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『十日間で火星へ』第一部:軌道カタパルト計画発動 第十節:「橋の上の人生――多彩なる手と声と」

### 1.**新たな登場人物――アミナ・アブデルラザク(エジプト出身の女性溶接工)**


アミナはアフリカ系初の女性溶接工として現場に加わる。

夜明けの台地に、彼女の歌うアラビア語の労働歌が響く。

最初は珍しがられていたが、その技術と根気に皆が感心し、やがて“アミナに任せれば鉄骨が泣かない”と評判に。


「遠いナイルでも、道は毎朝の一打から始まるのよ」と彼女は語る。

朝礼で彼女の祈りの所作が話題になり、リディアや村井も自然と手を合わせるようになった。


---


### 2.**家族の手紙往復――リディアと故郷ロシアの母**


> 親愛なる母へ

>

> あなたの故郷から遠く離れた異国の台地で、私は日々“新しい家族”を見つけています。

> 日本の村井さんは私の父のようで、アミナは姉のようです。

> 今は世界中の人々と力を合わせ、一つの橋を架けています。

>

> いつか、この橋の上をあなたと歩きたい。その日まで無事を祈っていてください。

>

> 愛をこめて リディア


> リディアへ

>

> あなたの手紙を読んで涙がこぼれました。遠い台地の娘よ、毎晩祈っています。

> 国も言葉も違っても、誇りは同じ。心を大切にして、皆と支え合いなさい。

>

> あなたの母より


---


### 3.**現場での“黒川語録”談義**


昼休み、村井がぼろぼろの手帳を広げて、アミナやピエール、西山たちに声をかける。

「黒川殿はな、昔こう言ったそうだ――“一人の勇気より、百人の知恵で道は開ける”」


アミナが手を挙げる。

「百人の知恵は百の国から来るのね。今日も私たちはその一人。」


ピエールが照れ隠しに笑う。

「百の知恵があれば、今日のランチももっと旨かったかも。」


皆が笑い、重苦しい現場にやわらかな風が吹き込む。

---


### 4.**突発事故と奇跡的解決――国境を越えた連携**


午後、クレーンのワイヤーが突然軋みを上げて切れかける。

現場が一瞬静まり返るが、アミナがいち早く応急溶接に飛び込む。

西山が合図を送り、リディアとピエールが手早く代替ケーブルを運ぶ。

村井が全体を指揮し、英語・ロシア語・日本語・アラビア語が入り混じる。


アミナの手で溶接が完了すると、皆が拍手し、

「言葉は違えど、火花は一つ!」

という声が上がる。


---


### 5.**未来を語る夜の語らい**


夜、作業終わりに数人が簡素な焚き火を囲む。

星空の下で村井が黒川語録を静かに読む。

「“この道が未来を渡す舟となれ”――そんな夢を見て、黒川殿もきっと一人で悩んだはずだ。」


西山が小さくつぶやく。

「もし彼が今ここにいたら、何と言うだろう?」


アミナは薪をくべながら答える。

「“恐れるな、手を合わせよ、そして道を造れ”――たぶん、そう言うと思う。」


リディアがみんなの顔を見回す。

「私たちも、きっと百年後の誰かに勇気を送っているのね。」


ピエールが笑い、エリックが頷き、村井が空を見上げる。

「今夜の星は特別明るいな……あれは、黒川殿のエールだろう。」



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