『十日間で火星へ』第一部:軌道カタパルト計画発動 第十七節:「選ばれし者たち――火星クルーの誕生」
1.**人材選抜――各国からの推薦と試練**
クルラトゥールの選抜本部には、各国から推薦された百名以上の志願者が集まった。
医療・工学・科学・運用・語学――あらゆる分野のエリート。
面接官は、アルノー(仏)、アリア(日本)、リー(中国)、メアリー(米国)、アミナ(エジプト)ら。
体力テストでは、重力シミュレーターに志願者が次々と挑む。
回転する遠心カプセルの中、汗が頬を伝う。
「次!」「加速度、もう一段!」
疲労困憊でも誰もリタイアしない。
知能・科学試験では、越前数列による即興の軌道計算が出題される。
西山とリディアが観察しながら記録する。
「この複雑な補正式を即座に読み解いた……見事です。」
精神適性試験では、“無通信状態48時間”の閉鎖ブースでの生活が課される。
サミュエルが静かに記す。
「孤独や不安への耐性は、技術以上に重要だ。」
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2.**訓練の日々――団結と競争**
最終選抜に残った十数名が、台地に設けられた実験基地で共同訓練に臨む。
* 仮想火星基地での生存訓練(資材組立・水再生・空気監視・事故対応)
* 模擬宇宙服での屋外作業(気温マイナス30度の中、六時間連続作業)
* 英語・ロシア語・中国語・アラビア語による「相互教練」
朝の点呼で、アミナが号令をかける。
「今日の班長はピエール、衛生はエリック、作業指揮は西山!」
チームは国籍を超え、分野も超えて協力し始める。
夜には仮設ベッドで肩を並べ、
「今日も誰もケンカしなかったな」「いや、リディアのロシア料理の塩加減には皆やられた」
と笑い合う。
時には訓練で事故寸前まで追い詰められる。
パラシュート展開訓練で失敗したピエールを、エリックが支える。
「ミスはここで全部出せ。本番は皆でカバーする。」
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3.**選抜されたクルー――未来を背負う顔**
最終日に発表された火星初飛行クルーの名。
* **アリア・キサラギ(日本/船長・技術)**
* **リー・チョン(中国/航法・設計)**
* **エリック・マイヤーズ(米国/整備・電子)**
* **アミナ・アブデルラザク(エジプト/生命維持・外部作業)**
* **ピエール・モロー(フランス/実験・記録)**
* **リディア・イワノワ(ロシア/資材・基地設営)**
発表直後、サミュエルが全員に語りかける。
「あなたたちが選ばれたのは、力や知恵だけでなく、“誰かのために動く心”があったからです。」
アリアは、静かにクルー全員と握手を交わす。
「我々は一人きりで火星に行くのではない。
今ここにいない仲間、家族、現場のすべての手を背負っている。」
夕暮れの訓練場、クルーは肩を並べ、空を仰ぐ。
火星へ続く道が、今、彼らの前に静かに広がっていた。
次はクルーの家族への手紙を各国語で、そして日本語翻訳です。




