夢の途中 ep7
打ち合わせが終わり、事務所の一部屋から出で帰ってから今日の夕ご飯は何が良いかなと礼奈にメールをしたが、帰ってきたのは何でもいいよの解答だった。それが1番難しい事は分かっているはずなのに、家に何があったか考えにふけっていると不意に人にぶつかってしまった。
「あ、すみません。見ていませんでした。」
正面を見るとつばのある帽子を深くかぶり顎下にはひげが生えていて結構高い身長の男性がいた。
「いえいえ、こちらこそぶつかってしまって申し訳ない。」
会釈して台車を転がしている男性を見ると薄水色の作業服を着ている姿、清掃業者を呼んだのだろうか?しかも・・・・
「社長室から出てきたってことは、清掃したってこと?でも何で社長室だけ?それとも契約のために伺ったのかな?」
ドアの前には社長室と書いてある看板があり、ドアの真ん中には紙で「ご用がなくても入ってきていいよ!いつでも相談にのるよ!」と書いてある。こういうアットホームな雰囲気が出せるのが社長の最大の魅力なのかもしれないが、それはそれで新井さんに怒られる未来が見える。
まあ社長の事は置いといて、目下の問題は今日の夕ご飯だ。確か家にジャガイモと玉ねぎがまだあったはずだから今日はカレーにしようかシチューにするかの2択で、スーパーに寄ってお肉が安い方で決めるかと考えに至った鈴花は事務所から出で外に出ると、春先なのに天気が良く少し暑く感じる。
今は4月なのに初夏に近い気温で本日の気温は24℃・・・暑いにもほどがある。日除けのためとはいえ帽子とマスクをするのが辛くなるがいつバレるか分からない職業に就いているせいで安心は出来ない。
「待って下さい!先輩!!」
後ろから声をかけられ振り向くと事務所の扉の前には小さい少女がいた。妹グループシスターズで、最近人気が増えてきている見目がよく愛くるしい瞳に小動物のような小さい姿を見ると庇護欲がそそられる。名前は山本佳穂と言って通称佳穂ちゃんと呼ばれている。
この子が配信で暴走して一枠潰したなんて未だに信じられないんだよな〜。
「佳穂ちゃんだよね?久しぶりだね、どうかしたの?」
「ずか先輩がいるってマネージャーに聴いて、新井さんに聴いたらミーティング終わったばかりだと伺ったのでその・・・・ですね。あの〜・・・」
モジモジしている姿がくっそ可愛いなこの子。私もこんな庇護欲唆る妹が欲しかったよ。超絶可愛くない弟ならいるんだけどな。
「こ・今週、どこか空いていますでしょうか?シスターズでお食事会をするので良かったら、ずか先輩とれい先輩もご一緒できないかなって。」
まさかのお食事のお誘いだったとは、できる事なら親密になってコラボ配信とかしたいんだけど〜・・・
「ごめんね。今週はほぼ休みなしで配信と歌枠で埋まっちゃってて時間が取れないかな。れいちゃんも同じで。」
そう言うと明らかにしゅんとしちゃう佳穂ちゃん。断るのが大変心苦しいけど、スケジュールに空きがないのは事実であり選択肢がなかった。
「私とれいちゃんの2人、今は週間でスケジュール組まれているから先の見通しがなかなか見えなくてね。社長があまり間を空けると廃れる恐れがあるからって配信を入れてる状態なの。ごめんね」