表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/121

異知者記録抄:H-204《鋼の幻術士》【第三章:鋼と記憶の言語】

第三章:鋼と記憶の言語

(異知者記録抄:H-204《鋼の幻術士》より)

________________________________________

記録日:天正19年正月/記録者:如月千早(言語学・記憶構造班)

地点:越前学院・語学研究棟「構造記号言語室」/補助資料:H-204設計筒・設計残片

________________________________________

「この設計は、言語だ」

そう結論したのは、百野から引き継いだ資料の初見を終えた如月千早だった。

H-204の設計筒群には、建築設計として成立しているにも関わらず、

すべてのパーツ配置と寸法数値に**“音韻的規則性”と“語法変形”**が存在していた。

________________________________________

◉ 鋼構文とはなにか?

千早はそれを**「鋼構文(Steel Syntax)」**と呼んだ。

それは以下のような特徴を持っていた:

1.形状記号が音素に対応している。

 円形、角形、鋸歯などの構造記号が「a」「k」「u」「r」などの母音・子音群と連動していた。

2.配置パターンに品詞的な統語構造がある。

 例えば、「主梁(主語)」→「支持柱(述語)」→「継手構造(目的語)」といった流れが、文法構文に相当。

3.部材の比率とリズムが、五七五や七五調の韻文を模していた。

 寸法が“音”で読まれるように設計されており、図面を読み上げると詩のような音の流れが生まれる。

________________________________________

◉ 構造=言語:幻術士の理論

補足文書に、以下のようなH-204自身の手記が記されていた。

『建物は語る。梁は発話し、柱は問い、屋根は答える。

人は“語られる空間”に住まう。

ならば、私は“鋼鉄の詩”を書く者である。』

これは設計行為を“記憶構文の詠唱”と捉える思想だった。

すなわち:

•建築とは記憶の発音装置である。

•設計とは空間に対する詩作であり、詩とは時間を閉じ込める記録装置である。

________________________________________

◉ 実験:「構文読み建築」

千早はこれを証明するため、H-204の設計図を“音節列”として再構成し、

学院の語学演習生に**「朗読」させた**。

すると、以下のような変化が観測された:

•音読中、聴取者の脳波に空間認識領域の異常活性が発生。

•多くの被験者が「三角天井のある石室の幻影」を体験。

•書き起こされた図面は、H-204の“記録と一致”した。

つまり、H-204の設計図は“読まれることによって再構築される構造記憶言語”だった。

________________________________________

◉ 黒川真秀の補注(文末添記):

『我々はようやく理解し始めたのかもしれない。

空間を読む、という行為が意味するものを。

それは語学であり、記憶であり、構造を通じた時間の詩学である。』

『H-204の業績は、工学・言語学・記憶論・建築論を統合した先端知識であり、

それを“ひとりの幻術士”が築いたという事実に、私は震えている。』

________________________________________

千早は、設計書の奥に、小さな余白に刻まれた一文を発見する。

『私は、語られることを望まない。

だが、君が語ることで私は“存在したこと”になる。

だから、君が話す限り、私はまた設計を始めよう。――H-204』


続く「第四章:設計者の不在証明」では、H-204自身の正体と記録されざる転生の謎に迫ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ