『十日間で火星へ』第一部:軌道カタパルト計画発動 第十四節:「試運転の日――火星カプセルを夢見て」
ここからは**カタパルトの試運転・実行テストの描写**、
そしてその傍らで**火星カプセルの試作チーム**がデータ解析や改良に取り組む様子――
二つの最前線の熱気と静けさ、科学的な手応えや緊張感、チーム間の連携と対話を中心に描写します。
冬の空気が澄み渡る早朝、クルラトゥール台地に警笛が鳴り響く。
完成したばかりの黒川式カタパルト、その第一回目の“全速試運転”が始まるのだ。
蒸気タービンが低く唸り、巨大な発射台のレール上には**実験用の無人カプセル**が据えられている。
各国の技師や研究者が観測機材を片手に集まり、作業服の背に霜が光る。
発射制御室――
主任技師アルノーが緊張した面持ちでカウントダウンを告げる。
「発射まで、10秒前――」
アリア・キサラギが記録係に指示を飛ばす。
「全データチャンネル、リアルタイムで記録開始!」
0秒。
一瞬の静寂の後、レール全体が唸り、
カプセルが轟音と共に滑走――
ずか数秒で台地の端まで到達し、遠くに姿を消す。
現場には歓声と拍手が湧き上がる。
一方、静かな一角では、火星カプセル試作チームが膝を突き合わせ、
各自のノートパソコンや解析機材に目を凝らしていた。
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### 火星カプセル試作チーム――その小さな会議
仮設テント内。
チームリーダーの\*\*リー・チョン(中国人設計士)\*\*が加速度波形をモニタに映し出す。
「振動値、予想より低い。初期減衰材の組成が効いているな。」
横で\*\*エリック(米国人若手技師)\*\*がうなずく。
「サイドパネルの剛性テストも合格。けど、データポートの一つがノイズを拾ってる。配線を見直そう。」
\*\*西山(日本人技師)\*\*が手帳にメモをとりながら尋ねる。
「加速度ピークが目標値の9割。火星本番カプセルにはさらに安全マージンが必要だ。」
\*\*アミナ(エジプト・溶接工)\*\*が現物カプセルのフレームに手を当てる。
「この溶接法なら、熱歪みも最小。火星の極寒にも耐える設計に近づいてきた。」
リーが全員に目を向ける。
「次のテストには、減速パラシュートと耐熱シールドの新型も組み込もう。
同時に、データ送信系の冗長化――エリック、君がリーダーだ。」
遠くで再び発射の轟音。
テントの外では、アルノーとアリアが笑顔で握手を交わしている。
エリックは微笑んで言う。
「最初は一台の鉄の塊だったのに、今や“星を渡る舟”に近づいてきた。」
西山が小声でつぶやく。
「現場の汗と、研究室の知恵――どちらが欠けても、この夢は成り立たない。」
アミナが祈るようにカプセルの外板を撫でる。
「この舟が火星に届くその日まで、私たちは何度でも、挑戦する。」
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