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銭作り



戦国初期での経済は貨幣経済が整っていない、その為に食料や日用品との物々交換と明銭による銭での支払いが普通にまかり通っていた、朝廷の力が強く荘園からの収入もあり役職に就く公家にはそれなりの手当が支払われていたが戦の影響で所有していた荘園は各地の豪族達にいつしか接収された為に帝も含め公家達は困窮していた、そんな中、中御門家の姫である千寿が三好家の当主との盗まれた米についての直談判した事で中御門家は突如400石もの米を得る事が出来た、400石とはどの位の貨幣価値となるのであろうか?


ある資料によれば明銭の1文が100円程度であると、では1文100円と試算して一石はどの位なのか?

一石は米2.5俵、150キロ、米1000合となる、この時代の米一合は1文と同じであり一合100円になる、一石が1000合であれば100円×1000=100,000円という計算になる。


三好から得た米は400石だから10万×400倍となり、4000万円相当の収入と言える、中御門家には使用人も含めれば30人程の大所帯であり権大納言であればもっと多くの人を抱えていてもおかしくないが困窮している時でありそれでも他家より大所帯である。


もう少し貨幣に付いて説明すると、基本的に1文が貨幣としては最小単位の銭になるが実は悪銭という銭がある同じ1文の貨幣なのだが混ざり物が多く含まれた質の悪い1文銭である、銅銭の筈が鉄が混じり錆びる1文銭、要は偽の1文銭であり、それも普通に利用されていた、但し本物の1文に対して4分の1、又は5分の1の価値と見なされ利用されていた。


それともう一つこの時代はまだ1両という貨幣基準は整っていないようだ、時代劇でよく見かける1両の小判は江戸時代に入ってからの貨幣になる、戦国期は1文と貫という単位が銭の基準単位、よく聞く一貫である、では一貫は幾らなのか? 如何やら1000文が一貫の様である、先程の計算で一貫は10万円となる、100貫で1000万円という事、それとこの時代の重さの単位も理解しなくてはならない。


一番小さい重さの単位は1いちもんめ現代の3.75gです、ややこしいのが、斤という単位である、1きんは600gです、一貫の重さは1匁×1000=3.75㎏という事に成ります。

この時代は明銭が中心の貨幣です、日本独自の尺貫法が整って行くのは江戸時代になってからになりますので、主に文と貫という単位と俵、石という単位が使用されます。

※追記 米1俵は60キロになります、1石は先程紹介した150キロ、2.5俵です。




── 銭作り ──



「一善やりましたね、無事に帰られて安堵致しました、伊勢様より協力を頂けるとは本当に助かりました、千には幼子ゆえ手助けして頂ける方達がどうしても必要です、館から出る事も出来ませぬ、一善が頼りなのです、ようしてのけてくれました、一善に感謝しかありませぬ!!」


「某も本当に姫様が言われたように運ばれるとは驚いております、戻れて安心しました!!」


「近くの宿にいる伊勢様の配下の者達はどのような者達ですが?」


「最初お会いした時の数人は山伏でありましたが、どうやら違うようです、恐らく伊勢様の忍びの者達かと思われます、某より身軽であり健脚です、お侍のようではありますが違うかと・・・」


「うむ・・一善の見立ては正しいでしょう、妾はその者達の正体に察しがつきます、成程・・成程・・やはり既に伊勢家で雇われていたようですね!」


「何故姫様には察しが付くのでありましょう、館から出る事もせずに判るのですか?」


「それは色々と・・・内緒じゃ!! 何れ話す時が来よう、では一善先程の事をその頭領なる者にしかと頼んだぞ、明日の昼餉後に中庭に連れて来るのじゃじゃぞ!!」


「判り申しました」




── 忍びの者 ──



「風間殿! よう参られた、妾が中御門家の娘千寿である、殿上に上がる事はかなわぬが済まぬ、客間を使うには妾にはまだ出来ぬ、この通りじゃ、赦されよ! それと伊勢様には心から感謝している、心づくしではあるが一善が後程宿に品々を手配しておる、皆様にて召し上がって頂きたい、銭作りの委細はその時にお聞きくださいまし!!」


「丁寧なるご配慮忝のう御座います、主より姫様の指示に従う様にと仰せつかっております、銭作り差配遠慮くなく我らをお使い下さい!!」


「うむありがたい話じゃ! ところで風間殿、もそっとこちらに・・もっとじゃ、この文の者を知っておりますか?」


千が書いた文には『服部彦六』という名前が書かれていた。

名前の文字を見て一瞬眉間に力が入った風間、それを見逃さず千から発した言葉は!


「お知り合いの様じゃな!! できれば今後の事になるがこれを機に伊勢様とは何かと繋がりを得たいと、むしろ妾はこの繋がりは好機であると、そこで風間殿のお知り合いであろうそこに書かれたお人を妾のもとに来て頂けないかと思うているのじゃ、繋げて頂けないであろうか?」



歴史物で誰もが知っている名前に服部半蔵という名前がある、ここで氏について面白い史実がある日本には古代苗字として氏名が1182の氏があるとされている、『新撰姓氏録』(しんせんしょうじろく)は、平安時代初期の815年(弘仁6年)に、嵯峨天皇の命により編纂された古代氏族名鑑に載っている古代から日本の氏が紹介されている、記載されているという事は日本の生い立ちの歴史の中で何かしらの役割や、ある地域を治めた古い豪族である証拠と言えよう、1182氏というキーワードでヒットするので関心ある方はどうぞ。


そして服部家はその古代より続く氏の家である、古い家なので幾つもの系統に分かれている、大和・摂津・山城・遠江・駿河・武蔵・両総・常陸・近江・美濃・会津・加賀・伊賀・三河・伊勢に数百年を経てそれぞれが分家などの理由で服部家は枝分かれされている、服部という氏の変遷で、機織、羽鳥、服織等若干変化しているようだがこれも皆服部一族に繋がる様である、千寿が風間に示した服部彦六は武蔵の服部家であるが、元を正せば1400年代伊賀国名張の城主であり代々彦六と名乗った、しかし今はその彦六は伊勢家で銭雇で風間に付き従っている、彦六は伊勢家での特に地位のある者でも何でもない、まして配下でも何でもなく、単に銭雇の忍びである。


千姫からの繋げて頂けないかと言う意味は、千に寄越せという意味合いでもあった、僅か6才の女子の口から服部彦六の名が出た事で風魔の頭領小太郎でさえ驚きでありここにいる千寿姫という存在に瞠目せざるえしかなかった。


千は現代の転生者であり戦国時代特化の歴オタ、前世では伊勢家、後の小田原北条家の事を知り抜いていた、秀吉による小田原成敗で改易となり滅亡する北条家、関八州の覇者の北条家ではあったが時の人、関白秀吉には抗う事も出来ずに籠城戦で敗北し滅亡をする最後の大家である。


千が生まれた年は1500年、今は1506年、戦国期時代としては初期とも言える、信長も、秀吉も家康もまだ誕生していない、この初期の戦国時代は一説によれば日ノ本で1000を超える豪族達が生き残るために動き出した時である、その動きに合わせて公家達も右往左往している時と言えた。



翌日、宿に千寿が手配した豪華な手始めと言う名の歓待の食事が用意された、風間達は忍びの者であり特段地位も無く裏で働く汚れ役、当主である伊勢宗瑞からこのような施しを受けた事も無かった、実に驚きの持て成しであった。



「皆様方、千寿姫様からの手始めにとお祝いの品を用意致しました、酔う前に、ここで皆様に姫からの指示をお伝えいたします、銭作りは当家の蔵にある米をこの者に米商人となり近づき米200石、500俵の米を年明けに売りさばいて頂きたいとの事です!!」



この話に又しても驚愕し驚いたのが風間小太郎であった、小太郎は中御門家がどのようにして米400石を手にいれたのかという経緯を聞いておりその売り先に驚愕していたのである。



「済まぬ! 一善殿!?・・・本当にその家で間違い無いのであろうか? 某の聞き間違いかと思うが・・本当に三好家に売るのか?」



風間が驚いたのには理由があった、何故なら米を売る相手が『三好之長』であったからであり、それも売る金額が相場の三倍で売ると言う千寿姫の指示であったからである、そもそもその米は三好之長からの善意で頂いた米を、その米を三倍で買い取らせるという趣旨に聞こえる指示であり、千寿姫は鬼なのか又は魔物の類では無いのかと、その可愛い姿とは似ても似つかぬ恐ろしい指示に言葉を失っていた。



「済まぬ! 風間殿!! 某も姫に最初聞いた時は耳を疑ったのだ、訳を聞いたらそれなりの理由が姫の口から語られ某も納得出来たのだ!!!」



「・・・一善殿!! 某・・混乱しておる、米を頂いた家に三倍にして売るとは、どのような意味なのだ!? 中々理解出来ぬ、困惑している!!」



「では聞いた話をそのまま説明致す、年が明けると三好家は戦支度になるそうよ、そして最初に近在から手あたり次第の兵糧の米を買い漁っての支度となる、兵糧の目途が付かぬ場合は戦に参戦出来ぬ事になる、急ぎ買い漁る為に米相場が3倍以上に跳ね上がる、そこで折角得た米ではあるが最低の3倍で売ると、仮に通常の相場で売れば三好家を見下す事に成り失礼となる、ゆえに仕方なく3倍で売るというのだ、戦時に米相場が3倍以上となるは普通の事ゆえ、失礼に成らぬと言うのだ!!」



「・・・そうなのか?・・・我らは戦で兵糧の手筈を整えた事は無いゆえ、相場の事まで分らなかったが、髙くなる事は想像が付くが・・・ただで手に入れた米を三倍の高値で売るとは・・・その米は如何程で売る事になのだ?」


「姫の話だと500俵なので、三倍なので600《6千万円》貫になるという話であった!!」


「それは又凄い銭であるな! 空いた口が塞がらぬ!」


「風間殿! まだ驚くのは早いで御座る、更に続きがあるのだ、売った銭で尾張で米を1500石を買い付けて来いと言うのじゃ、その米を又三倍で三好家に売ると言う、戦が続けばもう一度それを繰り返すと言う事なのだ!!」


「・・・ちと待ってくれ・・頭が追い付かぬ・・・姫様は何を考えているのだ、城でも造るのか? いくら何でも公家の家で・・・そのような話は聞いた事もないぞ!!!・・・が・・・しかし笑いが止まらぬ!」


「姫の頭の中ではそれでも全然足りぬようなのだ、算術では最低でも1800貫となり、上手く行けば5400貫となる、色々な手当てを差し引いても5000貫となるようだ!!!」



「我らはとんでもない事に巻き込まれたようだ、小田原の伊勢様とて腰を抜かすぞ! 武家の家では兵糧となる貴重な米は売らないであろう、その米を兵糧として戦に勝って石高を増やそうとしているのに、あの姫様は米を転売するだけで石高を増やそうと算段しているとは、それも5000貫だと、戦わずして2000石の領地を得るのと同じだと言うのか・・・我ら風間の力で成し遂げて見たい豪気な話であり指示でありますな(笑)是非とも伊勢様に土産話としてやり遂げたい! 一善殿仔細承知した、後はお任せ下さい、我らの力をお見せ致しましょう、さあ~皆の者姫様に感謝して酔いつぶれようぞ、吞み明かすぞ!!」



千寿姫の話を聞き武家では思い付かぬ策にて銭を手に入れる算段に驚くもそれが実現すればと面白き夢のような話だと感嘆した風間かざま小太郎であった、この小太郎こそ後の風魔小太郎である、風魔と名乗るのは伊勢家が北条家と名乗り始めてからの名である。


ここに風間と呼ばれた由縁がある、忍びの術が長けており、いつどこからやって来たのか解らずに風の様に姿形が判らぬ内に忍び寄る事から風間(かざま)と呼ばれ北条家となってから風魔と名乗るようになったとの説がある、小太郎の名は代々の当主が名乗る頭領の名である。


千は現代のおばさんが転生しており勿論女性である、女性は理想より現実である、現実とは現金の事である。それが現代の女性でありそれは古来から女性の性とも言えた。

次章「西洋メロン」になります。

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