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二条問答・・・1



二条御所は大内裏の中に在って帝が住まう内裏近くにあって征夷大将軍の居城、それは政の中心地と言えた、この日三家の当主が将軍足利義輝の徴集命にて参集、凱旋の祝いを届け今後は将軍の命に従えと言う儀式とも言える戦勝祝いが行われた。


三家とは勿論、今川家、北条家、長尾家の三家同盟である、石高では北条家が既に200万石を超えており関東の地での覇者としての管領家という立場、表向きは三家の首座とも言えたが今川家はそれとは別格の家格でありその意気込みで参加していたが、その態度に難癖を付け祝いの席で予想通りひと悶着が起きて居た、その難癖を付けた人物こそ織田信長であった。



「将軍が都に帰還してから凱旋の戦勝祝いの使者が来るのがちと遅いと思うたが今川家では失礼とは思わぬのか? 酒の席ゆえ腹蔵無く遅くなった理由をお聞かせ頂きたい!!」



「・・氏豊様!! 勝手ながら某の差配にて今日となりましたゆえ私山本から織田様に説明させて頂きます! 」



「ほう、その方の差配にて遅れたと申すのか、ではその理由は?」



「はっ! 某今川家に仕える山本勘助と申します、此度の戦勝の祝い出立日時を決める際に将軍様の使者には準備が整い次第参りますと申し上げております、その準備を整える時間を幾ばくか頂いたという事であります、その内容はこちらにおわします関東管領上杉様より先に行く訳には参らず、又、当家の同盟者であります長尾様と三家にて将軍様の元に参るのが一番の礼儀であろうと、その三家同時に参る為に少々お時間を頂いたのであります、ゆえに特段失礼に当たらぬかと!! 疑念晴れましたでありましょうか?」



「むむむ、誠に今の説明にて益々あやしい疑念が深まった!! ではその使者にその旨を伝えておらぬのはどういう事であろうか? ややもすると将軍に反旗する意思でもあったのかと人によっては疑義を唱えるのではあるまいか?」



「あっははははー、これはしたり!! 忌憚なく腹蔵を申した某の説明に納得出来ずに物申すとは難癖ではありますまいか? 失礼ながら織田様、斎藤様、浅井様とお連れの家々様の此度の功は将軍様が凱旋出来た事を鑑みれば実に大きいとこの山本は感服しております、しかし今川家にはそれとは別の大きな功があるとは思いませぬか?」



「ほう!! ほざいたな!! ではその功とやらを聞かせて頂こうでは無いか、風呂敷を広げた話で恥を欠く事になるのは今川家の面汚しと成るぞ!!」



「そのような心配はご懸念しなくとも大丈夫であります!! ではご説明致しましょう!!  我が今川家は足利将軍家とは実に近い親族衆のお家であります、何しろ足利家を将軍の位に押し上げた功労の親族衆であります、その事は皆様も誰もが知る所でありましょう、足利将軍家が絶えなば吉良が継ぎ、吉良が絶えなば今川が継ぐとは世の決めごとの一つ! 先代の今川氏親様を初め今川家では代々足利将軍家を影となり支えて来ております、今は戦国の世であります、お支えするにしても今川家の足元が定まらねばお支えする事も出来ませぬ、私の知る限り残念ながら将軍家で出来ませなんだ朝廷への献上を・・具体的には日々の糧となります銭の献上を毎年続けております、確か累計で5000貫《5億円》を超えております、また将軍家にも3000貫《3億円》を超える献上を行っております、これらは今川の民が流した汗から作られた結晶と言えます、実に尊い行いであると某は感じ入っております!! 」



「織田様方々の功とは趣が違いますが如何でありますかな!!」



「武士が銭を話しをするなど下賤では無いのか?」



「これはしたり!! 副将軍ともあろうお方が銭しか見えておられませぬか? 饗応の席とは申せ目を見開いて開いて下さりませ!! 又は既に酒に吞まれましたかな!! では銭より重き功をお聞かせ致そうではありませぬか!! 今川氏輝様の代に当家は戦回避の為に北条家と同盟を致しました、それと同じく長尾家とも同盟を行っております、今では北条様が関東管領となり三河以北の関東の地は戦が止んでおります、戦を終わらす事こそ将軍をお支えする一大事なる大事であります、その一大事なる功を知らぬとは些か酒宴の席と申せ難癖を付けるはそれこそ下世話な話として世に広がり致せば将軍家の地位を下げる事になりましょうぞ!!! 某の話を下賤とまで先程申されました、三家同盟の関東では数年前より戦は止んでおります、この大功の説明に如何抗いますか?」



元々織田家に取っては今川家は敵方でありそれは今も何ら変わっていない、当主が集まる面々の衆座の中で今川家に恥を欠かせるのが目的であったが、勘助は事実を述べており何等瑕疵のある説明でも無く正に将軍家を支えている話であると言えた。

しかし既に激昂していた信長は刀の鯉口に手を掛けていた。


この状況を冷静に見ていた太原雪斎は敢えて大きい声で山本勘助を叱るように諫言をおこなった。



「勘助よ! 貴様は今川家を恥さらしにするつもりか? 織田様は天下の副将軍であるぞ!! 今川に仕える者であればこそ物の言い様に礼儀を取らねば成らぬ! 織田様の申される疑念を丁寧に説明してこそ今川が務めるべき姿勢である、その方の説明は敢えて織田様の疑念に挑戦するかの如く挑発をしておる、それでは鉾を収めようとする織田様の退路を断つ物言いである、その責をお主は取れるのか? 御台様に申し訳ないとは思わぬのか!! 拙僧は客将なれど御台様より仰せつかった此度の使者の一人である!! その責を果たす為に敢えてその方山本に申し付ける、織田様への疑義の説明失礼の段をお許し願えるよう頭を下げよ!!」



雪斎が突如大声で間に入り勘助を叱りつけた事で信長の怒りも溜飲を下げ勘助も大変失礼なる物言いであった事を詫びた事で饗応の問答は一先ず終息したが、しかしそれを見届けていた武家とは明らかに違う公家らしき者が雪斎に詰問に近い言葉を問いかけた!!



「先程そこの山本なる者が朝廷を支える為に長年に渡り銭を献上しているという話を申し述べておるが、この日ノ本に住まう全ての者が帝を支え、朝廷を護るは当然でありそれが下々の役割である、それをあたかも功として態々述べる事は朝廷を、帝を軽んずると見て取れる、今川の家は武家である将軍家はともかく、朝廷を軽んじる家なのであろうか? これは詰問では無く麻呂の感じた初見である、如何であろうか?」



「此度饗宴の責とは言え、失礼なる言い訳を行いました山本に代わりこの太原雪斎が頭を下げ申す、敢えて説明するとなれば今川家に縁する内蔵頭を務めまする山科言継様より度々朝廷が困窮している旨を当家では聞いております、当主氏豊様の母様は中御門家の出自でありなにかと朝廷とも深い繋がりがあります、山科様からは某も度々帝を支える為の献上の申し出、さらには公家の皆様の幾つかを当家でも庇護しております、今は戦国の世であり何かと朝廷も不如意であるかと察します!! 山本が申した事は決して他意は無い物であると、言葉のあやとしてお聞きいただければと申します!!」



「ほう言葉のあやであるか・・・聞き届けぬと申したら如何致す!!」



「お待ち下され!!」



突如これまで意見を申さずに黙って見届けていた北条家の当主の隣に座っていた幻庵が一声堂々たる威圧ある声で間に入って来た!!



「我が北条家は関東管領なる大責なる家、関東の地にあっては将軍職と言える、身なりから判断して高位なる公家のお方と判断致しますが、武家をどのように見ておられますのか、今の問答で些か疑念が生じました、そもそも朝廷は律令を国持の武家に任せた事が今日の災いの元とになったと思われませぬのか? 朝廷を公家衆が、いや公家衆こそが帝の政を支えておればこのような人を殺し合う世は来なかったのではありますまいか? 武家が朝廷を、帝をお支えするのは当然でありますが、公家衆を支える訳では御座らん、公家衆も帝を支えると言う根本が足りませぬから今日のような事に発展したのでは御座りますまいか? 帝を長年に渡り、さらに将軍家をも支えて来た今川家に瑕疵があると申すのであれば我ら三家は別の道を歩まねばならなくなります、これ以上酒席とは申せ三家筆頭の今川家の行いに疑義を唱える事は承服出来申さぬ!!」



「今の事!! 長尾家も同じで御座る!!」



「その方麻呂を高位の公家ともうしたが、麻呂は帝の使者として見届ける様にと命を受けた関白である、敢えて関白の位を申しておらなかった理由は将軍の位を下げぬ為に公家の一人として参加したためである、然るに先程からの織田殿からの問いかけに慢を伏した物言いが見て取れた、さらには朝廷を同様に軽んずるように聞こえた故に麻呂も強き言葉となった、麻呂にも他意は無いがここに関白がいるという事は麻呂は帝の分身ぞ!! その方ども頭が高い!! 黙って額を床に押し付けよ!! その方らの目の前にいるは帝ぞ!! 拝礼せよ!! 」



益々饗応と言うにはかけ離れた席となり関白までもが激昂した事でもはや収拾は付かなくなった、黙って拝礼したとて無事に済むのかどうかも見通せぬ状況に!! 三家以外の面々は将軍側でありその首座に座る者は関白という事が判明したと言える、三家を脅し忠誠を誓わさせる事が此度の目的とも言えた。


そもそも近衛の目論見は信長が三家を脅し触れ伏した頃合に関白という立場で助け舟を出し従わさせるという最初から仕組まれた罠でもあったが、信長に反論した事で失敗に終わると判断し急遽関白という強権を以って屈服させる問答に変えたのであった。



「どうした!! 麻呂は関白近衛前久であるぞ!! この身は帝と同じぞ!! 床に額を付けよ!! さすれば温情を以って不敬を見逃しても良い! さあー平伏すが良い!!」



「さて!! 我ら三家はそろそろお暇いたそうでは無いか! 国持の武家の頭領である我ら三家は公家衆を護る事は有っても命は受けぬ!! 関白殿は酔っておいでのようだ!! 関白殿の御身体をご案じ退席致そう!!」



「貴様!! 今川氏豊!! 麻呂が信長に命じればこの場にてどうなるか責任は持てぬぞ!! 平伏さずに立ち上がれば貴様らの命運は此れ迄ぞ!」



「まだ言われますか? では教えて進ぜよう! 我ら三家は敵方となるやも知れぬこの場に何も用意せずに臨んだと思われますのか? 将軍家に仇は無くとも今川家と織田家は仇のある家、何某かの罠があるやも知れぬと考えるのが我らの立場! 関白殿も織田側の立場と見受けられる!! 我らに刃を向ければ二条の館は修羅の館となり我ら三家は敵方となった者達を成敗する為に動く事になりましょうぞ!! それをお望みでありましょうか?」



「なんと申す! 由々しき不敬なる物言い、お主らを成敗するは我らの方ぞ!! 何が罠であるか!? それに備えているだと大言なる大ぼらを吹くなど無礼討ちに等しい!! 最早勘弁ならぬ!!」



「お待ち下され! 主より述べました罠に備えが無いとのご判断されますか、某山本が、お望みであればその備えをお見せ致しましょうか関白様!!」



「何! 平伏さずにまだ言うか! 備えなくば最初にお主山本から処罰致す、その備えとやらを聞こうでは無いか、この麻呂が関白が拝見致す、覚悟せよ!」



最早収拾が付かぬ処迄問答が繰り返され何時しか後戻りできぬ局面に、信長以下の主従の面々も三家を処断するも止む無しという空気が漂い室内は重く殺気が支配していた。



果たして無事に二条御所から三家は生還出来るのであろうか?

次章「二条問答・・・2」になります。

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