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先手と後手




控えの間に侍女らしき女子が千寿を呼びに来た、相手が幼い女子という事での侍女が迎えに来たという感じであった、迎えの侍女より手を差し出され手を繋いでの廊下渡りで、数歩遅れて一善も付き従う。

三好之長は使者が追い返された内容を聞き、手抜かりせずに先ずは応対した場合の反応を確かめる事にした、但し幼女であるという事には変わりが無い為に何かと怪我をさせぬように手配りした之長であった。


広間に通され一番後ろに一善が見守る様に拝礼し座り、指定された場にはやはり座布団が・・幼女への配慮と言えた、そこへ上座入口の戸口がゆっくと開き壮年に差し掛かった之長が入って来た、この初対面では三好之長48才の働き盛りの時と言えた。


之長が入室したと同時に拝礼し出迎える千ではあったが配下では無いので一礼した後に面を上げ笑みを浮かべて三好之長を見つめた、その仕草が幼女にしてはやはり堂々としている事に高位なる公家の娘とはこのように躾られているのかと感心した之長であった。



「今日はよう来られました、先立っての使者が失礼を述べたようで姫子殿と意見の相違があっては成らぬと、出来れば一度お会いして見ようとお誘いしました、某が三好家の三好之長である、千寿姫殿よろしく頼む!」


「これは丁寧なる挨拶、この千寿嬉しく思いまする、お誘いの話を頂き大変嬉しくこの日を待っておりました、三好様にお会い出来る機会を頂き感謝致します!!」


「千寿姫様はこの爺が怖くはありませんか? 武家の者ゆえ父上様達とは違う無骨の者の頭領になります、大丈夫でありますか?」


「はい、問題ありませぬ、父上様達とは違う意味で頼りになるお方であろうと千は先程より安堵しております!!」


「これはこれは嬉しいお言葉、この三好之長素直に喜ぶしかありませぬ、では少し話した後に茶菓子を用意しておりますのでご賞味下さい!!」



「では最初に千寿姫様にお聞きしたいのですが、当家の使者が姫に話した内容にお怒りになったと、さらにその話は某を誹り誹謗するまやかしの類、或いは某の地位を下げする返事、さらに趣の内容が帝に通じれば三好家は由々しきお家であると言われたと聞きました、出来れば姫様がその様に理解した理由をお聞かせ頂きたい、某は何を聞いても大丈夫ですのでご安心してそう思われた事を存念無くお話し下さい!!」


「はい、千は確かに使者様の話を聞き、感情を抑える事が出来ずに声を荒げました、使者様には大変失礼な態度であったと反省しております、しかし千の述べた話の内容は今も同じであり趣旨を変える必要は一切要らないであろうと、趣旨を変えれば三好様をそしり誹謗し地位を下げる事に加担する事になります、ゆえに千の心は今もあの時と同じであります!!」


「姫は使者に話した内容は今も曲げず、曲げる事が某を陥れる事に繋がる、ゆえに曲げないと言う事ですね!?」


「はい、その通りです、ではそれを妾が感じた事をお話し致します、事の発端は父上の荘園の米が三好家の幟を背負った者達により刈り取られ盗まれた事から始まります、それを返して頂く為に妾千より三好様に文をお出し致しました、その後使者様が来られ、それは三好家の幟を背負った野盗の仕業であり当家の者達では無い、しかしこの事を憐れんで当主様である三好之長様より恵として米10俵を差し上げますという話でありました!!」


「うむうむ・・・」


「ここが肝心な処になります、三好様は今の京では誰もが知る武家の棟梁のお一人であります、今後益々栄えあるお家になる三好家であります、その当主の判断が曲がりなりにも間違えれば進む道は大きく外れる事になります、先ずは稲を盗んだ者が野盗であっても三好家の幟を背負えば、誰もが三好家の者と判断致します、本当に野盗の仕業であっても、野盗に幟を盗まれた家、幟の管理も出来ない家なのかと大切な幟を易々と野盗に利用される家が、この京の町にいても大丈夫なのかという事を心根の中に抱く事になります、先ずはその言い訳となる説明は不要であります、そして憐れんでの10俵とは余りにも三好之長様を馬鹿にした話であります、当家が10俵を受け取りましたらその話は帝にも通じてしまいます、天下の三好家は米10俵で、力押しで決着を図ったのかと言う、なんとも頼りにならない家であると、上位の公家衆も帝も何事かにつけ三好家の10俵の話をする事に成りましょう、朝廷の者達は世間を知らぬ者達であり、世の事を知らぬゆえ、いつまでもこの10俵の事を忘れませぬ!!」



千の話を聞く内に、確かに・・・確かに・・・これは拙ったやも知れぬ・・・朝廷の事など考えた事は無かった・・・まして帝に通じる話だと・・・冷静な振りをして聞き入る三好之長。

さらに追い打ちをかける千寿!



「そして最も大切な事が、この話の決着を間違えれば三好様はこの先成り立たなくなります、それを回避すべく千は思慮した上で使者様の話を断りお受けできないと申したのです!」


「千寿姫殿! その最も大切な事とはなんでありましょうか?」


「朝廷の世界は権威が全てとなります、武家の世界も大きく成るには権威が必要になります、ではその権威とは、どんなに家が大きく成ろうとも朝廷が動かなければ得る事が出来ぬ官位がどうしても絶対に必要となります、千の父上は権大納言という殿上人と呼ばれる参内出来る位人になります、武力の力は無くとも帝に会える立場の位を持つ者です、しかしどんなに力ある武家でも官位が無ければ参内も出来ず他の武家も認めぬ事になります!」



千の語る話に冷や汗を背中にたっぷり流す之長、千に嫌われたら先行きに暗雲があるやも知れぬと。



「これからの三好様には必ず官位が必要となります、米10俵を受け取ればその道は閉ざされるやも知れませぬ、ここは懐の大きさを世に示す好機到来と、災いを福と成す事が出来てこそ天下は近づきます、民百姓が求めるは災いを払いのける事が出来るお方を望んでおります、付け加えれば何れ後10年もすればこの千もどこかのお家に嫁ぎます、権大納言の家の娘が嫁入りされる家であればそれだけで格が上がります、嫁ぎ先は解らねど大家の家に行く事になるでしょう、今は未だ幼い千ではありますが、この千と深い誼を結ぶ好機かと三好様にお伝え致します!」



「・・・実に忝い、当家を想いそこまで千寿姫様に思案致せし事、某も反省した、この通りであるお許し下され、姫の申される事いちいちもっともな事であった、忙しさにたまけ、使者に任せたのは某の責任である、今少し協議した上で千寿姫様に文を認めますので大納言様に良しなにお伝え下さいまし!!」


「三好様こちらこそありがとうございました、私には爺様がおりませぬ、これを機に千の爺になって下され、時々会って下され、私からは行けませぬので文でこの千を呼んで下さいませ、この通りです!」


最後まで力押しする千であった。



その菓子を頂き心配する父上と母上のもとに帰り報告した千より驚きの言葉が出る事に。



「父上様!! 母上様! 無事に戻りました、三好様もこちらの意を汲み取って頂ける事になりました、きっと米は戻ります、野盗に盗まれた米は戻る事になるでしょう、ひょっとしたら増えてもどるやも知れませぬ、それと時々三好様が遊びに来る様にとの話でした、これにて三好家は中御門家を大切にする事になるでありましょう!」


千からの報告では余計に心配となり一善を呼びつけ話の内容を聞く事にした父と母親であったが、話した内容が内容だけに身震いして聞き入る二人であった。



「千はいつからあのように口達者になったのか? 口達者という表現では済まぬほどの知恵者であるぞ!!」


「そう言われましても、貴方様の父上様も権大納言でした、妾の父も権大納言です、そして貴方様も権大納言であります、その血が凝縮して千に流れているのやも知れませぬ、知恵無しの子では困ります、知恵者である方が良いではありませぬか? 貴方様に判らぬことが妾にも判りませぬ!!」


「確かにそうじゃ、長子の宣秀も相当に優秀じゃ! 血じゃ、血に違いない、それしか思い当たらぬ!!」


いや、本当は歴オタなだけであるとこの話を聞いたら堂々と述べそうな千であった。



── 返答 ──



家に戻ってから二日後に三好之長の文が届いた、そこには千が考えていた以上の事柄が書かれていた。

先ずは中御門家宜胤にお詫びの言葉と千寿姫と話が出来た事を喜ばれた内容が書かれており、最後に当家からの中御門家に感謝として米1000俵を献上する事が明記されており、今後は中御門家の荘園は三好家が守るので安心して欲しいとの事が書かれていた。


「なんと米が100石の米が盗まれた事で400石になって戻るというのか?・・・・破格の返事では無いか? 返礼はどうすれば良い・・・どうすれば良いのだ? 」



「父上様、千に良い思案があります、此度の事を帝様と他の公家の家々に三好家の事を話されませ、そして帝に三好家に官位を与えてはと助言して下され、三好は未だ無官位であります、低い官位でも充分喜ぶことになりましょう、さすれば帝にもいろいろと献上の品が届く事に成りましょう、それと三好を見習い他の武家からの献上もあるやも知れませぬ、窮する朝廷に好機になるよう父上様が差配してはどうでしょうか?」


「お~そうであるな、それは良い事じゃ、無冠の者なれば簡単じゃ、空きの官位が沢山ある、それにしても米1000俵とは、千のお陰じゃな、褒美をやらねばならぬ!! 何があるかな? 新しい着物でも調達するか? どうじゃ?」


「それなら父上様お願いがあります、1000俵の内一時的に500俵貸して下され、倍にしてお返し致します、それでどうでしょうか?」



何を言っているか判らぬ宜胤であったが、うんうんと勝手に頷いていた事を後で後悔する事に。

千にはある計画があった、先ずは嫁に嫁ぐ前に自前で大量の銭を得る事であった、銭を得る方法はそれなりにあるが公家の家という事で条件が絞られる、前世での知識があっても6才の娘では思う様に出来ない、しかし今回予想以上の米を得る事が出来たのでそれを元に銭を作る事にした。

米は戦国時代では武器でもあり兵器でもあり戦略物資でもあった、歴史を知る千寿の手にかかれば銭に生まれ変われる。


その後本当に1000俵もの米が届けられた、が、しかしここで大問題が生じた、米をしまう蔵が満杯となり館は勿論、下男下女達までが住まう部屋にまで米を置く事になった中御門家、結局千がどうしてもいう事を聞かず500俵の米を任せる事にした、理由を聞いても三ヶ月も待てば倍になると言う誘惑に負けた父宜胤であった。




── 一善の出張 ──



「では一善なんとか渡りを付けるのじゃ、妾の文を届けるのだ、妾の家紋入りの袱紗と文があれば信用してくれる筈じゃ、米500俵が倍になる好機ぞ!! 一善其方が頼りじゃ!!」



一善は山伏ではあったが忍びでも何でもない、千からの頼みとは箱根に行き山伏を頼ればある者と通じる筈だと、その者に文を渡せば米500俵が倍になる道筋が出来ると言う話であったが、一善は全く理解出来ずに文と袱紗を渡され出張する事になった、山伏の修行場として富士の山麓から箱根の山麓は修験者の修行道場であった、一善は仕方なく箱根に向かう事に。


一善が出立してから10日程で千の言った通りの展開を迎える事に、何故か一善は山伏に似た者達に捉えられ小田原の城の一角に通された、城主の名は伊勢 宗瑞そうずい後の北条早雲と呼ばれた時の人である、山伏に似た者達とは風魔の忍び達であった。



「お主の名は一善で良いのだな、この文は本当に中御門家の娘が儂に寄こしたのか?」


「間違いありませぬ、中御門家の千寿姫様からの文になります」


「その姫の事をもう少し説明せよ!!!」


文を渡せば米が500俵の米が倍になると申して渡りを付ける様にと、三好家との話を説明せよと伝えられていた一善は米1000俵を手に入れた経緯を話した。



「それは面白き話であるな、本来100石の米が400石の米1000俵になって戻って来たと、さらにその内500俵がさらに倍になるから儂に力を貸して欲しいと言うのだな、あっははははーこれは愉快な話じゃ、何とも言えぬ痛快な話じゃ、しかしここにはどうやって500俵が倍になるという仔細は書かれておらぬがどうやって倍にするのじゃ?」


「それが私にも解りませぬ、力を借りる事が出来ればなんとかなるという話でした!?」



「お前達ならどうやって倍に出来る?」


「・・・簡単に倍には成りませぬぞ、米が倍になる手立てがあれば皆そうしておりますぞ!!」


「では偽りであると? 態々大納言の娘が遣いを寄こして儂に偽りの協力を仰ぐのか?」


「しかしどうやって倍にするのか見て見たいものじゃな、100石の米を400石にして返させたお手並みは偉業ぞ! 公家の娘にしておくのは勿体ないぞ!! 儂の息子の嫁に欲しいくらいじゃ!!」


「小太郎・・どうじゃ、そちが会って見るか? 面白そうな話であると思わぬか?」


「公家であれば戦で領地は広げませぬ、どのような知恵にて倍にするのか是非この目で確かめという御座います! 」


「ではその方達10名を遣わす、その娘の手並みを確かめて来るのだ、我が家でも使える方策やも知れぬ、これは面白い話となった、一善よ、10名の者達を遣わす娘の自由に使わせよ!!」



この時の伊勢 宗瑞は伊豆ノ国を治め相模半国小田原周辺を治めた一国半の領主であり管領家上杉の領地へ徐々に触手を伸ばしている時であり74才の高齢に差し掛かっていた、この2年前に後に千の盟友ともなる幻庵が誕生していた、嫡子氏綱も存在しているが宗瑞が現役の当主、この伊勢家の西側にはしばしば戦となっている今川家がいた、その今川家は駿河ノ国を治め遠江国を治めており官位も高く威勢を強めいた、今川の隣に三河の松平、その隣が尾張であり織田家となる。


千寿は何れ関係が深くなる伊勢宗瑞に近づいた事になる、史実を知る千寿の一手は史実より先取りした動きと言えた。


何とか転生物になりそうです。

次章「銭作り」になります。

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