ケモ耳尻尾と僕の恋
ボーイズラブです。ケモ耳と尻尾のある子が書きたかっただけです、、、。ハッピーエンド
ケモ耳と尻尾がある、、、。可愛い。え?何の動物かな?狐?フッサフサの尻尾がユラ〜リ、ユラリしている。撫でても良いかな?めちゃ、触りたい、、、。
玄関の先、ちょっと離れた大きな木の下に小さな子供が丸くなって寝ていた。
「ごめんね、ちょっと触らせて下さい」
そっと尻尾を触る。フサっと避ける様に動く。
(はあぁぁぁ、可愛い、、、)
「なにしてんだよ、、、」
ジト目で見られた。ごめんなさい、、、。
「にぃに、、、?」
弟のアンシェルが、僕にしがみついて来る。
「はわわわわぁ〜!モフモフ」
アンシェルは遠慮なく、ケモ耳くんを抱きしめる。
「かーいいねー!」
「やーめーろー!」
ケモ耳くんは、アンシェルと一緒に果物を食べている。よっぽどお腹が空いていたのかな?ゆっくり食べるアンシェルのお皿をチラチラ見ている。可愛い、、、。
「ケモみみくん、たべる?」
アンシェルが言うと
「リュー」
「りゅー?」
ケモ耳くんの尻尾がパタパタ揺れる。
「おれのなまえ、リュー」
「あんしぇる!」
「おまえ、アンシェル?」
「そ!」
はぁ〜、可愛いなぁ、、、。
「リューはどこの子?」
「あっち!」
「誰と住んでるの?」
「にいちゃん」
「他には?」
「にいちゃんだけ」
うちと同じかな?
「果物持って、ご挨拶に行ってもいいかな?」
「くだもの!」
「案内してくれる?」
「おいで!」
「りゅー、まって!ぼくも!」
僕は、籠に果物を入れて2人を追いかける。リューはアンシェルのお兄さんみたいに面倒を見てくれる。頼もしいな。
(アンシェルがまだ小さいから、こっちの方は来た事ないな、、、)
そう思いながら付いて行く。2人の先に、小さな小屋がある。あそこがリューの家かな?リューとアンシェルがどんどん進み、小屋の前まで行くと
「にいちゃーん!」
と叫んでドアを開ける。2人で中に入って行く。
僕はのんびり歩いて行く、小屋の中が賑やかだ
「こんにちは」
開いたドアから中を見る。
(おお!お兄さんもモフモフだ!)
リューと同じケモ耳と大きな尻尾。触りたい、、、。
「にぃに!モフモフ!」
「そうだね、モフモフだね」
「にぃにね、モフモフ、だいすき!」
アンシェルがリューのお兄さんの手を引き、教えている。
「だいすきねー!」
僕の方を見ながら言う。アンシェルが可愛い上に、僕自身は恥ずかしくて、顔が赤くなる。
「これ、お近付きの印に是非」
「わ、こんなにたくさん良いんですか?」
お兄さんの尻尾が嬉しそうに揺れている。
「リューくんも好きみたいなので」
「ありがとうございます」
「僕、マークスです。それから弟のアンシェル」
「俺は、ルーです。少し前に此処に来ました」
「この先に住んでいるので、何かわからない事があったら相談して下さい」
ルーはにっこり微笑んだ。
気が付くとアンシェルとリューがいない。キョロキョロしていると、ルーが
「ああ」
と言って、少し扉の開いた奥の部屋を指差す。2人でそっと扉を開けて中を覗くと、布団の上でアンシェルとリューが抱き合って昼寝をしていた。
「可愛い」
ふふふ、と笑うとルーも
「リューに友達が出来て良かった」
と微笑む。
「お茶、入れますね」
僕達はお互い子育ての悩みを話した。
「リューは食いしん坊で、身体を動かすのが大好きで、、、」
「アンシェルは今もおねしょをしてしまう時があって、なかなか難しいです」
今まで1人で頑張って来たマークスは、ルーにたくさん話しを聞いてもらって嬉しかった。
「そろそろ起こしましょうか?あんまり長く昼寝をして、夜、眠くならないと困るから」
「え、お昼寝の途中で起こした方が良いんですか?僕、いつもアンシェルが起きて来るまで寝かしていました、、、仕事が捗るし、アンシェルも疲れてるのかと思っていたから、、、」
2人で奥の部屋へ向かう。ベッドの横に立つとルーが
「リュー、起きて。アンシェルを起こしてあげて」
リューは寝ぼけながらアンシェルを起こす。
「アンシェル、おきて、、、」
「りゅー、、、だっこ、、、」
と言って両手を広げる。リューは遠慮無くアンシェルを抱きしめて
「おきた?」
と聞く。
マークスは恥ずかしくなってルーに
「なんか、すいません、うちの弟が、、、」
と謝った。
「いえいえ、うちのリューも、、、」
リューの尻尾がユラリユラリ動いている。
*****
アンシェルとリューはすくすく育った。
「アンシェルの瞳は、角度によって金色に見えるね」
それはリューの何気無い一言だった。マークスとアンシェルは金髪に薄い薄い青緑の瞳だった。しかし、アンシェルだけ光の加減で金色に見える時がある。マークスはそれを隠す為に、アンシェルの前髪をいつも長めにしていたのだ。マークスの微妙な変化に気付いたルーは
「大丈夫?」
とマークスの手に、自分の手を重ねた。マークスは不安そうにルーを見つめた。
「リューの瞳は、焦茶だね、、、」
アンシェルはリューの瞳を見ると、どんどん引き込まれる様な気がした。
夜、アンシェルとリューを奥の部屋に寝かせて、マークスとルーは2人でコーヒーを飲む。
「大丈夫?」
「?」
「さっき、リューがアンシェルの瞳の色の話しをした時、、、」
「ルー、、、。君にもアンシェルの瞳が金色に見える時があるの?」
ルーは瞳を閉じて、小さく2回首を縦に振った。
「そうか、、、。あのね、誰にも言わないで欲しいんだ」
マークスは首から下げた指輪を触りながら打ち明けた。
「アンシェルは姉の子供なんだ。姉はアンシェルを産んだ後、身体を壊して亡くなった、、、」
「アンシェルの瞳の金色は、王家にしか出ない色だね?」
マークスは息を吸った。
「ルー、、、どうして知っているの?、、、」
「俺達は第一王子に頼まれて此処に来たんだ」
「頼まれた?」
「俺は、第一王子の幼馴染なんだ。騎士になりたくて、王子の剣の練習を一緒に受けていた。いつも負けてばかりだったけど、、、。王子に、君達を守る様に言われた」
僕の瞳は揺れた、、、。
「姉さんは王子に愛されていたの?」
「そうだよ、今も王子は君のお姉さんを愛してる」
ルーは、葡萄酒を出して来た。
「姉さんは王子の子供を身籠ったんだ、、、。身分差があるから1人で産もうとしていた。出産した時は良かったんだ、でも、その後無理をしたんだろうな、、、身体を壊して亡くなってしまった。アンシェルがまだ3ヶ月位の頃だよ」
「王子は君のお姉さんと結婚したかったんだ。王様の事は何とか説得したそうだけど、王妃様は自分の姪と王子を結婚させたくて反対した。王妃様は君のお姉さんを騙して別れさせたんだ。本当は身分差なんて関係無かった。王妃様がマークスのお姉さんを騙したんだ」
「、、、」
「王子が気付いた時には、君のお姉さんの行方はわからなくてなっていた。王子は必死に探したけど、結局王妃様の姪と結婚させられた。ただ、子供が出来なかったんだ」
2人は葡萄酒を飲んだ。
「王子は、君のお姉さんが妊娠していたかも知れないと考えた。王妃様がそれに気付いたら、子供を奪って来るかも知れない。でも、王子は君達を巻き込みたく無かった。だから、俺を君の元に置いたんだ」
「ルー、、、」
「俺は君達を守るよ。だって、君は俺の大切な人だもの」
ルーが微笑む。
「どうして、ルーが来たの?」
「リューが生まれた後、両親が病気で亡くなったんだ。リューと2人きりで生活するのは大変だった。リューは歩き始めたばかりで目が離せないし、でも働かなければならなかった。王子がそれならとマークスの護衛にしてくれた。此処は静かな所だから、リューを育てながら君達を守る様に言われたんだ」
「ルーも大変だったんだね、、、」
ルーがふふっと笑った。
「大変だったと思う?君に会って、君と恋をして、俺ばかり幸せになって、王子に羨ましがられたよ」
「ルー、、、」
「本当だよ。恋をしたら強くなるからね。君とアンシェルを守る最高の騎士だと、褒められたんだ」
「ありがとう、ルー、、、」
マークスはお礼を言いながら、ルーを抱きしめた。
*****
アンシェルは、遠くに、馬に乗った騎士を見つけた。こんな所では珍しい事だった。
「リュー、見て。騎士様がいるよ!」
リューは遠くに見える騎士を見つけると
「アンシェル、帰るぞ」
とアンシェルの手を握る。今日に限って、いつもより遠くに来てしまった。失敗だ。騎士に見つからない様に、出来るだけ安全なルートで帰る。騎士が小屋を見つけたみたいだ。馬を走らせ、小屋の方へ行く。リューは走るのをやめた。騎士が馬から降りて小屋に近づく、ルーが居れば心配ない。アンシェルとリューは用心しながら小屋に戻る。あんまり近づくと見つかってしまうから、少し離れた場所から様子を伺う。
フッと後ろから影が出来て、リューは振り向く。騎士が1人立っていた。別の騎士だった。騎士が右手を伸ばして、アンシェルを捕まえようとする。
「やめろっ!」
リューが間に入る。騎士が反対の手でリューを払い除けた。
「リューッ!」
騎士の手がもう一度伸びて、アンシェルを捕まえる。
「やっ!やめて!リュー!リュー!!」
リューは払い除けられた反動で、地面に思い切り背中をぶつけた、頭を降り、集中する。立ち上がり、アンシェルを掴んだ腕に蹴りを入れる。小屋の方がまだ騒がしい。騎士がもう一度、リューを払い除け、アンシェルを腰に抱える。アンシェルは逃げようと踠く。
「リューッ!」
ルーの声が聞こえて、後ろを振り向くとタイミング良くリューの剣が飛んで来た。リューは片手で剣を掴むとそのままの流れで騎士の腕を切り付ける。アンシェルは目をギュッと瞑り、騎士の腕が緩むと急いで逃げた。
「アンシェル!おいで!」
ルーに呼ばれて、慌ててルーの元に走る。ルーがアンシェルを抱きしめて、リューを見せない様にする。
ドサリッと重たいものが落ちる音がして、リューの荒い息遣いがする。ハァ、ハァと息をしながらアンシェルに近づく。
「アンシェル、大丈夫だった?」
アンシェルは両手を伸ばしてリューにしがみついた。
「リュー、リュー、、、」
リューはアンシェルを抱きしめて、ルーを見る。
「大丈夫だ」
ルーが言うと、3人で小屋の方へ歩いて行った。入り口にマークスが立っていた。青い顔をしていた。
「今日は、あっちの小屋に移ろう」
ルーが言う。あっちの小屋とはルーとリューが住んでいた小屋の事だ。最近では、マークスとアンシェルが住んでいる小屋に4人で住んでいた。今は、騎士の亡き骸が1体ある。マークスの家はルー達の家より大分広かった。リビングの他に2部屋ある。ルー達の家は、リビングとキッチンを除けば1部屋だけだった。ルーはマークスをリビングのソファに座らせた。リューの様子を見に行くと、アンシェルがリューと離れたがらず困っていた。
「アンシェル、血が付くからリューの着替えを出してあげて?」
アンシェルが急いで服を選ぶ。その間に騎士の血が付いた服を脱ぐ。ルーも着替えを済ませた。ルーは、リューの汚れた服を受け取り
「あっちの小屋を片付けて来るから、2人を頼んだよ」
リューはコクリとうなづく。ルーが部屋を出ると、マークスと話す声が聞こえて来た。
「でも」
とか
「僕も」
と話している。ルーが戻って来て
「マークスも連れて行くから、戸締りをしっかりしてね」
リューはルー達が小屋を出て行くと、鍵を掛けた。
アンシェルはリューから離れようとしない。リューはアンシェルの手を握りベッドに乗る。2人で横になり、ギュッと抱きしめる。アンシェルは怖かったのかシクシクと泣き出した。リューは、アンシェルを抱きしめて、フサフサの尻尾で撫でる。暫くすると、アンシェルの呼吸が聞こえて来た、顔を覗くとスヤスヤと寝ていた。
「怖かったね、アンシェル。でも、俺が絶対守るから、、、」
そう言いながら、リューもウトウトしていた。
朝、目が覚めて、リューは朝食の準備をする音に気付いた。ルーが戻って来ている。リューがキッチンに行こうとすると、アンシェルが尻尾にしがみついていた。そっと、アンシェルから抜け出して、アンシェルの頭を撫でる。音を立てない様にベッドを降りてキッチンに行く。リビングのソファでマークスが寝ていた。
リューはルーの横に立ち、朝食の準備を手伝う。騎士達の亡き骸をどうしたか聞き、マークス達の家の状態も聞いた。床の木が騎士の血を吸ってしまったから、街にペンキを買いに行こうと考えている話しをした。
マークスが目を覚まして、アンシェルの様子を見に行く。2人でキッチンに入って来るとルーが
「おはよう」
と挨拶をした。
「リュー、リュー、、、」
アンシェルはリューから離れない。リューの腕をしっかりと組む。リューはアンシェルを尻尾で撫でた。アンシェルは外で、何かが倒れた音がするだけで、ビクビクしている。街に行くのは無理かも知れない。
「アンシェル、街に買い物に行くけど、一緒に行ける?」
リューが聞くと
「リューも行くの?」
と聞いて来る。
「行くよ」
「リューの服も小さくなって来たから、服と靴も買わないといけないね。朝から行って、お昼を食べて、ゆっくり遊んで来ようか」
ルーが言うと
「アンシェルも洋服、欲しいかい?」
とマークスが聞く。
アンシェルがリューを見ると、尻尾がユラリユラリ動いている。
「みんなで行くの?」
「もちろん。馬に荷台を繋げて行こうか?」
いつもと違う計画で、アンシェルもワクワクして来た。
朝食を食べて、準備をする。ルーとマークスが馬に荷台を付けて2人を呼ぶ。アンシェルとリューが枕と布団を持って行くと言い出し、荷台に乗せる。途中で食べる果物と水も乗せて、ルーとマークスは前に座る。馬がゆっくりと走りだすと、アンシェルとリューは布団と枕を広げて、荷台の上に寝転ぶ。天気が良くて良かった。空は優しい水色で、雲は透ける様な白だった。アンシェルとリューはずっと布団の上でゴロゴロしていた。
街に着くと、まずペンキを探した。何色が良いか悩んで、結局床の木の色に近いものにした。それから4人の洋服と靴を見た。あまり衣料品を買わないから、まとめて買う事にする。お昼になり、リューがお腹が空いたと言い出すと、持ち帰り出来るパンを買った。リューとルーは肉と野菜がたっぷり入ったパンで、マークスとアンシェルはチーズがたくさん入ったパンにした。それを持ち帰り、馬車の上で食べる。マークスはルーと、アンシェルはリューとパンを半分ずつ交換して、みんなで2種類食べた。午後は足りない調味料や食材を買う。帰る前におやつを食べようとお店を回った。ハチミツがたっぶり掛かったフレンチトーストを見つけて、みんなで食べる。アンシェルも少し落ち着いて来た様で、リューは安心した。
帰りの馬車で、アンシェルとリューは布団の上で昼寝をしてしまった。リューの尻尾を掛け布団のようにしている。昨日の事と、今日街に行った疲れが出ているだろうから、そのまま寝かせておいた。
「マークスも疲れただろう?後ろで寝て来ても良いよ」
昨晩、マークスとルーは騎士の亡き骸を森の中に運んで、穴を掘って埋めた。最初はルーが1人で行くつもりだったが、マークスも一緒に行くと譲らなかった。出来れば、マークスの手を汚す事はさせたくなかったけど、結局2人で始末をした。
小屋の前に馬が繋がれていた。マークスは昨日の事を思い出して、ギクリとした。
ルーが馬車をマークスの家の入り口に付ける。
「この馬は大丈夫だよ」
と言いながら、扉を開ける。フードで顔を隠した人物が振り返る。
「ルー、、、」
「大丈夫ですよ、王子。それは、王妃様の騎士の血ですから」
王子はホッとした。
「こちらはまだ汚れていますから、狭いですが、あちらの俺達の家に行きましょう」
ルーは、馬車に戻り先導する。アンシェルもリューも目を覚まし、見知らぬ人物を見つけると緊張した。
「アンシェル、リュー、大丈夫だからね」
とルーが言うと、少し安心した。
荷台を外し、ルーはアンシェルとリューに
「馬も疲れたから、新しい餌と水をあげてね。リンゴを一つ上げてもいいよ」
と言うと、マークスと王子と3人で小屋に入った。
*****
ルーはお茶を入れる。マークスは相手が王子と聞いて緊張していた。
「急にどうしたんですか?王子」
「一度、どうしても会いたかったんだ」
王子は泣きそうな顔をしていた。
「君が、アンジェの弟だね?」
「はい、、、」
「私の所為で、申し訳ない事をした」
「貴方の所為ではありません。姉は幸せでしたし、、、」
本当にそうだった。アンジェは相手が王子だと知った時から、結婚を諦めていた。しかし、子供が出来た時、1人でも産もうと考えた。アンシェルが生まれた時も、それはそれは喜んだ。だが、出産時は異常なかったものの、徐々に体力が衰え、幼いアンシェルを残して亡くなってしまった。
「アンシェルと話しをしますか?」
「叶う事なら、、、」
「今、呼んで来ますね」
そう言って席を立つ。小屋を出て、アンシェルを連れて戻る。アンシェルはマークスにしがみついたまま
「はじめまして」
と挨拶をする。どこかアンジェに似ている。柔らかな髪と白い肌、上目遣いでジッと見る仕草。王子は涙が出そうになる。
「はじめまして」
王子が挨拶をする。
「毎日、楽しいかい?」
「楽しいです」
答えながらマークスの顔を見る。マークスはニッコリ笑う。アンシェルはリューが側にいない事が不安でリューを探す。王子はふふふと笑うと
「遊びに行っておいで」
と言う。アンシェルは嬉しそうに走り出す。
「すみません、、、」
マークスが謝ると、王子は
「可愛い子だ、、、」
としみじみ言う。バタバタバタと足音が聞こえたかと思うと、アンシェルがリューを連れて来た。
「リューです!リューもあいさつして!」
リューは一瞬イヤそうな顔をした。尻尾も下がり気味だ。
「リューです」
「ルーの弟だね?」
「知ってるの?!」
アンシェルが嬉しそうな顔になる。リューはルーの顔を見る。ルーは、口パクで
(お、う、じ、だ、よ)
と言う。リューが少し目を見開く。尻尾がフワリと揺れる。アンシェルは、彼が王子だと知らないみたいだ。
「2人は仲良しなの?」
王子が優しく聞く
「僕達、にいさんとルーみたいに結婚するんです!」
王子は見開いた目で、ルーとマークスを見た。ルーは知らんふりをした。マークスは、アンシェルとリューを見る。リューはアンシェルを見つめる。アンシェルは
「ダメなの?」
と、みんなを見た。
アンシェルが疲れて寝た後、王子がマークスに言った。
「ルーとリューが君達を守ってくれるから安心して欲しい。それから、、、」
と言って、袋に入った金貨を渡した。
「何かあったら、遠慮無く使ってくれ。、、、本当は、アンシェルに父親だと名乗りたいが、アンシェルも知らない方が良いだろう、、、」
寂しそうに笑う。
「アンジェの話しが聞けて良かった、、、。リューも、アンシェルの事を頼むよ」
王子がリューの頭を撫でると、尻尾をユラユラゆらした。
王子は最後にアンシェルの寝顔を見に行った。ベッドの端に腰を掛け、我が子を撫でる。王妃の姪と結婚させられたと言え、憎んでいる訳ではない。彼女もある意味犠牲者なのだ。彼女との間に、王子と王女が生まれればアンシェルも安心して暮らせる。彼女との子供の事を、真剣に考えてようと思った。
*****
「ねぇ、アンシェル」
「なぁに?」
ペンキを塗りながら話し掛ける。
「俺達、結婚するの?」
リューの尻尾がフワフワと揺れている。
「結婚するよ」
「そっか、結婚するんだ」
尻尾が嬉しそうに、大きく揺れる。
「リューはいつしたい?」
「俺はいつでもしたいよ」
「ホント?!」
「じゃあさ、今日しようよ!」
マークスとルーが顔を見合わせる。
「あのね、お二人さん、、、結婚は大人になってからじゃないと出来ないよ」
「え!」
「え!」
二人で声を合わせて言う。
「ちぇ〜、、、」
「残念だね、、、」
「そしたらさ、、、」
アンシェルとリューが、頭をくっつけながら何やら話している。
マークスとルーはイヤな予感しかしなかった。
4人で晩御飯を食べている間も、二人は目配せをしたり、クスクス笑い合っていた。食事が終わると、いつも4人でゆっくりするのに、アンシェルとリューはサッサと部屋に入って行った。マークスとアンシェルの家はペンキを塗ったばかりなので、今日はまだルーとリューの家に泊まる。マークスとルーは二人の事が気になって、部屋のドアを音が立たない様に小さく開けた。
部屋の灯りを枕元の蝋燭一つにしている。アンシェルがシーツを頭から被り、厳かな雰囲気を出している。リューの尻尾が嬉しそうにパタパタと揺れる。
「今から、婚約式をします」
リューが言う。
「はい」
アンシェルが答える。
「病める時も 健やかなる時も、富める時も 貧しき時も、妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい」
「では、これで二人の婚約式を終わります」
「誓いのキスは?」
「え?」
「誓いのキスをしないとダメでしょ?」
アンシェルが目を瞑る。リューがオロオロしながら、アンシェルの肩に手を置く。緊張しながら、アンシェルの頬にキスをする。
「もぉ!違うでしょ?こっちだよ!」
アンシェルがリューの唇にキスをした。
「、、、ホント、すいません。うちの弟が、、、」
マークスは申し訳なさそうに謝る。
「いや、うちの弟も不甲斐無くてすいません、、、」
「ダメだよアンシェル!赤ちゃんが出来ちゃうよ!」
「え?」
「え?」
「え?」
「リュー、口にキスしたら赤ちゃん出来るの?」
「そうだよ、だから大人になるまでしちゃいけないんだよ!」
アンシェルはそっとお腹を摩る。
「赤ちゃん出来たかな?」
ドアの向こうでマークスとルーが笑う。
「アンシェルとリューにちゃんと教えてあげないと、、、。赤ちゃんはコウノトリが運んで来るって、、、」
マークスがクスクス笑いながら言うと
「じゃあ、僕達にも赤ちゃん運んでもらわないと、、、」
ルーが尻尾を大きく振りながら、マークスに大人のキスをした。
*****
リューは自分がモテる事を知らない。アンシェルは最近イライラしてばかりだった。
「ねぇ、何を怒ってるんだよ、、、」
「知らないよ。あっちに行って!」
リューの尻尾がしょんぼりと下に下がる。アンシェルは自分でも自分の感情がイヤになる。リューの事が好きなのに、素直になれない。本当は子供の時みたいに一緒の布団で寝たいし、手も繋ぎたい。抱きしめたいと思うし、抱きしめられたい。でも、もう子供の頃の様に素直に言葉に出来ない。理由は自分でもわからない、、、。自分の感情に振り回されて、くたびれていた。
ルーとマークスがそれを見て、やれやれと思う。二人とも好き合っているのに、上手くいっていない。どうしたら良いのか、、、。
「アンシェル、リュー。俺達、あっちの家に引っ越すよ」
「え?」
あっちの家とは、ルーとリューが住んでいた家だ。
「どうして?」
「大人4人で住むと狭いだろ?」
「だからって、、、」
リューが言う。耳と尻尾が下を向く。アンシェルは
(リューは僕と二人きりになりたくないんだ)
と思うとまたイライラし始めた。
「僕はどっちでもいいよ。決まったら教えて、、、」
そう言うと、家を出た。
初めてリューにイライラしたのは、リューが女の子と話しをしている時だった。女の子もケモ耳と細くて長い尻尾があった。それまで、リューが女の子と二人でいる所を見た事が無かったし、二人がすごくお似合いに見えた。
街に買い物に行くと、リューはよく女の子に話し掛けられる。道を聞かれたり、一緒にお茶をしないかとかそんな感じだ。リューはその度に丁寧に対応する。一度は手紙を貰い返事に困っていた。
アンシェルは散歩をしながらリュー達の家に向かう。鍵を開けて中に入る。定期的に掃除をしてあるから綺麗だった。窓を開けて、空気を入れ替えた。食べ物は置いて無いけど、お茶のセットは置いてある。お湯を沸かして、椅子に座るとため息が出た。リューはアンシェルより先に仕事を見つけた。アンシェルはやりたい事も見つけていない。
(だって、、、ずっとリューのお嫁さんになるつもりだったんだもん、、、)
もし、リューが知らない女の子を連れて来て
「彼女と結婚したい」
と言って、此処を出て行ったらどうしよう、、、。不安になるクセに、素直になれない。
お湯が沸き、紅茶を淹れる。棚にラム酒の小さな瓶を見つけて紅茶に垂らす。子供の頃に飲んでいた紅茶と違い、大人の香りがする。
(リューの事、諦めないといけないのかな、、、)
テーブルに頬杖を付き、遠くを眺める。
知らない馬車が家の方に行く。小さな馬車だった。乗ってる女の子に見覚えがある。リューと仲の良い子だ。
(リューはあの子と結婚するのかな、、、)
何と無く思う。
(まぁ、いいや、、、。どうせ、僕なんて、、、)
紅茶がどんどん冷めていく。アンシェルは窓の外をいつまでも眺めていた。風に揺られる木々や葉っぱ、地面から生える草が風になびく、空に浮かぶ雲がいつもより早く流れている。紅茶を飲み干して、窓を閉める。早く帰らないと雨が降るかも、と思いながら全てが面倒臭いと思った。
子供の頃にリューと二人で寝ていたベッド、、、(こんなに小さかったかな?)
と思いながら横になる。
(あの子は何で来たんだろう、、、)
辺りが暗くなって来た。
(雨が降る前に帰らないと)
そう思って、紅茶を飲んだカップを洗う。玄関の鍵を掛けて家に戻る。遠くで雷が鳴っている、空が真っ暗になって来た。後少しと言う所で雨が降り始めて、あっと言う間に本降りになった。走った所で変わらない、アンシェルは歩いて帰る。
玄関を開けると彼女とリューがいた。
「アンシェル、大丈夫?ほら、こんなに雨が降ってる中帰るなんて危険だから、ね?。今日は泊まっていって」
(なんだ、彼女を引き止めてるのか、、、)
そう思ったら、何だか此処にいたくなくなった。
「兄さん、、、向こうの家、窓開けて来ちゃった、、、。今から行って、そのまま泊まるよ」
「アンシェル、、、行くなら、何か食べ物を持って行かないと、向こうは何もないだろ?」
「いいよ、いらない。窓、全開だから早く行かないと、、、」
「、、、わかった。無理しないで、雨が止んでから帰って来なさい」
「うん」
リューはまだ彼女と押し問答をしていた。
ポケットの鍵を確認して、家を出る。さっきは歩きだったのに、今度は全力で走った。どうせ、びしょ濡れで走っても変わらないのに、走らずにはいられなかった。リューが自分より彼女に構っているのがイヤだった。肩で息をしながら、濡れたシャツで涙を拭く。玄関の鍵を開けて中に入る。誰も入って来られないように鍵を掛ける。服がグッショリ濡れているので、全部脱いでタオルを取りに行く。ポロポロ悔し涙が出る。誰もいないから思いっきり泣いてやれ。乾いたタオルである程度拭いてから、別のタオルを濡らして身体を拭く。涙は拭いても拭いても流れて来る。しまってある服を出して着ると、少し落ち着いた。灯りを付ける気にもならない。
「何だよ、リューのやつ。彼女ばっかり気にして、、、」
自分の意地悪な態度は棚に上げ、リューの事を非難する。
玄関に脱ぎ散らかした服を洗い、出来る限り絞って部屋の隅に干す。絞りきれない水が滴り落ちていたけど、仕方がない。身体が冷えたみたいで寒気がする。取り敢えず布団に入り、丸まって寝た。
夜中に目が覚めた。リューが一緒の布団で寝てた。
(あったかい、、、)
リューは僕を温めるみたいに抱いてくれていた。リューの匂いと温もりでまた眠たくなって来た。
リューの手が僕の額を触っている。僕は目を覚ましてリューを見る。
「おはよう」
リューの耳が下がる。
「ごめん、今、布団から出るね」
僕は寝起きで思考がのんびりしているみたいだった。
「なんで?」
「だって、イヤでしょ?」
「イヤじゃ無いけど、、、」
布団の中でリューの尻尾が動く。
「彼女は?」
「昨日、雨が止んでから帰ったよ」
「いつ止んだの?」
「結構早かった。1時間位かな?」
「知らなかった、、、」
「アンシェルが、雨の中こっちに行ったって聞いて、びっくりしたよ」
「うん、昼間来た時に窓を閉め忘れた気がして。まぁ、閉まっていたから助かったけど」
僕は嘘をついて誤魔化した。
「アンシェル?」
僕はリューの瞳を見る。
「ここで誓った事覚えてる?」
「病める時も 健やかなる時も、、、ってやつ?覚えてるよ」
「俺達2人きりでやった婚約式、あれって有効なの?」
「有効?」
「もしかして、もう無効かな、、、?って」
(彼女が、、、。リューに彼女が出来たのかな?だから、あの婚約式を無効にしたいのかな?)
「どうして?」
「アンシェル、いつも怒ってばかりだから、、、。もう、俺の事嫌いなのかなって、、、」
あ、、、耳が、、、。
「リューは彼女が出来たから、無効にしたいの?」
「俺に彼女なんていないよ」
「でも、リューはモテるから」
「???モテないよ?」
「リューが気付いて無いだけだよ。街に行けば女の子によく声を掛けられるし、手紙はもらうし、昨日だって家まで来てたよね?」
「道聞かれたり、時間潰しの相手とかだよ?手紙は確かに1回もらったけど、、、」
「昨日の子は?」
「あの子は、、、あの子はさ、、、。俺の大事な」
リューが尻尾を大きくブンブン振っている。耳は恥ずかしそうに下を向いてるし、顔まで真っ赤だ、、、。
「彼女?」
「だからいないって!」
耳まで立たせて怒られた、、、。
「アンシェル、あの約束は有効で良いんだよね?」
「リューがそれで良いなら、、、」
「アンシェルの気持ちを聞いてるんだよ。まだ俺の事好き?」
「うん、、、好き」
「じゃ、家に帰ろう!」
帰り道、リューの尻尾はご機嫌になっていた。でも、僕はリューから好きって言われてない、、。
家に帰ると、ルーとマークスが朝食を食べていた。
「2人も食べる?今、準備するよ」
アンシェルは昨日のお昼から何も食べて無い事を思い出した。ルーが朝食を2人分作ってくれる間、リューの尻尾がフサリフサリと大きく揺れる。
「リュー、どうしたの?」
マークスが尻尾を見ながら聞く。
「ご飯食べたらね」
尻尾が大きくクルリって回る。マークスはルーの方を見る。ルーは朝食2人分を運びながら
「お待たせ」
と笑った。
朝食の後の紅茶を飲んでいると、リューが
「ルーとマークスの前で婚約式をしたいんだ、、、」
と言い出した。ルーとマークスは顔を見合わせていた。
(2人きりでやってたよね、、、?)
(???)
「ルーとマークスに証人になって貰いたいんだ」
リューがポケットから小さな箱を取り出す。
「あのね、昨日出来たんだ」
「昨日?」
「ああ、あの子!」
マークスが気付いた。
「あの子はね、お家がアクセサリーとか作って売ってるお店なんだ。それで、頼んで作って貰った」
尻尾がパタパタ揺れてる。リューはめちゃくちゃ嬉しい事がバレないように、冷静なフリをして指輪を持ち上げる。そして、僕の指にはめると
「ほら、ピッタリ」
顔は冷静なのに、尻尾がめちゃくちゃ興奮している。
「俺がデザインした指輪だよ」
金色の細い指輪、僕の瞳の色の小さな石が使ってある。
「これを使って、ルーとマークスに見届けて貰って、本当の婚約式をしたいんだ」
「リュー、、、」
「もちろん、アンシェルが俺と結婚したかったらの話しだけど、、、」
リューの耳と尻尾が不安そうに下がる、、、。
「リュー、ごめんね、最近僕、意地悪だった。どうしてかわからないけど、リューにイライラしてた。でも好きだよ!ホントだよ!」
リューはルーとマークスの方を見て、
「証人になってくれる?」
て聞く。
「婚約式なんてしないで、結婚式で良いと思うけど」
ルーが言うと
「そうだね、リューだって働いているし、2人でやっていけるでしょ?」
リューは尻尾を嬉しそうに振る。
「いいの?」
「2人が本気ならね」
リューは僕の顔を見る。
「よろしくね」
リューが僕を抱きしめて
「幸せになろうね!」と言った。
結婚式は、神父さんと、見届け人のルーとマークス、後リューと僕の4人だけ。神父さんは遠い所から来てくれた。
「ルー、、、あれって、、、」
「うん、王様」
「やっぱり、、、。ルーが呼んだの?」
「違うよ。近況報告に書いたら、神父役で出たいって。式が終わったらすぐ帰るらしいよ」
神父さんは最初から泣いていた。
「新郎リュー、あなたはここにいるアンシェルを病める時も 健やかなる時も富める時も 貧しき時も妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
リューの尻尾がめちゃくちゃ喜んでる、、、。
ルーは笑いたいのを我慢した。
「新婦アンシェル、あなたはここにいるリューを病める時も 健やかなる時も富める時も 貧しき時も夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「では、指輪の交換と誓いのキスをして下さい」
結婚式をする事になって、急遽、同じ指輪を作って貰った。リューがアンシェルに指輪をはめる。アンシェルが緊張しながら指輪をはめる。リューがアンシェルの頬に両手を添えて、誓いのキスを唇にする。唇が離れて、アンシェルとリューはお互いにふふふと笑う。神父さんが、本当に嬉しそうに微笑んで
「おめでとう」
と言ってくれた。
「今度こそ、赤ちゃん出来ると良いな」
ルーとマークスは笑いを堪え、神父さんは目を見張り、リューは尻尾をクルリと回した。
尻尾、モフりたいです。