だから、もう私は人を殺したりはしない。
「うわーーん。怖いよ」
涙がこぼれる。怖くて怖くて震えがとまらない。
怖かった。凄く怖かった。
ミリーはまだ、10歳。茶の髪の幼い少女だ。
その少女が黒髪碧眼の男性に背負われて震えている。
「しっかりと結界を張らないかっ。でないと、二人とも死ぬぞ」
「だってっ。怖いよう」
背負っている男はアルベルト・シュタイン。
シュタイン伯爵家の次男だ。
黒髪碧眼の彼の身体は血だらけだった。
自分で流した血ではない。
返り血である。
襲い掛かって来る兵士達を、漆黒の剣で斬る。
魔力を込めた剣から出る破壊力は一振りで兵士数十人を吹っ飛ばす。
それでもなお、襲い掛かって来る兵士を斬りに斬っていく。
殺さないと殺される。
アルベルトの背でミリーは震えながら、結界を張り続けていた。
どんな攻撃も無効化する結界。
ミリーはガルド王国で希少な結界を張ることの出来る少女だった。
ミリーは孤児だ。優しいシスターに小さな町で他の孤児達と共に育てられた。
だが、とある日、街に買い物に出たシスターに暴漢数人が襲い掛かった。
シスターはとても綺麗な女性だったからだ。
暴漢が襲い掛かった時、傍にいたミリーがシスターを抱き締めて、力を発動させたのだ。
暴漢はシスターに近づく事もなく、吹っ飛んだ。
その事が知れ渡り、王家の耳に入った。
そして、バルト帝国からの度重なる侵攻に悩まされていた王家は、まだ10歳のミリーを強引に戦場へ送りつけた。
「我がガルド王国の役に立つのだ。感謝するがいい」
と、馬車に乗せられて強引に。
着いた先はバルト帝国の兵が次から次へと襲い掛かって来る緊迫した戦場だった。
相手は2万。こちらは6000人の兵が侵攻に耐え忍んでいた。
その中に、一際、優れた働きをしている男がいた。
アルベルト・シュタインという男である。
歳は若くまだ20歳。彼は魔力をまとった漆黒の剣を使い、兵を次から次へと、跳ね飛ばし、殺していく。
そんなアルベルトの元へミリーは送られたのだ。
結界を張ってアルベルトの役に立てと。
ミリーは怖かった。
死体が累々と横たわる戦場。
敵味方、大勢の人が亡くなっている。
アルベルトはミリーを背にくくりつけて。
「しっかりと結界を張れ。跳ね飛ばすのは力がいるだろう。お前の結界は張っているだけで、敵の攻撃を無効にしてくれるはずだ。跳ね飛ばすのは自分でやる。だから、お前はしっかりと結界を張っているだけでいい」
「ひいいいいっ。わ、私、行かないと駄目ですかっ。こわいよう」
「その為に来たのだろう。しっかりとやれ」
襲い掛かる兵達。魔力を纏った剣で自軍の兵の先頭に立ち、次から次へと兵をなぎ倒し、跳ね飛ばしていくアルベルト。
ただただ、怖くて怖くて、結界を張っているしかなくて。
怖い時間が凄く長く感じた。
気が付いてみたら、敵軍は撤退した後で、敵味方の死体が累々と横たわっている地獄で。
「もう、いいぞ。ミリー」
そう言われた途端、ミリーは気が遠くなった。
テントの中で目が覚めた。
アルベルトがテントの中に入って来て、
「ほら、飯だ。食え」
水とパンと肉の入ったスープを渡してくれた。
力を使ったので凄くお腹がすいた。
必死でパンをかじり、スープを飲んだ。
アルベルトの大きな手が頭を撫でてくれた。
「よく頑張ったな。帝国はまだ諦めないだろう。次も頑張ってくれ」
嫌だとは言えない。家に帰りたくて仕方ない。シスター達は、孤児院の仲間達は元気だろうか。
「帰りたいよ。こんな怖い所に居たくない」
ミリーが泣きながら言うと、アルベルトは、
「俺だって帰りたい。漆黒の剣に選ばれなければ、こんな所に来ていない。王宮で王家の秘宝、漆黒の剣を手にした途端、力を感じてしまった。剣の声を聞いたのだ。だから、俺はここにいる。ガルド王国を守る為、命を燃やせと言われた。だから、俺はここで命を燃やす。王国をバルト帝国から守る為に。だから、お前も頑張ってくれ」
ミリーはアルベルトに抱き着いて泣いた。
泣いて泣いて泣いて。帰りたいけど泣いて。
でも、帰る為に結界を張り続けるしかない。アルベルトの周りに。
そう決意した。
戦は半月続いた。
アルベルトや他の兵達は王国の為に、必死で戦った。
敵味方多大の損害が出た。
ミリーはアルベルトを守る為、結界を張り続けた。
誰一人、アルベルトを傷つける事は出来ない。
そして、多大な損害の末、やっとバルト帝国は諦めて、兵を引いていき、両国の間で和平の話し合いが行わることになった。そして和平が成立した。
国境に一定の兵士を残したまま、アルベルトは兵達と王都へ帰還した。
ミリーも一緒である。
王都ではアルベルトを英雄と奉り、そして国王陛下はアルベルトを出迎えて、
「褒美に我が娘、ティアナ王女を授けよう」
アルベルトは頭を下げて、
「私には過ぎたる褒美。どうか他の方に姫は差し上げて下さい」
「姫がお前がいいと言っている。シュタイン伯爵家に姫を輿入れさせる。良いな」
ティアナ王女は美しかった。絹のような金髪に青い瞳の美女だ。
にこやかに、
「アルベルト。わたくしが貴方と結婚したいのです。王国の英雄と。ですから、断る事は許しません。一月の猶予を与えます。伯爵家にわたくしが住むにふさわしい住居の用意をさせなさい。いいですね」
と、命令が下ってしまった。
ミリーに関しては、国王に会う事も許されなかった。
アルベルトにミリーの管理を任される形になった。
貴重な結界を張ることの出来る持ち主なのだ。
何かあったら、アルベルトの背にまたミリーをくくりつけて、戦場に行かせる。
だから、王家はアルベルトにミリーの管理を任せたのだ。
アルベルトはミリーに、
「困った事になった。うちのシュタイン伯爵家は王女様を出迎えるだけの金はない。それ程、裕福な家ではない。どうしたものか」
ミリーは領地のシュタイン伯爵家に連れて行って貰った。
シュタイン伯爵夫妻や、アルベルトの兄ジェイドとその夫人マリア。双子の妹アリーヌとエリーヌがアルベルトを出迎えてくれた。
皆、とてもいい人達で。
シュタイン夫妻は、ミリーが平民であるにも関わらず、
「我が息子を守ってくれてありがとう」
「ミリー。お腹がすいたでしょう。美味しいものをシェフに頼んで作ってもらいますから。それにしてもこんな小さな子供が戦場に行かねばならなかったなんて」
夫人はそう言って泣いてくれた。
アルベルトの兄夫婦も、ミリーを可愛がってくれて、アルベルトの義姉マリアや、アルベルトの妹達アリーヌ、エリーヌ、二人は16歳。ミリーより年上だ。
三人はミリーの前で綺麗なドレスを広げながら楽しく話をする。
アリーヌがブルーのドレスを差し出して、
「ミリーちゃん、私のおさがりでよければ、まだまだ着られるわ」
エリーヌがピンクのドレスを差し出して、
「私のおさがりの方が、ピンクで可愛いわ。アリーヌお姉様のおさがりはブルーのドレスで地味だわ」
マリアが笑って、
「せっかくだから、王都のお店に買いにいきましょう。あまり高い物は買えないけれども。もっと可愛いドレスを着せてあげないと」
今、ミリーが着ているドレスは、飾り気もなにもない、ワンピースだ。
だから、綺麗なドレスを用意してくれるのは嬉しかった。
「有難うございます。マリア様。アリーヌ様。エリーヌ様」
三人に礼を言った。
シュタイン伯爵夫妻とジェイド、アルベルトは悩んでいるようだ。
ティアナ王女が、輿入れしてくるのだ。
この屋敷で王女様が満足するだろうか。
もっと、部屋を綺麗に改装しないと。
色々と出迎える準備が大変である。
あちこちに借金をし、屋敷を改装した。
ティアナ王女を出迎える為に色々と買い揃えた。
王都で結婚式が派手に行われた後、領地の伯爵家にティアナ王女を出迎えるのだ。
結婚した後の費用はこちら持ちになる。
だから、懸命に王女を満足させるように準備したのだ。
そして一月後、王都で派手な結婚式が行われたと聞いた。
ミリーは参列を許されていなかったので、伯爵家で留守番をしていた。
メイド達から聞いたのだ。
一足早く帰って来た執事の話では、王都でパレードが行われ、派手な結婚式だったと。
ミリーはアルベルトの事が好きだ。
いつから好きになったんだろう。
屋敷に来て、アルベルトもミリーを可愛がってくれた。
戦場と違って、落ち着いた日々。
悪夢にうなされて眠れない夜に、ミリーが廊下を歩いていたらアルベルトが気づいて、
「眠れないのか?」
「戦の事が思い出されて」
「ああ、俺もだ。こうして平和になったのに、何人もの命を奪った。兵の恨みが、夢の中に現れる。ごめんな。お前の力を借りて。まだ10歳なのにな」
そう言って抱き締めてくれた。
アルベルトが好き。まだ私は小さいけれども、アルベルトが好き。いつの頃から好きだって気がついたんだろう。ティアナ王女様と結婚すると聞いて、悲しく思った。でも、仕方ない。彼は英雄だから。私は平民だし、まだ10歳だし。
皆が結婚式の後、帰って来た。
「凄い豪華な結婚式だったわ。ミリーにも見せたかったわね」
伯爵夫人がそう言って、王都の土産のチョコレートを渡してくれた。
「有名なお店で買ったのよ。後で、お茶の時間に食べなさい」
「有難うございます」
マリアやアリーヌ、エリーヌも、可愛いクマの縫いぐるみや、綺麗なハンカチ、可愛い小物入れをそれぞれ買ってきてくれて。
「このクマ、可愛いでしょう。ミリーへのお土産よ」
「私のハンカチも綺麗でしょう」
「この小物入れ。可愛い袋でしょう。花柄よ」
三人ともニコニコして渡してくれて。ミリーは幸せを感じた。
しばらくしてアルベルトがティアナを連れて戻って来た。
豪華な馬車で、皆、総出で出迎えた。
屋敷を見てティアナ王女は一言。
「小さな屋敷ね。古臭いわ。もっとわたくしの好みの屋敷に改修しなさい。壁は白がいいわ。こんな茶の色の壁なんて。嫌よ」
部屋に案内すれば、
「何、この小さな部屋。もっと広い部屋を用意しなさいよ。わたくしは王女よ。こんな部屋、嫌だわ」
狭い部屋という訳ではない。改修して部屋も広い部屋を用意したのだ。壁紙も張り替えて、家具もシンプルだがとても綺麗な家具を取り揃えた。なのにこの文句。
アルベルトがティアナに、
「ティアナ様の為に精一杯用意させて頂きました。これ以上の我儘は」
ティアナは怒って、
「お父様にいいつけるわ。わたくしを虐待しているって。酷い扱いをしているって。いいかしら」
シュタイン伯爵が慌てて、
「ご要望はかなえさせて頂きます。ですから、ご容赦を。ティアナ様」
「よくてよ。着るものも王宮から持って来たわ。入れる場所を用意しなさい」
三台馬車が止まって色々な物が運び込まれた。
部屋が二つ、一杯になってしまった。
ミリーはその様子を見て不安になった。
皆、困っている。困っているわ。
それからもどんどんとティアナの我儘は加速していった。
あれが欲しいこれが欲しい。部屋が狭い。どうにかしろと。
部屋は更に改装し、広い部屋をティアナの為に用意した。
勝手に商人を呼んで、色々と買い物をしてしまう。その金は全て伯爵家の金だ。
何か言おうものなら、
「お父様に言い付けるわ」
と言われるので誰も何も言わない。
アルベルトとの夫婦生活はあるようだが、アルベルトもため息をついている日が多くなった。
ミリーは思った。
伯爵家の人達はいい人達ばかり、皆、私に親切にしてくれる。
アルベルトも困っている。
アルベルトが悲しい顔をしているのは嫌。
この間、エリーヌがティアナにぶたれたのを見た。
あまりに買い物が酷いのでエリーヌが文句をいったら、思いっきり頬を引っ張だかれたというのだ。
ティアナはアルベルトに、
「わたくしに無礼を働いた貴方の妹を、騎士団に差し出しなさい」
「申し訳ございませんでした。どうか騎士団はお許しを」
「そう?それじゃ、わたくし、首飾りを買いましたの。どう?似合うでしょう」
高い首飾りがティアナの首に輝いていた。
アルベルトは、
「似合っています。ティアナ様」
「それじゃ、この首飾りをつけたわたくしを朝まで愛してくれるかしら」
ミリーはその様子をこっそり見ていた。
許せない許せない許せない。
最近、気づいた事がある。
人は薄い膜で覆われている。
あれはきっと人を守る加護みたいなものだ。
年寄りはあの膜が薄くなっていることに気が付いた。
病人もそうだ。
もし、あの膜を取ることが出来たら、あの膜が無くなったら人はどうなるんだろう。
庭師が犬を飼っている。
その犬も膜で覆われているのだ。
その膜に触ってみた。
そっと、手をかざして、その膜を吸い取ってみる。
なんだか犬の様子がおかしくなったので、慌てて、吸い取るのをやめて、吸い取ったものを戻した。
なんだろう。この膜を吸い取ったら、もしかしたら。
ミリーはドアをトントンと叩いた。
ティアナは、椅子に座って、箱を眺めていた。
宝石でも入っているのだろう。
「ご挨拶に伺いました。ミリーと申します」
「あら、この屋敷の子かしら。挨拶なんていいわ。興味ないから。出て行って」
ミリーは近づいて、ティアナを見た。
なんて、濃い膜で覆われているんだろう。他の人とは違う。王家の血とかいうものなのかな。
吸い取る事が出来るんだろうか。
近づいて、両手でティアナの手を握り締めた。
「何をするの???」
膜を吸い取る。凄い力が流れ込んでくる。
でも、疲れる。
この女さえいなくなれば、皆、笑顔で暮らすことが出来る。
吸い取って、ティアナの傍を離れた。
ティアナは気分悪そうに。
「何だか具合が悪くなってきたわ。貴方、何をわたくしに」
そう言って倒れた。
ミリーは悲鳴をあげた。
「大変。お話していたら、ティアナさまがっ」
人を呼んだ。使用人達が慌てて、部屋に入って来た。
ティアナは息をしていなかった。
屋敷中が大騒ぎになった。
こうして、ミリーは人を殺した。
医者が調べたが、ティアナの身体から毒物も検出されず、病で亡くなったのだろうという事に片付けられた。
皆で食事をしながら、
シュタイン伯爵が、
「正直、ティアナ様が亡くなってくれて助かった。これ以上、借金が増えるのもな」
伯爵夫人が、
「ティアナ様の輿入れの時にこちらに持って来た持ち物は王家にお返ししたわ。我が伯爵家で買ったものは、こちらでもらったけれども。でも、あまり高く売れないわね。商人におだてられて、安物を高く買っていたみたいだわ」
アルベルトは明るい顔で、
「これからは俺も父上兄上を助けて、やっと働ける。いままでティアナ様の機嫌を取るのに大変だったから。よろしくお願いします。父上母上」
そんな様子を見てミリーは嬉しかった。
私が殺したのは、戦場で兵を殺したのと同じ。正しい事だったんだわ。
アルベルトが見合いをすることになった。
ティアナが亡くなって一年過ぎた。喪も開けたので、アルベルトの次の相手を探すことになったのだ。
アフェリ伯爵家の令嬢と見合いをすることになった。挨拶に来た伯爵家の令嬢はとても綺麗で優しそうな人だった。
「ジュリア・アフェリですわ。なんて素敵なお屋敷」
アフェリ伯爵夫妻と一緒に来たジュリア。
アルベルトはジュリアを庭に連れ出して、案内しているみたいだ。
ミリーはこっそりとその様子を見ていた。
一人殺すのも二人殺すのも、沢山殺すのも一緒。
私はアルベルトが好き。
あの女が酷い女だったら?
またアルベルトを苦しめるの?屋敷の皆を苦しめるの?
他人が入ってくるのが許せない。
だから、私は私は私は‥‥‥
ジュリアがアルベルトに断りを入れた。
「ちょっと化粧室に行ってくるわ」
そう言って庭から屋敷の化粧室に行こうとするジュリアをミリーは呼び止めた。
「私、ミリーって言います」
「まぁ、ミリーちゃん。化粧室はこちらでいいのかしら?」
近づいて手を握った。ジュリアの纏っている膜を吸い取る。
ジュリアはふらふらとして、
「何だか急に気分が」
「大丈夫ですか?人を呼んできましょうか?」
そのまま、ジュリアが倒れた。
ミリーはその場を急いで離れた。
一人殺すのも、二人殺すのも、沢山殺すのも一緒‥‥‥
ジュリアは急死したのだ。
ジュリアの両親であるアフェリ伯爵夫妻は悲しんだ。
「健康だったのに。倒れて急に亡くなるとは」
「明るくて良い子だったのに。ああ、ジュリア」
アルベルトは気落ちしたようだった。
「妻を貰って、父や兄上を助けて、俺は人らしく生きようとしたのに。婚約しようとしたら相手が急死するだなんて」
ミリーは慰めた。
「でも、あの戦場よりも平和に暮らせているのですから」
「そうだな。ハァ。結婚するなということか?俺は沢山に人を殺しているから、罰が当たったのか」
「ミリーが傍にいます。私はアルベルトの事が好き。この伯爵家の事が好き。だから、ずっと傍にいます」
「優しい子だな。ミリーは」
嬉しかった。頭を撫でて貰って、褒められた。
アルベルトが好き。凄く好き。だから、どんどんと人を殺すの。
アルベルトに害を与える人、この伯爵家に入り込んで来ようとする人。
他人なんていらない。
ジュリアだっけ?アルベルトの奥さん?良い人に見えてきっと害を与える人だ。
だから、私は殺した事を後悔しない。
これからもどんどんと人を殺すわ。
二人の女性が急死しているのだ。
皆、アルベルトと婚約を結びたがる人はいなかった。
いかに英雄であろうとも、あまりにも不気味で怖い。
アルベルトは呪われているのだ。バルト帝国の兵の怨霊に。
そういう噂が立つようになった。
シュタイン伯爵家に来客が。
「久しぶりだな。ジェイド」
アルベルトの兄ジェイドに旧友が訪ねてきたのだ。
アラフ・レッテル元伯爵令息。
ジェイドとは学生時代同じクラスだったらしい。
ジェイドは懐かしそうに、
「アラフ。お前、今、変…辺境騎士団にいるんだって?」
「ああ、ヴォルフレッド騎士団だよ。せっかく近くまで来たんで、顔を出してみたんだ」
「ゴルディルは元気か?いつもお前らつるんでいたよな」
「ゴルディルは元気に働いているよ。弟さんの奥さんや、婚約者候補が急死したんだって?」
「ああ、病死だ。医者にちゃんと死体を調べて貰った。別に毒殺とかではない。大きな声ではいえないが、王女にはうんざりしていた。金遣いが荒くてな。亡くなってくれて助かったよ」
「そうなのか?あれ?今、誰か覗いていたぞ。小さな女の子だ」
「ミリーだろ。弟を戦場で助けてくれていた少女だ。結界を張って敵の攻撃を無効化していた。うちで面倒を見ているんだ」
「そうなのか?覗いていないでおいで」
少女がこちらへやってきた。何だか睨まれているような。
アラフは嫌な予感がした。
魔物討伐をする時に、聖女に助っ人を頼むことにしている。
アフェリーナが主に助っ人をしてくれるが、結界を張って助けてくれたりする。
この少女もそうなのだろうけれども、でも‥‥‥
こういう時はアフェリーナを連れてきた方がいいんだろうな。
アラフはそう思った。
だから、ジェイドに、
「友人を連れてまた来るよ。では、またな」
そう言って、その場を去った。
何だか本当に嫌な予感がした。
ミリーは金髪美男のアラフと言う男が出て行ったのを見た。
こちらを見て、首を傾げていた。
私がやっている事がばれているの?
私はただただ、他の人が私の幸せを壊して、アルベルトを、伯爵家の皆を不幸にするのを見ていられなかったの。
アルベルトの事が好き。ずっとアルベルトの傍にいたい。
アルベルトが外出先から帰って来た。
「ミリー。おいで」
膝の上にミリーを乗せて髪を撫でてくれる。
「ミリーにもそろそろ家庭教師をつけた方がいいかな?字がやっと書けるくらいだし。ちゃんと勉強するか?」
「アルベルトは私が勉強が出来た方がいい?」
「ああ、いいとも。だから、家庭教師をつけるか」
翌日、アラフと言う男がまた、やってきた。
アフェリーナという女性を連れて。
ミリーはジェイドに客間に呼ばれた。
アフェリーナはミリーを見て一言。
「あんたが殺したんだね?二人の女性を」
ミリーは真っ青になった。
「違う。私は殺してはいない」
アルベルトが後から部屋に入って来た。
アフェリーナはアルベルトと、ジェイドに、
「この子が殺したんだよ。私は聖女アフェリーナ。聖女は力の使い方によっては、人の命を吸い取る事も出来る。ミリー。貴方が殺した。二人の女性を」
アラフが、
「どうして殺したんだ?お嬢ちゃん。二人の女性を」
アルベルトが真っ蒼になって、近づいて来て、ミリーの顔を覗き込んだ。
「どうしてなんで?ティアナ様と、ジュリア嬢を?」
ミリーは叫んだ。
「だってだってだって、ティアナ様は皆を困らせていた。贅沢ばっかりしていてだから殺した。ジュリア様は私からアルベルトを盗ろうとしていた。私はアルベルトの事が好き。戦場で怖かった。でも、アルベルトの背は温かったの。私はアルベルトが好き。だから、殺した。殺したんだ。一人殺すのも二人殺すのも沢山殺すのも一緒だよ。一緒だから」
アルベルトが近づいて来て、抱き締めてくれた。
「すまない。お前みたいな少女を戦場に駆り出さなければよかった。いかに国王の命だとはいえ、送り返せばよかった」
「アルベルトっ」
「俺の事がそんなに好きか?」
「うん。好き。大好き」
好きなの。好き。アルベルトの事が好き。だから、もっと沢山、人を殺すの。沢山沢山沢山。
アフェリーナがミリーに向かって、
「力の使い方を間違っている。人を守る為に使う力だ。人を殺す為に使う力ではない。女神様がお怒りになるだろう」
アラフも気の毒そうに、
「こんな幼い少女を歪めてしまう戦。無くなるといいんだが、人は愚かだからな」
アルベルトがミリーを抱き上げてくれた。
ジェイドが声をかける。
「アルベルト。どこへ行くつもりだ?」
「家を出ていく。ミリーを騎士団へ渡せない。どこか遠くでミリーと一緒に暮らすよ。もう人は殺させない」
部屋の外から、シュタイン伯爵夫妻と、ジェイドの妻マリア、妹達アリーヌとエリーヌが転がり込んで来た。
マリアが、
「ミリー。貴方がいて楽しかったわ。ずっとここにいて欲しいけれども、そうはいかないわね。クマのぬいぐるみ、持って行って。行先が決まったら手紙を頂戴。ミリー。愛しているわ」
そう言って、ミリーの手を握り締めてくれた。
アリーヌもエリーヌも、
「私達のあげたハンカチと小物入れも持って行って」
「私達の事を忘れないで。私達にとってミリーは可愛い妹よ」
三人はミリーの手を握りしめてくれたのだ。
人の命を奪ったこの手を。
涙がこぼれる。
なんて温かい手。なんて温かい心。
もしかして、ジュリアもこういう人だったのかしら。
それなのに、勝手な嫉妬から命を奪ってしまった。
初めて人を殺したという事を後悔した。
現在、ミリーは聖女教会にいる。
変…辺境騎士団や冒険者が魔物討伐をする時に、聖女に付き添いを頼む。
他にも人々の病を癒したりする。それが聖女の仕事だ。
まだ、ミリーは聖女の仕事をしていない。見習中だ。
アフェリーナがミリーの面倒をみてくれている。
力の使い方も教えてくれる。
他の聖女達も優しくて親切にしてくれる。幸せだ。
アルベルトの事が好き。でも、今は‥‥‥
アルベルトは変…辺境騎士団に入団した。
時々、ミリーに会いに来てくれる。
そして、色々とその日の出来事を互いに話して‥‥‥
伯爵家の人々に書く手紙の書き方をアルベルトは教えてくれる。
「字はしっかりと書けるようにしないとな」
「そうだね。私、頑張る。皆に元気だって言いたいもの」
一生懸命、書いて書いて書いて。
ジュリアを殺した事を後悔する日々、でも、その分、人々の役に立って、結界を張って変‥辺境騎士団や冒険者たちが魔物討伐をするお手伝いが出来るように修行を頑張りたい。
いつか人の命が助けられるように頑張りたい。
一人殺すのも二人殺すのも沢山殺すのも一緒だと思っていたけれども。
アルベルトや、伯爵家の皆さん、そして聖女教会のアフェリーナや仲間達の温かさに触れて心から幸せ。
だから、もう私は人を殺したりはしない。




