第三章第四話:「海賊との対決」
帆船時代の戦闘がどんな物かよく分からないので、ご勘弁を。ぶつけて、乗り込んで、斬り合うぐらいしか、想像できません。
南シナ海は、日本や中国、東南アジアの交易を繋ぐ要衝であり、多くの商船が往来する。しかし、同時にこの海域は、倭寇やマカッサルの海賊団、さらにはヨーロッパ勢力が雇った私掠船が跋扈する危険な水域でもあった。
黒川家の交易船団は、マニラからの帰路に就いていた。新たにスペインとの交渉を進めたことで、日本市場における黒川家の立場はより強固なものとなりつつあった。しかし、それを快く思わない者たちがいた。
「敵影、前方三十町!海賊船が六隻、こちらへ向かってきます!」
見張りの声が響き渡る。黒川家の交易船団は、既に武装船団を整えていたが、今回の襲撃は規模が大きく、単なる海賊行為とは思えなかった。
*仕組まれた襲撃
襲いかかってきたのは、明らかに組織だった動きを見せる海賊団だった。彼らは単なる略奪者ではなく、明確な指揮系統のもとに動いており、船の装備も異常なほど整っていた。
「この連中……単なる海賊じゃないな。後ろに黒幕がいる。」
黒川真秀は即座に状況を察した。スペイン、もしくはポルトガルのどちらかが裏で糸を引き、黒川家の交易を妨害しようとしているのは明白だった。彼らは、日本が独自の交易圏を確立することを望まず、この襲撃を通じて黒川家に打撃を与えようとしている。
「総員、戦闘準備!砲手は敵船を狙え!」
船団の指揮を執るのは、黒川家の海上戦術を熟知する藤堂宗春だった。彼はかつて、朝倉家の水軍を統括していた経験があり、黒川家の交易拡大に伴い、武装船団の強化を任されていた。
「我らの船は軍船ではないが、敵もまた交易を装っている。互いに海戦に慣れた者ではないはず……だが、敵は多い。我らの動きを見極めつつ戦え!」
*海戦の幕開け
黒川家の船団は、火縄銃を持った兵士を甲板に配置し、さらに砲撃を加えることで海賊の接近を阻止しようとした。しかし、相手も狡猾だった。彼らは巧みに死角を突き、黒川家の船へと接舷し、白兵戦へと持ち込もうとした。
「敵が飛び移るぞ!迎え撃て!」
火縄銃の火花が飛び散り、矢と剣が交錯する。黒川家の護衛兵たちは、日頃から鍛えられた兵たちであり、動揺することなく応戦した。敵の船を制圧することができれば、この襲撃の背後にいる者の情報を得られるかもしれない。
「生け捕りにしろ!こいつらの雇い主を探る!」
藤堂宗春の命令のもと、数人の海賊を捕縛することに成功した。彼らの服装や装備から、南蛮勢力と繋がりを持っている可能性が高いことが分かった。
*黒幕の影
戦いは激しく続いたが、黒川家の武装船団は、戦術的な優位を保ちつつ、敵船を次々と撃退していった。敵の一隻を拿捕し、捕虜を尋問すると、驚くべき事実が明らかになった。
「……俺たちは、ただの海賊じゃねえ。マカオの商館から、ある条件のもとに依頼を受けたんだ……。」
「マカオ?ポルトガルか?」
「そうだ……だが、それだけじゃねえ……マニラの連中も動いてる……スペインも絡んでるって話だ……。」
黒川真秀は、この戦いが単なる海賊襲撃ではなく、ポルトガルとスペインの対立が絡む複雑な事件であることを悟った。マカオとマニラ、すなわちポルトガルとスペインの勢力が、黒川家の動きを警戒し、交易ルートを抑えるために手を組みかけている可能性があった。
「我々が交易圏を拡大することで、奴らの利権が脅かされている……。」
黒川家の台頭が、いよいよ南蛮勢力にとって無視できない存在となってきたのだ。
*交易ルートの安全確保へ
襲撃を退けた黒川家の船団は、すぐさま交易ルートの防衛策を考えた。これ以上の妨害を防ぐためには、以下の対策が必要だった。
1.武装船団の強化
→ 火器を増強し、より高性能な武装船を建造する。
2.南シナ海の同盟形成
→ 黒川家と利害を共にする東南アジアの交易勢力と協力し、共同で海賊対策を講じる。
3.外交戦略の見直し
→ スペインとポルトガルの対立を利用しつつ、どちらかとより緊密な関係を築くことで、敵対的な妨害を抑制する。
「この海を支配するのは、武力だけではない。我々は交易で力を示し、支配者としての地位を確立しなければならない。」
黒川真秀は、ただの貿易商ではなく、商業国家の主として、東南アジアの交易圏を掌握しようとしていた。
次回:第四章第一話「本能寺への布石」
黒川家の交易圏が拡大する中、日本では織田信長の天下統一が目前に迫っていた。信長の強権化が進む中で、黒川家は独自の商業国家構想を維持できるのか。そして、明智光秀との密会が、新たな歴史の転換点を迎える──。