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第一話 猫は交通事故に遭う

初投稿です。文章を書くのは初めてなので、雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです。


――いっそ、猫になりたい。



20XX年。

私は今、社会の荒波に揉まれ、ようやく就職した企業で平凡なOLをやっている。

正直言って、すごく嫌だ。

昔から私は面倒くさがりで、周りの人に頼りっぱなしだったのに急に社会に出たって何も出来ないし。


「あんたってホントに他力本願だよね〜」


「うっ、そんなこと分かってるよ……だから言ってるじゃん。猫になって自由気ままにワガママに暮らしたいって」


「わらえる〜、確かにずっと言ってるよね〜」


ケラケラと笑う友人を尻目に、ビールを飲み干す。

真面目に言ってるんだけどな。

猫になったら色んな人に可愛いって言われるし、人に飼われたら何もしなくてもお世話してもらえる。

すごく、素敵だと思う。

誰か私のこと飼ってくれないかなぁ、、


「しょーじき、チョー心配だわ〜あんた」


「え、なんでよ」


「だっていつもボンヤリしてんだもん、事件に巻き込まれても知らないよ〜」


「巻き込まれるわけないよぉ、むしろ巻き込んで欲しい。仕事休みたい」


「ふーん…」


そろそろ眠くなってきたのだろうか。

さっきまで笑っていたのが、すっかりと鳴りを潜めている。

火照った頬に手を添えて、今にも溶けだしそうな瞳で私を見つめてくる。

サバサバ系なのに意外とお酒に弱くて可愛いんだよな、この子。


「そろそろ帰ろっか」


「え〜」


少し駄々をこねた割にはキッパリとした動きで会計をして、私を待たずにお店を出ていってしまった。

酷くない?

呆気に取られていると、私の分の料金まで一緒に払っていたことに気付く。


は、はやく返さないと!


後を追って店を出るともう既に姿が見えなくなってしまっていた。


「え、うそ。足早すぎじゃない?」


近くを探してもいなかったのでどこかで倒れていることはないようでホッとする。

少し離れた交差点まで行くと、横断歩道の向こうにフラフラと歩く姿を見つけた。

はやく行ってお金を返そう。

そう思って横断歩道を早足で通る。


…今思えば友人に夢中で左右の確認をしていなかった私も悪いんだけど、私は信号無視をして歩道に突っ込んできたトラックに轢かれてしまったらしい。


――――――――――――


おき……


はやくおき……!


「はやく起きなさい!!」


「ひゃい!!」


真っ白な天井、、、天井?

勢いよく起き上がる。

天井じゃない、なにコレ。

え、てか私さっきトラックと当たって、、、

色々なことを考えていると、どこからか声が聞こえてくる。


「ようやく起きましたね。」

「こんにちは、私はあなたの転生先についてご相談に参りました」


「え、転生?相談、、?」


「はい、転生先をいくつかの選択肢からお選び頂けますよ」       

「1つ目は、元の世界」

「2つ目は、異世界」

「異世界にするのでしたら種族もお選び頂けます」


「え、、え?ごめんなさい、色々なことが一気に起きすぎて、頭が追いつきません」


「では、なりたいものや好きなものなど、ご希望をどうぞ。なるべく希望に沿ったものをお勧めしますよ」


希望、好きなもの?

一瞬混乱したが、すぐに思い直す。


あるじゃないか、なりたいものなら。

自由気ままでみんなに可愛がられる生き物。


「わ、私は、猫になりたいです」

 

「猫、、、では元の世界をご希望で?」


「いえ、異世界でお願いします。あと、出来れば長毛種の猫で」


「ふむ、、分かりました。では、ごゆっくり」


そう声が聞こえると、また意識が遠くなっていった。



――――――――――――


目が覚めると知らない天井。

ここは、、どこか分からないが、少なくとも病院ではないらしい。

ベッドからそっと抜け出して、廊下へと出る。

誰も居ない、でも暖かい雰囲気が漂っている。


そういえば、私は猫になりたいと言ったはずだが、普通に歩けている。

四足歩行では無いようだ。

自分の体を動かしたり、触ったりして、今の体はどんな様子なのかを確かめる。

頭の上には三角形のふわふわした耳がついていて、背中側には大きめ、、というより長めの尻尾がついている。

長毛種がいいという要望は通ったようで、全体的にふわふわしていて触り心地バツグンだ。


もうひとつ気づいたことがある。

どうやら私は少し幼くなったらしい。

多分12歳くらいの体で、髪は黒色、それに合わせたように尻尾も黒色だ。

黒猫、、、なのだろうか。

自分の顔も気になるが、ここにはガラスや鏡が無い。

まあ、またいつか見れるだろう。


気を取り直して廊下を歩き出す。

木造建築、とでも言うのだろうか。

ささくれた木の板や、軋む床が元の世界に似ている。

ただ、靴を履いていないので足を怪我しないか少し心配だ。


しばらく歩くと、下に続く階段があった。

下からは大人の声がしている。

これは、安全確認を行ってからおりた方がいいだろう。

階段の手すりから顔を覗かせて様子を確認する。

猫になったおかげか、音を立てずに動くことが出来るし、耳も良いので簡単に様子見が出来た。


下にいる大人は、漫画やアニメで見るような町人そのもので、本当に私は異世界に来てしまったのだと実感した。

しばらく観察していても、害のありそうな言葉や喧嘩などは無い。

みんな楽しそうに食事や世間話をしているようだ。

…安全そうだし、そろそろ階段を下りて状況を把握するために話をしてみよう。


わざと足音を立てて階段を下りる。

音が聞こえたのであろう大人が数人こちらを向いて、驚いたように声を挙げる。


「おお!!ようやく起きたのか!!」

「ちょっと待ってろよ、いま店主を呼んでくる!」


バタバタと動く大人達の中で、1人の大人がこちらに近づいてきて心配そうに声を掛けてくる。


「大丈夫か?何があったのか覚えてるか?」


問いかけに首を横に振ることで応える。

何があったのか聞いてくるということは、私はよほど酷い状態でここに保護でもされたのだろうか。


そんなことを考えながら、大人達に促されて椅子に座る。

大人しくしていると、私が猫のような容姿をしているからか、遠巻きに見ている大人達が小声で何かを話していた。

耳が良いので丸聞こえだが。


『あの子は珍しいな』

『どこかに売られて、逃げてきたのかもな』

『店主はあの子をどうするつもりだ?』

『知らねーよ』


どうやら私は売られるような希少性があるモノらしい。

もしかして、ここの店主も私を売るために保護したフリをしているのかもしれない。

そう思うと途端に周りの大人が怪しく見えてしまう。

いつでも動けるように周りを警戒していると、カウンターの奥から1人の女性が出てきた。

その女性は私の姿を見るとゆったりとした動きでこっちまで歩いて来る。

そして目の前で止まると、これまたゆったりと話し始めた。


「こんにちは、お嬢さん。なぜ自分がここにいるのか分かる?」


首を横に振ると、また話し出す。


「貴女は外で倒れてたのよ、うちは宿屋だから2階のベッドで寝かせておいたの」

「それで、貴女が今ようやく目覚めたってこと」


なるほど。

話を聞いて頷いていると、不意に腕を掴まれる。


「ここは宿屋なの。貴女はすごく汚れているし、お風呂に入りましょうか」


「え、」


そのまま腕を引かれて脱衣場らしき場所まで連れていかれる。

え、もしかして一緒に入るの?ホントに?

内心すこし期待しながら女性の次の言葉を待つ。


「私は他のお客さんが入ってこないようにしておくから、安心してお風呂に入ってなさい」


残念。一緒には入らないらしい。


女性が出ていってから、自分の服を脱ぐ。

服というより布切れといった方が正しいと思えるようなボロボロの服だということに脱いでから気づいた。

脱衣場からお風呂場に入ると大きな檜風呂と、お湯が上から流れていてシャワーのようになっているものがあった。

シャワーのようなものに近づくと、とても小さいが鏡があった。

手鏡くらいの大きさなので、自分の顔は確認できそうだ。


鏡を見ると、やはり黒髪で頭の上には猫耳がついている少女が写った。

どうやら整っている顔で、目の色は薄い緑色らしい。

猫なんだし、そりゃ顔は整ってるよね。

自分の容姿が把握出来た所で、シャワーを浴びて湯船に浸かった。


しばらく湯船で温まっていると、脱衣場から声を掛けられた。


「お嬢さん、タオルと着替えをここに置いておくから。湯冷めをしないようにね」


タオルは分かるが、着替えまで持ってきてくれるとは。

湯船から上がり、脱衣場へ行く。

タオルで体と髪を大体拭いて、着替えを見る。

下着と、スクエアワンピースが置いてあった。

着てみると、ワンピースはウエスト部分にベルトがあり、自分で調節できるようになっている。

デザインも私の好みピッタリだし、しばらくはこれで過ごそうかな。



――――――――――――


お風呂場から出て、さっきの場所まで戻る。

途中ですれ違った大人達が何度も振り返って此方を見ていたので、やはりこの容姿は珍しいようだ。


「あら、1人で戻れたのね」


さっきの女性がカウンターから声を掛けてくる。

そういえば私はこの世界のお金を持ってないし、自分の存在がどんなものかも把握出来ていない。

この状態で見返りなどを求められたらどうすれば良いのだろうか。


「お嬢さん、立ち話も良いけどカウンター席にでも座ってお話しましょう」


彼女は微笑みながら目の前のカウンター席を指し示す。

ここは大人しく従って動いた方が無難だろう。

指定された席に座ると同時に彼女がまた話し出す。


「さっき言った通り、君は外で倒れてたの。それを保護してここに連れて来たんだけど、、」

「君の種族って、自分で分かる?」


種族、まあ恐らく獣人だろう。

軽い気持ちで口を開く。


「たぶん、獣人です」


「そうよねぇ、、」

「じゃあ自分の名前は分かる?」


「それは、、」


考えてなかったことを聞かれて口篭る。

確かにこの世界で生活していくにも名前は絶対に必要だ。

でもせっかくだから、元の世界とは違う名前で心機一転したい、


「、、ノルです」


「ノル、いい名前ね。私はソフィアよ」


私の名前の由来は、長毛種の中でも私のお気に入りである“ノルウェージャンフォレストキャット”の頭文字ふたつを取って“ノル”にした。

我ながらいいネーミングだ。

そしてこの女性はソフィアというらしい。

元の世界でも見かけるタイプの名前で良かった。覚えやすいし。


「それで、貴女の今後なのだけれど」

「まずは神殿に行って祝福を貰うことが重要なの。その次にギルドに登録することね」


祝福、ギルド、ますます異世界っぽくなってきたかも。


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