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第三章第二話:「南蛮勢力の圧力」

*天正六年(1578年)初夏——長崎・南蛮貿易港

黒川家の交易ネットワークが拡大しつつある中、ポルトガル勢力は日本の貿易の独占を維持しようと画策していた。特に長崎では、ポルトガル人商人たちが黒川家の進出を警戒し、新たな圧力をかけようとしていた。

「黒川家の者が、長崎に頻繁に出入りしているようです。」

長崎のポルトガル商館にて、総督ジョアン・メンデスは報告を受けていた。彼の前に跪くのは、現地のポルトガル商人、マヌエル・ゴメスだった。

「彼らは琉球王国との関係を強め、日本の貿易網を南へと拡大しようとしております。」

メンデスは顎に手を当て、考え込んだ。

「彼らが直接明国や東南アジアと繋がれば、我々の日本貿易は大きな損失を被ることになる。」

「どのように対処いたしましょう?」

メンデスはゆっくりと立ち上がり、窓の外に広がる長崎港を眺めた。

「まずは、黒川家と交渉する。我々の許可なく交易を進めるならば、日本における南蛮の影響力を見せつけねばならぬ。」

________________________________________

*長崎にて

数日後、俺は長崎のポルトガル商館に招かれた。同行するのは藤堂宗春と間宮時継、そして通訳の伊東フランシスコである。

「ようこそ、黒川殿。」

ジョアン・メンデスは笑みを浮かべながら迎えたが、その目には鋭い警戒の色が見えた。

「貴殿の名は、すでにヨーロッパの商人たちの間でも聞こえております。」

俺は静かに頷いた。

「それは光栄です。しかし、今日の話題は我々の交易についてでしょう。」

メンデスはワインを注ぎながら言った。

「単刀直入に申し上げましょう。貴殿は南の交易を拡大しようとしている。しかし、それはポルトガルの利益を損なうものでもある。我々としては、貴殿の動きを見過ごすことはできません。」

俺は扇を広げ、慎重に言葉を選んだ。

「ポルトガルは長崎を拠点にし、日本との貿易を独占してきました。しかし、日本の商人はより広い世界を求めています。我々は、新たな貿易の道を開くことで、より多くの富を生み出そうとしているのです。」

「つまり、我々の影響力を弱めたいと?」

メンデスの表情が険しくなった。

「いや、共存を求めている。」

俺は冷静に続けた。

「日本の商人が独自の交易ルートを持つことは避けられません。しかし、我々が開く新たな市場で、ポルトガルもまた利益を得ることができるのです。」

メンデスはワインを一口飲み、しばし沈黙した。

「具体的には?」

「我々が東南アジアとの交易を広げることで、日本国内の市場が拡大する。その流れの中で、ポルトガルは日本と明国、さらにはシャムやマニラとの取引の仲介役を果たせる。」

間宮時継が補足する。

「さらに、我々は西洋の技術や文化を学ぶことにも関心がある。貴国の鉄砲製造技術、航海術などを日本に導入し、より強固な貿易関係を築くことも可能です。」

メンデスは静かに笑った。

「なるほど……確かに、それは興味深い。」

________________________________________

*交渉の行方

メンデスは慎重に考えた後、ゆっくりと頷いた。

「貴殿の提案には一定の合理性がある。だが、一つ条件がある。」

「条件?」

「黒川家が南の貿易を拡大するならば、ポルトガルの商船に優先的な交易の機会を与えてほしい。」

俺は目を細めた。

「それは、ポルトガルの独占権を守るためのものか?」

「いや、あくまで相互の利益のためだ。貴殿が南の市場を開拓するならば、我々もそこに関与する必要がある。貿易は競争だけでなく、協力の上に成り立つものだからな。」

俺はしばらく考えた後、頷いた。

「よかろう。ただし、ポルトガルが我々の交易に対して不当な干渉をすることは許されない。」

メンデスは笑った。

「貴殿は慎重な男だな。しかし、それでこそ交渉に値する。」

________________________________________

*展望

長崎での交渉を終え、俺は藤堂宗春とともに港へ戻った。

「殿、ポルトガルとの交渉は、ひとまず成功したと言えますな。」

「だが、油断はできない。」

俺は港に停泊するポルトガル船を眺めながら言った。

「彼らは一時的に協力を示しているが、いずれ何らかの形で再び圧力をかけてくるだろう。」

間宮時継が頷いた。

「南蛮勢力を利用しながらも、独自の交易ルートを確立することが重要ですね。」

俺は静かに扇を閉じた。

「次は、スペインが動く番だ。」

日本の交易に新たな波が押し寄せる中、黒川家の戦いは続く——。


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