関。

対Z細胞機構研究調査団 行動部隊。

通称 機動隊。

対Z戦闘の専門部隊だ

今、Zと交戦しているらしい。

俺たちが目指しているのは、その現場だ。

戦場で、大スクープを取る。

そのために――Zのいる死地へ向かっている。

俺は前の世界でも記者だった。

真実を知りたくて、危険な橋を渡った。

一人で動き、スクープを掴み――消された。

あっけない最期だった。

それでも。

また、同じことをやっている。

懲りないが、今は違う。

一人ではない

ハザード社の同士がいる。

そして――

先輩がいる。

前の世界より、ずっと生きやすいように感じる。

Zがいるのに、

おかしな話だ

第二の人生。

次こそ。

真実のために、生き方を貫く。

俺はそう決めている。

だから俺は走る。

息が切れても。

足が震えても。

この背中についていく。

その先にある、

真実という“リアル”を掴むために

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