賀茂 清之助 外伝 第三話:試作爆発、そして立ち上がる
第三話:試作爆発、そして立ち上がる
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蒸気機関――。
それは黒川真秀が持ち込んだ、“未来”の象徴だった。
賀茂 清之助は、図面を壁に張り出し、
夜な夜な火を起こし、鉄を打ち、鍛冶場に寝泊まりして試作を繰り返した。
最初の問題は、**「密閉された容器に水を封じ、火で加熱して、蒸気で動力を生む」**という原理そのものにあった。
火に強く、圧にも耐える鉄の筒。
圧力を調整する弁。
そして、蒸気を動きに変えるピストン――
「……まるで“鉄の化け物”だな、こりゃ」
清之助は笑いながらも、鍛冶場の空気が日に日に変わっていくのを感じていた。
これまで作ってきたのは、人が使う“道具”だった。
だが、今打っているのは、“人を超えた力”を動かすための**“意思を持つ鉄”**だった。
やがて、試作第一号が完成する。
手押し車ほどの大きさ。細い鉄の管が絡まり、真秀の指示通りの構造を模した。
その日、鍛冶場には黒川真秀、如月千早、斎藤友継が立ち会っていた。
「いよいよですね、清之助殿」
「止めるなら今のうちだぞ、真秀様。……爆ぜても文句言うなよ」
「期待しています」
火床に点火。
水が熱せられ、ボイラーの内部がふつふつと音を立て始める。
ピストン室が震え、鉄の管が膨張していく。
千早が身を引き、友継が刀に手をかけた。
そのとき――
ボフッ! ガンッ! ――ドオォォンッ!
次の瞬間、ボイラーが破裂した。
幸いにも密閉が不完全だったため、大事には至らなかったが、
火の粉が舞い上がり、鍛冶場の梁が黒く焼けた。
爆音のあと、場に沈黙が走った。
清之助は唇を噛み、倒れた機関の残骸を見つめた。
煤で黒くなった図面。ひしゃげた鋼管。割れたバルブ。
千早が真っ青な顔で駆け寄った。
「清之助さん……大丈夫ですか……?」
彼は肩で息をしながら、しばらく黙っていた。
そして次の瞬間、
立ち上がり、笑った。
「ハッ、クソが……上等だよ。
火と水と鉄が、ここまで“反応”するとはな……!」
真秀が静かに近づき、手を差し伸べた。
「ありがとう、清之助殿。これは“失敗”ではなく、第一歩です」
清之助はその手を取らなかった。
ただ、灰の上に落ちた図面を拾い、火床に掲げて言った。
「次は――こいつを“本物”にしてやるよ。
俺が叩いた鉄で、“あんたの夢”、絶対に走らせてみせる」
その声は、熱よりも強く、蒸気よりも高く――
鍛冶場の屋根を突き抜けて、空に響いた。
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