夢の途中 ep3
視点が変わります。
鈴花と礼奈が夕食を作り食べている頃、某県某所の一角にある高級マンションの最上階の一室にはパソコンの前に座りながら実況配信を行っていた。まだネット配信をして3カ月ほど、Virtualキャラクターの表情が乏しく無表情に見られがちであったが、明るい声で喋り、場を和ませて視聴者と一緒にゲームに参加して和気あいあいと喋っていた女性、髪が肩くらいまであり毛先がカールしている姿は少女に見えるがれっきとした女性、山本佳穂がいた。。
「ボーブさん、それは災難でしたね。身体には怪我とかしていませんか?・・・・そうなんですね。良かったです。でも私がそういうのを見ちゃったら見ないふりしちゃうかな。だって怖いじゃん、そんな場面に出くわしちゃったら。だから逃げるに一票です!!」
男女の喧嘩に遭遇してしまった視聴者の話し聞きながら、寄り添いながらも自分の意見を言う。相手の欲しい言葉や苦難に直面した時には寄り添い、一緒に共有することで単純ではあるが相手に自分が味方だとアピールをする事ができる。
「話は変わりますが、私事ですがこの度引っ越しをしましてね。今日が私の部屋での初配信なんですよ〜。それになんとですね、お兄ちゃんが私の好きな料理を作ってあげるよって言われてテンションMAXなんだ〜。」
浮かれてつらつらと私情を生やし、兄の話を盛り込んでくる。視聴者からは「出た、今日のお兄ちゃんww」や「行き過ぎたブラコンww」コメントが見えていた。
「皆して酷いですよ!!私、これでも楽しみなんですよ!?久々のお兄ちゃんの手料理が食べられるんですから!!」
視聴者のコメントに憤慨していると部屋のドアにノックの音が響いた。扉が開いて身長175cmは超える長身でスラッとした体形に少しくせっ毛がある男性が入って来た。
「佳穂、料理が出来たよ。ん?ああ、ごめんね。まだ配信中だったんだね。」
お兄ちゃんと呼んで男性の方を向くが男性は画面に映っているコメントを読んでいた。見ていくと「お久しぶりです。」や「どうもです〜」など、久々の登場に喜んで書き込んでいる視聴者がいた。そんな中に「妹さんとお付き合いしています!!」というコメントが流れてきていた。
「万事に値する!!」
某漫画の刀鍛冶の台詞で担当声優さんの声に似せて発すると、コメントが似てるとのコメントで溢れかえっていた。佳穂はそのコメントを見ながら視聴者に今日の配信を終了することを告げて、惜しまれつつも配信を終えた。パソコンを消して後ろにいる兄を見て文句を言っていた。
「もうお兄ちゃんお願いだからモノマネしないでよ。レパートリー多いのは知ってるけど、視聴者に得意なモノマネあるの?とか今日はお兄さんいないの?とかたまに言われるんだから!」
「悪かったよ、ごめんね。でもそういう事も出来ても悪くはないんじゃないかな。一芸に秀でているのもいいし多芸でもいい。佳穂が得意なボイスパーカッションとかやってみるのもアリなんじゃないかな?」
「やだ。それで1回ディスプレイ壊しちゃったし。絶対にやらない!!」
頑なに拒む姿に兄が苦笑する。ボイスパーカッションを配信中、調子に乗った佳穂がマイクを振り回し、滑ってディスプレイの画面に命中し配信がそのまま止まった事件があった。その事件以降ボイスパーカッションをやることしなくなってしまった。
「わかったよ。それより佳穂の希望通りイタリア料理を作ったけど。結構重いけど食べれるか?」
「モッチロン!!全然よゆー。手洗いうがいしてくるね〜!」
よほど嬉しいのか、スキップしながら部屋から出ていく佳穂に作った甲斐があるなと笑みを浮かべ、盛り付けしないとと部屋から出で行こうとした時、ポケットに入れていたスマートフォンが鳴り、画面を見ると題名に怒りのマークで一杯になっていた。内容を見て自然と口角が上がるのが分かる。
「わかっているよ、れいちゃん。もう8年だもんね。そろそろこっちも動かないとずかちゃんに嫌われちゃうからね。」
相手にそろそろ動くねと返して、スマートフォンをポケットに入れ、嬉しそうに笑っている男。山本鍵二がリビングで待っている妹の下に歩き出した。