二条問答・・・2
近衛が主役の一人として強烈にデビュー、それも転生者であったと言う、これでこの物語の構図の下地が出来上がったのでしょうか?
次章「本能寺」になります。
「やはり裏で策動する者がいたとは!! それもよりによって近衛とは!! 史実とは恐ろしき修正力であるな!! 今世での刻の流れが史実より早く事象も変化しておると思っていたが暗躍する主役は同じあったか!! さらに油断出来ぬ事に成った、相手は歴史を動かし足利義輝も織田信長も掌で転がした男である!! 今は表に出て来ておらぬ、利休も明智も、或いは秀吉も既に近衛の駒となっておるやも知れぬ!!・・・・何故妾の前世での知識の裏を取れるのであろうか? それとも偶然なのであろうか? 洋一さん《耕助》には此度の件どの様に判断しておりますか?」
寿桂尼には数日前に起きた二条での三家を篭絡する罠があった事、それを無事に回避出来た事が詳細に報告されていた、そしてその罠を仕掛けた首謀者が関白近衛前久であった事が判明したのであった。
「私は玲子さん程《寿桂尼》前世での知識は知り得ていないが、関白の近衛は史実でも常に何度も登場する人物です、長尾景虎、織田信長、豊臣秀吉と、更には徳川家康にも近づいた人物です、足利義輝将軍が三好に討たれる時も裏で糸を引いたのでは無いかと、特に本能寺の変では明智を誑かし変を誘引した張本人だという説があったかと・・・事変の裏に必ず近衛の名が登場しています、秀吉が関白に成れたのも近衛家の養子にしたかと、秀吉を天下人に押し上げる為に態々近衛家の養子にしております、それらの事を照らし合わせれば、此度の罠とも言える奸計の中心人物こそ、全て近衛であったと理解すれば全て納得出来ます!!」
「・・・洋一さんの方がすっきりと理解しているのね・・・私の方が前世での知識が邪魔をしているようね! では今回の件で織田側と明確に手切れとなったけど、次に起こる事変に備えて何をすべきだと!?」
「三好です!! 三好に強い繋がりを作りましょう!! 三好は此度帝の命と言う偽の勅命で四国に一旦兵を引き上げております、流石に帝の勅命では、偽の詔と見破れずに断腸の苦しみの中戻られたと思われます! 此度我ら三家に起きた罠の経緯を三好に説明すれば連動して動くと思われます! 玲子さんとその昔縁のあった三好を引込みましょう!!」
「洋一さん!! 何時の間にか立派な軍師に成りまたね!! 私も密かに三好とは考えていました!! 史実でも三好は信長と敵対している、しかし三好には同盟者が不在であった為に織田に駆逐されている、織田が動く前に早速手を打ちます! 我ら三家が後ろにいるのといないとでは大違いです!! 間もなく氏豊が戻れば氏政を使者として三好に遣わそう、さすればこちら側がいかに本気なのか三好も信ずるであろう!!」
寿桂尼と耕助は前世では夫婦であり二人の会話となれば親近感もあり時には前世での言葉使いに戻るなど実に不思議な空間でもあり寿桂尼にとって安らぐひと時であったが、近衛が表舞台に裏の支配者として登場した事でこの物語は大きな前世とは違う歩みをし始める。
── 二条問答2 ──
遡る事数日前、関白近衛による床に平伏せという命に従わぬ三家、従わねば無礼討ちまで行うと強権の発言で服従を強要するも、近衛の姿勢を一蹴しその程度の脅しは我らに通じぬ、既にこの様な罠に備えておりなんでもないと言わんとの今川氏豊の説明に二条御所は緊迫した場面となっていた。
「関白様は主の言葉をお疑いしているご様子!! 宜しい某今川家軍師の一人としてこの山本が教えて進ぜよう! 主の申した備えとは!! 先ず織田様以下配下の者が我らに切りかかる事は出来ませぬ!! その庭先にも我らの配下が既に皆様方に向け小刀を投げる姿勢で私からの合図を待ち受けております!・・・ほう関白様は某の説明にまだ訝しんでおられますね! では次にこの床下にも配下の者が潜んでおりますぞ!! 床下におれば当然天井にもいると考えるのは至極当然の事! 床下にいる者! 儂の声が聞こえいおれば床板を叩くが良い!!」
勘助の言葉に応える様に床からトントンと音が聞こえた事で関白を初め織田側の配下一同は騒然となる!!
顔を赤らめ強圧な態度でいた近衛の顔から血の気が引き始める!
「如何でありますかな、この部屋だけを見れば関白様、織田様の配下が多くおりますが、我らの忍んでおります配下と、この部屋にいる三家の者を含めれば果たしてどちらが多いのか!? いやはや! いやはや!! これ以上の説明はこれより関白様の態度如何でありましょう!!」
関白近衛は公家社会の者であり武家とは育ちが違う、織田信長であれば勘助の脅しに屈せず一戦交えるという即断も無いとは言えない、しかし、ここから先の決断は関白に仕向けられていた、そもそも強権的に床に平伏せという命がきっかけでここまでの展開となっておりそれは当然と言えた。
緊迫する中答えに窮する関白!! 殺し合いが始まるのか、回避するのかの判断に迷う関白、織田側には刀の鯉口に手をかける者も、緊張感が頂点に達したと言えた時に思いもかけぬ者が現れた!
「危ない! 危ない! これだから武士と言う者は思慮が足りぬと公家衆に揶揄されるのです、関白殿もお困りの様子、さてさて皆の者座りなおされよ!! 中腰で構える等三家に失礼であるぞ!! 我は帝の使いとなり参った、この事を帝に申し上げても良いのか? 麻呂が伝えれば関白殿の面目も落ちてしまうでおじゃりますぞ!! 更に将軍家は招いた者達を切り付ける思慮足りぬ者達と国々に伝わりますぞ!!」
緊迫する中現れた者は正二位の山科言継であった、帝の使者と言うのは本当の事であり、上京した今川家、北条家、長尾家の三家が銭の他塩澄酒など多くの品を帝に献上した事で拝殿の許可を伝える為の使者であった、只それとは別に事前に寿桂尼より三家と将軍家での謁見で一悶着が起きた場合に手助けを頼まれていた、この日饗応の場で織田信長による詰問が始まった事が山科に忍びの者から知らされ、それをすぐさま帝に伝えた事で急ぎ対処するようにと命を受け登場したと言うのが本音の処であった。
山科の登場によりある意味救われる場面となった関白も安堵の表情へ!!
「山科殿!! 帝の使者とは・・・麻呂は聞いておじゃりませぬが?」
「何を申されます、帝が関白殿を今朝より探して居りましぞ!! まさかここにおいででありましたか!! 探しても不在ゆえ関白殿の代わりに麻呂が帝の使いで来たのです、今川家、北条家、長尾家は明後日参内するように、帝への拝謁が許されました、今宵は麻呂の屋敷に滞留する様に失礼の無いように拝謁の際の差配のお世話を致しましょう!! それにしても平伏せとか平伏せぬとか馬鹿も大概に致しませ!! 京が平穏になってまだ浅く、今だ野盗が蔓延る不穏なる都です、何の為に将軍家は三家をお呼びしたのか!! 関白殿が先頭になって争われるとは他の五摂家が聞いたら関白の座を狙われますぞ!! 公家筆頭の意味を噛み締めて下され!! ささ三家の皆様は麻呂と参りましょう!!」
── もう一人の転生者 ──
関白近衛前久はもう一人の転生者と言えた、正確には前世での記憶を知識として知り得ている転生者と言えた、前世で自分は何者で誰であったのかという事柄には記憶が無く、ただ知識として日本の戦国時代とはどのような物だあったのかを凡その事を知っていた、寿桂尼や耕助達との違いは明確な前世での記憶が残っているとは違い主な歴史的な暦を知っていると言う事であった。
五摂家の首座の家に産まれた自分の近衛家が戦国時代にどれ程の影響力があったのか特別な知識は無かったものの、豊臣秀吉、織田信長、明智光秀などの人物が天下を争った知識は持ち合わせていた、ただ今川家は桶狭間と言う合戦で今川義元が討たれ滅亡に向かうはずが今世では何故はその合戦も無く史実以上に力がある事にその不思議さと、これらの者を関白と言う力を使えば自分が天下人に成れるのではという大いなる野望を持つ近衛前久であった。
天下人の野望を持つ近衛前久は前世での知る知識を今世で利用する為に、既に中村日吉(秀吉)、織田信長、斎藤、浅井、六角さらには手駒として明智光秀を手中に納めていた、明智までが近衛側にいる事は寿桂尼もまだ知り得ていなかった。
この戦国期における関白という力は想像を絶する力を持つと言って良い、史実においてもそれは同じであり、絶大な権力がある立場と言えた。
人臣で最も天皇に近い地位にある家であり、戦国時代より近年幕末まで日本の中で影響力の家と言えた、最も著名な人物は、昭和前期に3度にわたって内閣総理大臣を務めた近衛文麿がいる。




