異知者記録抄:M-077《異語の書記》最終章:星図の終端、そして沈黙の語り部たち 副題:言葉の届かぬ場所にて
異知者記録抄:M-077〈異語の書記〉最終章「星図の終端、そして沈黙の語り部たち」
をお届けします。
これは、星図に導かれた記憶の継承、そしてM.077という存在の正体に触れる、物語の終曲です。
【封印星図館の最後の部屋】
越前学院・星図寮地下、封印星図館の最深部。
一枚の壁石が、夜半の静寂にわずかに動いた。
如月千早と伊藤百野、そして真田志郎は、譜面の“終章”を奏でた後にだけ開くこの石室の存在を、
M.077の「語られぬ手紙」によって知らされた。
そこには、何もなかった。
正確に言えば、“記録すべき何かが、記録されないまま存在している”空間があった。
壁には線も象もなく、ただ風が、言葉のように吹き抜けていく。
しかし、百野はそこで“ある音”を聞いた。
「これは……語られていない名前の響き……」
「この空間そのものが、“語ることを拒む辞書”なのね……」
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1. 星図の終端
如月千早は手にしていた記録書の余白に、ある旋律と一文を記した。
Eliendras = 星図が終わる場所
「ここから先に星図はない。あるのは、“まだ語られていない未来”だけだ」
封印星図館は、“観測されなかった星々の墓標”であると同時に、
“語られてはならなかった未来の辞典”でもあった。
そこに残されていた最後のプレートはこう記されていた。
「語り部とは、話す者にあらず。語られぬものを、沈黙ごと伝える者なり」
――M.077
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2. M.077の正体
その後の学術調査と、封印文書群の解析により、次のような仮説が立てられた。
•M.077は、かつて黒川文明圏に短期間滞在した記録者である。
•だが、彼が残した構文・辞書・譜面は、明らかに人間の言語認識限界を越えていた。
•その形式は、一部では「星の神官言語」または「未来言語前史」と呼ばれた。
真田志郎はある日、次のように語った。
「M.077は“未来から来た人間”ではない。
彼はむしろ――**未来そのものを読むために設計された“言葉の器”**だったのではないかと、思っている」
如月千早はそれにこう答えた。
「だから彼は、“語らずに残した”。
読むことは、継ぐことではない。
“沈黙を継ぐこと”こそが、本当の語り部の役目なのよ」
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3. 沈黙の語り部たち
封印以後、星図寮では「語られぬ講義」が定期的に開かれた。
そこでは何も話されず、何も書かれず、ただ一つの旋律が奏でられるだけだった。
そして、そこに集う学徒たちは、あるとき語られる。
「知識は語るものではない。
語る前に、ただ――沈黙と共にそれを生きよ」
星図は終端を迎えた。
だが、それは終わりではなかった。
沈黙とは、言葉の欠如ではなく、
**言葉にならぬ“全て”を包含する“語りの最終形”**だったのだ。
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【終結断章】
星を読む者は、星に語られていた。
言葉にできぬ未来を前にして、
語り部たちは、沈黙を遺した。
それこそが、M.077の“記憶の譜”だった。
本章にて、『異知者記録抄:M-077〈異語の書記〉――星図と言葉の暗号』は完結となります。




