外伝:『スエズに道を刻む者たち』8 ー火薬と陰謀 ― 計画に影を落とす外部勢力の干渉
この内容を登稿し忘れていました。申し訳ありませんでした。横のエピソードの番号順によろしくお願いします。
智泉院スエズ分舎の門が開いてから、十日後の深夜。
静まり返った宿営地に、鋭い閃光が走った。
――ドバーンッ!!
爆発音。
阿形一号の整備テントが吹き飛び、火の粉が砂漠の夜を赤く染めた。
「火だ! 火が出たぞ!!」
宿営の兵と職人たちが飛び出す。
賀茂清之助が寝巻のまま駆け出し、煙の中へと飛び込む。
「貯蔵庫だ、火薬庫の方は無事か!? 水! 水を持ってこいッ!!」
如月千早は、手に風呂敷包みの記録書を抱えて、技術学校の方へ走った。
「子どもたちは……無事? みんな、こちらに避難して!」
真秀は静かに状況を見つめながら、目を細めた。
「これは……事故じゃない。誰かが、仕掛けてきた」
翌朝。
現場検証の結果、火薬貯蔵庫近くに置かれた石炭の山に、火矢の痕跡と見られる炭化痕が発見された。
犯人は、夜陰に紛れて逃走した形跡を残している。
情報担当の羅門昌次郎は、オスマン側の協力で現地の密偵網を駆使し、短期間で重大な情報を掴んだ。
「長崎を追放された、元ポルトガル商館長・ルイス・デ・ソウザの名が浮上しました。南部ナイル経由で入ったようです」
真秀は顎に手を当て、静かに言った。
「……あの男が、ここまで来るとはな。交易を奪われ、立場を失った南蛮勢力にとって、この運河は“脅威”そのものだ」
千早は、焦げた教材と焼け跡の教室を見つめながら言った。
「火は、すぐ消せても、“信頼”はそうはいきません。子どもたちの目が……怯えてる」
茶屋四郎次郎がその場に現れた。
「殿。いっそ、護衛隊を強化しましょう。オスマンとの合同治安部隊、ここに設置を」
真秀は頷いた。
「……警備の強化は当然として、我々も“言葉”で戦わねばならん」
その晩、真秀はスエズ広域に向けて布告を発した。
『我らがこの地に通すのは、争いの剣ではなく、交易と知識の道である。 火を投じる者は、未来を焼く者。 然るべき秩序と共に歩まんとする民には、門を開く。』
この宣言は、現地住民やオスマン兵士たちに静かな共感を呼んだ。
焼けた整備テントの跡地には、現地の少年たちが無言で石を積み上げ始めた。
「ここに……新しい“機関庫”を作ろう」
その声を最初に発したのは、技術学校に通う少年――ハーリドだった。
清之助は彼の背を見つめながら、呟いた。
「……この土地の子どもが、火じゃなく“鉄”を選んだ。なら、俺たちも応えねぇとな」
こうして、陰謀の炎を超えて、再びスエズの地に“希望の火”が灯り始めた。




