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「耕助!! そっちじゃ、今じゃ!! なにをしておるのだ、そこじゃ!! あ~取りそこなったではないか!! あっはははー何をはておるとろくさいやつじゃ! あ~もう~!!」


「父上こそ!! あ~もう~そこです、足元です!! だから足元です!!」



富士川を下り2日かけて駿河の海に辿り着き磯辺と砂浜がある三保の松原に到着した耕助親子は塩を作る前に磯辺の岩に隠れていた魚を取ろうとしてはしゃいでいた、耕助も前世では勿論何度も海水浴も経験しているが転生しての初めての海は心が躍っていた、父親も数年振りとなる海に、耕助と一緒でもあり同じ様に童心に還っていた。


「父上諦めましょう、それより塩を作らねば、私が枯れた枝を拾って来ます、父上は鍋を乗せる土台をお願いします、先に塩を作りましょう!!」


「あっはははー、よし耕助枝を集めよ、土台を作っておく、魚は後で獲ろうぞ!!」


肝心な塩を作る事になった親子だが塩水を煮詰める作業は耕助が行い、父親は砂浜でアサリ取りを始めた、今夜の夕飯に潮すまし汁の粥にアサリを入れて豪華な夕飯としゃれこむ予定であった、陸の者にとってアサリの貝は贅沢であり滅多にありつけない、三保の砂浜を掘ればアサリが出て来る、まるで里芋堀りしているような感覚と言えた、アサリを両手一杯にテンションの上がった父親が耕助の処に戻ると1人の漁師らしき男がやって来た。



「お前さん達どこのもんだ? 浜荒らしか?」


「いや、おら達は井川村の百姓だ、塩を作りに来ただ! ・・・塩作ったら拙かったか?」


「だば、同じ今川様の国か?」


「そうだ!! 同じ今川様だ!!」


「なら問題ねぇーが頭には挨拶しねぇーと浜荒らしと勘違いしてす巻きにされて殺されっと! 手休めて先にあそこの家が頭の良三ってのがおるからちゃんと挨拶しとけ!! 」


「これはすまねぇー、親切に助かった、良三さんという頭に挨拶して来る、耕作行くぞ!!」


近くで見ていた漁師からの忠告で頭に挨拶に行く二人。


「すいません、こちらが良三さんのお宅でありましょうか?」


「おう! 上がんな、お前達は何処の田舎もんだ、挨拶も無しに浜荒らしかと思っていたぞ?」


「申し訳ございません、儂らは井川村の耕太と息子の耕助です、挨拶が遅れてすいませんでした!」


「どうやら同じ駿河の者みていだから手荒な事は控えていたが、漁師は気が荒れ~のよ! なんか楽しそうにしてたから様子見てた処よ! ちゃんと仲間から報告が入っていたから簀巻きにしねぇーで来るのを待っていた所よ!」


「本当に申し訳ねぇー、久しぶりに見る海に舞い上がっちまって、どうか許しておくなせい!!」


「まあ~分かったから安心せえー、それより塩づくり来たようだが、丘の者が簡単に作れるようなもんじゃねぇーぞ、あんな小さい土鍋で作っていても大して作れんぞ、どの位必要なんだ?」


「耕助! どの位必要だ?」


「息子の耕助です、先に挨拶しないで申し訳ありませんでした、塩は出来れば一貫匁《3.75キロ》欲しいと考えていました!」


「一貫匁だと、やけに多いな、何に使うんだ?」


「鹿肉や猪肉、それに大根や菜っ葉の漬物です、何しろ山奥なので塩が高くて普段食べる芋粥にもほんの少ししか使えなくて!!」


「まあ~確かに貴重といっちゃー貴重だが、山だとそんなに高いのか、じゃーこうしてはどうか? 俺達漁師はその干し肉を手に入れるのが大変なんだ、何しろ山に行くにも1日がかり、滅多にいかねぇー山に行っても猪なんかどこにいるか判らん、精々山菜を採るのだけよ、干しに肉との交換なら漁師達は大歓迎よ! どうかな? 悪い提案でもねぇーと思うが?」


「ええ~元々干し魚と交換したくて干し肉はこのしょい籠に入っています、父上のしょい籠にも干し肉が入ってます!!」


「お~それはこちらも願ったりかなったりだぜ!! どの位あるかね?」


「父上と私ので、10貫ほどまだあるかと、帰路の分を差し引いてもその位あります!!」


「なに!! 猪一頭分の干し肉だと、そりゃー凄い、塩が入ってねぇー干し肉となりゃー相当しっかり干した肉だろうに、鍋に戻せばなんて事ねぇー何しろこっちは塩が沢山あるからな!!」


「その干し肉で塩一貫と干し魚の干物を積めるだけ詰め込むから交換でどうだ、親父さんよ?」


「えっ! よろしいのですか? 儂らも願ったりかなったりになります!!」


「あっはははー、そりゃー良かった、今夜はここに泊まって行きな、明日までに干物を皆から集めておく、流石にその籠に満載となれば俺の処にもねぇーから明日迄待ってくれ!! 今夜は猪肉で牡丹鍋としゃれこもうぜ!!」



結局この日は漁師の頭との話がスムーズに進み、日中は浜で海藻とアサリを採り、夕餉では頭の家で牡丹鍋となった、干した肉であったが煮込む事でそれなりに味合う事が出来楽しい夕餉となった、頭の声が掛かった漁師三人も呼ばれどの程度干物が集まりそうか確認していた。


「ほう、じゃーなんとかなりそうだな!! 先に干し肉を頂て干物が無かったじゃ、三保の漁師の名がすたるところだった、耕太さんとの約束が守れそうで良かった、良かったな坊主!!」


「ありがとうございます、来た甲斐がありました、それとこの干物は絶品ですね!!」


「おう、それは日干しして日陰で一日しか経ってないから油が乗ってて絶品なのよ、その身を綺麗に食べた後に骨を焙って濁酒と一緒に燗するとそりゃ~この上なく旨い酒になるって事よ!」


「父上も良くカジカで同じことをやっております!!」


「あっははは、海のもんも、丘のもんも考える事は同じか、あっはははー」


「それとさっき親父さんが同じ田で昨年は米が1.5俵も増えたって話は坊主が考えてたと言っていたが、魚をもっと獲るにはどうしたらいいか、妙案はあるかい?」


「そうですねぇー、皆さんの漁は船に乗って竿で釣る方法だと一度に沢山は獲れませんので大きい網で一気に獲る方法があると思います、但し大きい網になります、例えば横幅10間、縦5間の網です、その網を使って船2艘で魚を追い込むのです!!」


耕助は前世での知識で普通に利用されていた底引き網による漁法を伝えたのであった。


「ずげえー坊主だな! そうなると船には舵取りと綱引きが必要だから5人か!? 2艘だから10人だな!!」


「でも頭、10人で10匹しか獲れなかったら大赤だぜ、本当にその方法で獲れるのか?」


「どうだ坊主、こいつが変な事を言ってるがそれも一理あるぜ、坊主の見立てでどの位は獲れる!?」


「皆さんは海の専門家で一人一人が魚がどのあたりにいるか見分ける事が出来る武士で言う処の大将です、その大将の見立てが間違って無ければ、魚群のいる場所さえ間違って無ければ最低でも一度に100匹以上は獲れるかと思います!!」


「お~面白れえー、実に面白れぇー話だ、釣れない場合は俺達の見立ての方が間違っているという話よ、魚がいねぇー場所で釣り糸垂らしても釣れねぇーのは当然だ、それを坊主が今説明したんだぜ、魚がいる場所に網を入れりゃーいいのよ、後は綱引く呼吸だ!!」


徐々に熱くなる牡丹鍋会議、漁師の戦場は命がけの荒波が舞う海である、それが一度に100匹以上獲れる釣り方に熱が入るのは当然であった。

ひと通り釣り方を説明した耕助に驚く漁師達であった。


「お前さん! 耕太さん、あんたとんでもねぇー息子を育てなさったな!! こりゃー本物だぜ、漁師に家に生まれていればとんでもねぇー網元になっているぜ、これからが楽しみだ! なんなら俺の娘をもらって欲しい処だぜ! そうすりゃー丘の者と海の者が交る事になる、両家に取って、俺達みたいな役人に使われる者達が手を取り合うって事は大きな強みになるかも知れねぇーぜ!!」


「いや~びっくらこいた、海の事をしらねぇー耕助が釣り方まで考えるとは、聞いていて関心したぞ、お侍さん達は刃物で殺し合いしているが俺達下の者は生きる事に精一杯だ、丘と海の者が繋がる意味は頭の言う通り生きる上での希望になるかも知れん、この話、本当に良いなら進めてえぃ話だ! のう耕助!!」


「えっ!! 親父! 俺まだ9才だけど!!」


「あっはははー、うちの娘だってまだ6才よ!! 結婚するのはもっと先の先じゃ!! あっははは、安心せえ!!」



この日は不思議な縁で海の家と結ばれた日となった。

翌日の朝には干物が次から次と届き帰路に付く事に、その際に耕助が一合徳利を頂いた、底引き漁の話を聞いた頭から他に欲しい物はないかと聞かれ、耕助から意外な品の言葉を聞き、再度褒められた耕助であった、その品とは魚醤であった、別名『魚醤油』とも言われている醤油の一種とも言えた調味料、小魚と塩を入れ数ヶ月間発酵させると魚の水分が醤油と似た旨味成分の醤油に変化する、但し匂いがあるのが難点と言えたが実際に熱を加え調理すると匂いは柔らかくなり気に成らなくなると言う、現代でも普通に売られている魚醤を欲しいと要望を伝え、頭より魚醤が入った一合の徳利が耕助に。



「耕助! 爺様も皆驚くぞ! 籠一杯の干物を見たらたまげるに違いねぇー、今回来て良かったな! しかしあれ程干し肉が喜ばれるとは、やっぱり海の者と丘の者では食する物が違んだな!! いい勉強になった! お前の知恵にも驚かされた、誰に似ただべか?」


「誰に似たって言われても、沢山魚が取れるといいね、沢山塩も手に入ったし、沢山漬物が出来る、でも背中の干物ってこんなにも臭いもんだったとは知らなかった、川魚とは大違いだ!!」


「田植えも終わっているから新しい田を作ろう、田二枚あっても今ならやって行ける、耕助の知恵があればまだまだ米も増やせる、おっかあももう一人いけるべ!!」


「・・・・・」


「父上! この干物少し売って見てはどうなか? 売った銭で金物のノミとげんのう《金づち》が欲しいんだ! だめかな?」


「匠が使う道具か? それでなにするんだ?」


「新しい田を作るのに大量の粘土が必要になる、粘土と土を混ぜて泥を作らねば田に水を入れても水が地面に吸われてしまう、粘土は重いから運ぶ道具を作らねば、その道具があれば畑仕事にも役立つからノミとげんのうが欲しいんだ!!」


「分かった、それなら井川村の店で買っていくべ、その新しい道具とやらも気になる、お前がそう言うんだから作った方がいい!!」


耕作が作りたいと言った物は一輪車の事だった、通称『ねこ』とも呼ばれている荷車の一種、ホームセンターであれば必ずある商品の一つである。


今回の美保村の漁師と知り合えた事で漁師の頭は数年で網元へと格段に身分が上がる事になる、網元とはその地域の総纏め役であり、漁師達の頂点に立つ者と言える、武家である大名も一目置く存在であり身分を武士として扱い時には村役人としても採用しその地域の総元締めとしての身分と言えた、百姓でいう処の名主と言える。

この頭の良三は耕助から聞いた底引き網による漁で三保の網元になる話は後程に!!



前世の知識で逞しく生きる耕助!

次章「寺子屋」になります。

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