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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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王子の隠し子を産めと言われた女は騎士見習いの助けを待つ

作者: すじお
掲載日:2025/10/13

「――王子の隠し子を、産みなさい」



 その一言で、私の人生は崩れ落ちた。

 目の前に立つのは、王妃陛下。氷のような瞳をもつ、完璧な王国の母。


 けれどその唇が紡ぐ言葉は、慈愛とは程遠い。


「……王子殿下は、ご結婚されております。私は……そのような――」

「結婚できぬ相手なら、なおよい。あなたのような女なら、黙っていれば済むこと」


 王妃は冷たく言い放った。

 私は震えた。拒んだ。何度も首を振った。

 だが、拒絶の言葉など王宮では意味をなさない。

 夜、私は眠り薬を盛られ、知らぬ間に殿下の寝所に運ばれた。


 翌朝、ぼろぼろになって目を覚ました私の隣で、殿下は何も覚えていない様子で寝息を立てていた。

 私は、ただ泣いた。




 それでも王妃の圧は止まらなかった。


「そんなに男が怖いのなら、閨の練習相手をつけてやろう!」


 怒鳴り声とともに、王妃が連れてきたのは――若い騎士見習いだった。


 褐色の肌、小柄な体、真面目そうな黒い瞳。

 彼は戸惑っていた。「そんなこと、できません」と言った。


 けれど王妃の命令は絶対だった。

 彼もまた、逆らえば家族ごと処罰される立場だったのだ。

 私は泣きながら耐えた。

 そして、数ヶ月後――子を身ごもった。




 産まれた子は、王子殿下には似ても似つかぬ肌の色をしていた。

 当然だ。あの子は、私と騎士見習いの子。

 それを王妃も、わかっていた。


「――あなたが招いた結果よ」


 王妃は、笑った。冷たい笑みだった。


「けがらわしい、浮気性の女だ。殿下の名を汚すような子など、存在しなかったことにして差し上げる」



 私は子を抱きしめた。震えながら頭を下げた。


「この子の責任は、私とその父が取ります。

 ですから、どうか……私たちを平民として外に出してください。王宮には、もう――」


 けれど、王妃の答えは怒号だった。


「私の親切を、あだで返す気か!」

 そして私は、地下牢に幽閉された。




 石の壁、滴る水音、湿った空気。

 赤子の泣き声が、かすかに響く。

 騎士見習いに手紙を託した。

 けれど、返事は来なかった。

 王妃はすでに第二王子を擁立し、華やかな嫁を迎えていた。

 私の存在など、もはや邪魔でしかなかったのだ。


 

――何も悪いことなどしていないのに。


 ただ、平穏に暮らしたかっただけなのに。


 王子が独身であれば、身分にわきまえた暮らしで満足しただろう。だが愛人という身分に甘んじることは、敬虔な一夫一妻の価値観を信じる私にはできなかった     




 今も、私はここにいる。


 誰も来ない牢の中で、日々を数えながら。

 この子は、もう私に笑いかけることを覚えた。

 王妃が私を飼い殺しにしているとも知らず、純粋に笑う。



 あの騎士見習いは、まだどこかで訓練を続けているのだろうか。

 それとも、王妃の命令で、私を忘れさせられたのだろうか。



 私は今も待っている。

 助けが来ることを。

 誰かが、私の声を聞いてくれることを。

 ――この石壁の向こうの、誰かに。

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