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『十日間で火星へ』第二部 第六章 補遺:

「火星の夜、船内は静まり返り、

地球との距離は約1億キロ、

通信の返事が届くまで、片道でおよそ5分。

クルーたちは誰もが、遥かな家の声を、夢のような時差で待ち続けている――

それでも、心は遠い青い星と結ばれていた。」


The First Night: Journal and Conversation


The lamps in the galley glowed with a gentle amber, their light catching the pale steam that curled from tin mugs of rehydrated tea. The air was tinged with the scent of metal, dust, and distant longing.


Lydia sat at the narrow table, pen in hand, her observation journal open before her. She wrote with slow deliberation, pausing after each line to listen—to the faint hum of life support, to the soft creaks of the cooling hull, to the silent planet outside.


Observation Journal, Sol 1—Night:

—External temperature: minus 68°C

—Internal temperature: stable

—Atmospheric pressure: holding

—All systems: nominal

—Notes: Star patterns unlike those of Earth; first frost forming on the viewport.

—Emotional state: Gratitude, tinged with awe.


Lee leaned back, his own notebook half-filled with sketches of equipment, readings, and half-formed questions.

“This planet is a mirror—every measurement shows us something about ourselves,” he mused.

“Even our doubts are written here, in dust and silence.”


Eric cradled his tea, his boots tucked under his chair.

“I never thought I’d miss the color green so much,” he admitted, his voice quiet.

“But the red here—there’s something ancient, almost comforting.”


Amina, head resting on folded arms, looked up with a small, wistful smile.

“Do you think Mars dreams?” she wondered aloud.

“It’s waited so long—maybe it needed us, too.”


Pierre, ever restless, tapped the side of his mug and grinned.

“It’s a new chapter, yes?

Somewhere in the future, someone will read our words and know we were not afraid.”


Aria closed her journal, looked at her crew—their faces tired, illuminated by the golden lamplight, their eyes reflecting both fatigue and hope.


“Let’s remember this night,” she said softly.

“The silence, the cold, the wonder—and each other.

This is our first home beyond Earth.

We are not alone.”


And as the Martian night deepened,

the explorers’ voices, gentle and true,

wove the first stories of humanity’s second world.



第一夜――観測日誌と語らい


ギャレーのランプがやわらかな琥珀色に灯り、

その光は、スズ製のカップから立ちのぼる淡い湯気を照らしていた。

空気は金属と火星の塵、そしてどこか遠いものを恋うる気配を含んでいる。


リディアは細長いテーブルに座り、ペンを手に観測日誌を開いた。

一行書くごとに静かに耳を澄ませ――

生命維持装置の低いハミング、冷えゆく船体のきしみ、

そして外の沈黙した惑星の存在を感じ取っていた。


観測日誌 第一ソル・夜

――外気温:マイナス68℃

――船内温度:安定

――大気圧:維持

――全システム:正常

――備考:星の配列は地球とは異なり、窓に初霜が降りてきた。

――心情:畏敬に満ちた感謝。


リーは背もたれに寄りかかり、自分のノートに装置のスケッチや測定値、

そしてまだ答えの出ない疑問を走り書きしていた。


「この惑星は鏡のようだ――

あらゆる計測が、私たち自身のことをも映し出している。」

彼はそうつぶやく。

「この塵と沈黙の中に、私たちの迷いもまた刻まれている。」


エリックはティーカップを両手で包み、椅子の下にブーツをしまい込んでいる。

「こんなにも緑色が恋しくなるなんて思わなかったよ。」

彼は静かにそう語る。

「でもこの赤――

何か古くて、不思議と心が落ち着くんだ。」


アミナは腕を枕にしながら顔を上げ、

小さな、どこか物思いにふけった微笑みを見せた。

「火星も夢を見ると思う?」

彼女はぽつりと問う。

「ずっと長いこと待っていた――

もしかしたら、この星も私たちを必要としていたのかもしれない。」


ピエールは落ち着きなくカップの側面を指で叩き、

にっと笑みを浮かべた。

「新しい章が始まったんだね?

いつか未来の誰かが、僕らの言葉を読み、

“彼らは恐れなかった”と知るだろう。」


アリアは日誌を閉じ、仲間たち――

琥珀色の灯りに照らされ、

疲労と希望の両方をたたえた顔――を見つめた。


「この夜を忘れないでいよう。」

アリアはそっと言う。

「静けさも、寒さも、驚きも――そして私たち自身も。

ここが、地球の外で迎える初めての“家”なのだから。

私たちは、もう独りじゃない。」


こうして火星の夜がさらに深まる中、

探検者たちの声はやわらかく、誠実に

“人類の第二の世界”の最初の物語を紡いでいった。


火星と地球の距離・通信遅延(着陸初日の想定)

■ 火星と地球の平均距離

最も近い時(最接近):約5,600万km(0.37天文単位)

最も遠い時(最遠):約4億km(2.7天文単位)

平均的な距離:2億2,500万km(1.5天文単位)


※ミッションの設計や打上げ時期により、「着陸時の火星・地球間距離」は

 最短:約6,000万km前後、平均:約1億km〜2億5,000万kmといった値が現実的です。


■ 通信遅延(電波が地球〜火星を往復するのにかかる時間)


電波は光速で進む(約30万km/秒)

最接近時:約3分12秒(192秒)片道

最遠時:約22分13秒(1,333秒)片道


平均的には、約10分〜15分 片道


この物語的な推奨値


今回の着陸初日は「火星への最適打上げ軌道」が想定されるので、

火星と地球の距離:約8,000万km〜1億km

通信遅延:片道 約5〜6分(往復10〜12分)


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