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三好と六角




やはり本当に起きたのか! 史実と同じという事が、あれ程御身を大切にと申し上げていたのに、史実通りとは言え残念な事じゃ、歴史は簡単には変わらぬという示唆か? いや変えねば今川家も私の寿命と同じく危ゆいという事じゃ、なんとしても回避せねば、史実を歴史を知る私の力を最大限発揮して捻じ曲げてやる、それが転生した使命である。



実家の中御門家より悲報の文が届いた、そこに書かれていた事は何かと気にかけて中御門家を庇護していた三好之長が史実と同じく亡くなったという知らせであった。


六角 定頼は南近江の守護大名家、室町幕府管領代であり近江国守護、六角家14代当主。

永正17年《1520年》細川家の内乱、細川高国に合力し細川澄元配下の武将である三好之長を破り(等持院の戦い)、両細川の乱を終結に導いたとされる戦いが起きた。


三好側が有利に進めていた戦がこの年の5月に入ると劣勢に、その大きなきっかけが六角定頼の参戦であった、それが等持院の戦いである。

主家である細川澄元は病で戦線を離脱、主不在となり士気が盛り上がらずその隙に六角定頼が参戦した事で三好之長が耐え忍ぶも劣勢に追いやられ逃げ道を塞がれ息子共々5月11日に打ち取られたというのが真相であった。


これにより一見すると細川高国側が勝利し足利将軍義稙が力を取り戻し安定するかと思いきや、むしろそれとは反対の方向に動き出す、何故か? それは将軍の足利義稙は以前は高国側であったが澄元側に寝返り将軍となった経緯があったからであり、戦に勝利した細川高国から見れば将軍は裏切者という構図になる、そしてこの足利義稙は将軍であるにも関わらず細川高国を恐れて阿波国に逃亡してしまう。

尚、細川澄元は病悪化により之長の後を追って亡くなっている。


何故阿波国に逃亡したのか? 阿波国は三好家が支配する国であり、そこには亡くなった細川澄元の息子細川晴元と三好之長の孫三好元長が家督を継いでおり安全な地として逃亡するが結局京に戻らずに阿波国で1523年に亡くなる。


この戦が因となり三好家と六角家は共に敵同士となり不思議と共に衰退していく、歴史とは不可思議な物語でありその何処かに衰退する因果が隠れていたと言える。



この京での異変が伝わり緊急の評定が7月に開かれた。



「今申し上げた通り、高国派が勝利しましたが、足利将軍は反高国派となります、足利家に縁する今川家に取って舵取りが難しい局面と言えます、某からは以上となります!」



「という訳よ、その方達の中にも京の事が漏れ伝わっている者もおるであろう、将軍より参戦の依頼が来た場合どうするかというのが評定の目的じゃ、皆の意見を述べよ!!」



「某、蒲原の縁する者から聞いた話でありますが、京の街中は平穏であると今は、嘘のように静かであると!」


「平穏という事は細川高国派が京の町を支配しているという事じゃな!!」



「殿!! 以前もそうでしたがお方様の方で何やら知り得ている事は無いのでしょうか? それこそ三好之長殿より文を頂いていた関係です、ご実家は大丈夫でありましょうか?」


「うむ、尤もである、関口!! 千寿を頼む!!」



暫くして腹の大きい千寿が広間に現れた、千寿は3人目の子を宿していた。



「殿! 京の事に御座いますな!!」


「うむ、義父殿より何か聞いておらぬか?」



「父上様からは何も来ておりませぬ、戦の件で朝廷も忙しく動いているのでありましょう、そこで妾も仕えている者を京の様子を探らせた処、将軍の所在が判明せぬとの事でした、二条御所にはご不在の様子、噂では点々と移動しているようだと、細川高国様から逃げているとの噂が町衆でもっぱらであると、三好之長様親子が亡くなり澄元様もお亡くなりになったご様子であります、高国様に逆らう者達が一掃されたという事でありましょう!!」



「うむ、そうであるか、儂らの聞いている話とほぼ一致する、今我らが将軍家より援軍を求められたら如何様にするべきかと話していた処じゃ!! そちはどう思う?」



「妾は援軍の要請より、この今川家に将軍足利義稙様が庇護を求めて逃げて来る可能性があると読んでいます、この地に逃げてくれば大変な事に成ります、京の高国様の軍勢が今川家を敵と見なし来るやも知れませぬ、旗頭であった細川澄元様、三好之長様が亡くなり、新しい戦う旗頭として義植様が今川家を頼り来た場合はこの地が主戦場となります!!」



「何! ・・・儂が旗頭として戦う羽目になるやも知れぬと・・・!! これは一大事じゃ!! 今の話聞いたか?」



「お方様の申す通りですぞ、今川家は足利家に関係する家であります、将軍が庇護を求めてきても不思議ではありませぬ、折角新しい田植えをしたのです、田が荒らされては大変ですぞ、殿!! 将軍より援軍であっても庇護であってもお断りして下され!!」



「この岡部もそれが良いかと・・・100万石目指す我らには戦など無用です、自ら災いを呼び込むなど嫌でござる!!」



「いや・・それは儂も同じぞ、どうすれば良い!!」



「であれば殿! 妾に良い知恵があります、ここは細川高国様に戦勝利のお祝いを届ければ宜しいかと、如何てありましょうか?」



「成程、今川家から戦勝祝いを送れば将軍足利義植様はこの地に来ないか!! それは良い知恵じゃ!!」



「しかし殿!! この先はどうなりましょうか? 我ら今川家が高国派と見られませぬか?」



「確かにそれも一理ある、その点はどうじゃ?」



「暫くすればは落ち着きましょう、その間に今川家が石高を増やしましょう、さすれば誰が敵となった処で今川家は安泰で御座います!」



「尤もじゃ! 今の我らが出せる兵力は12000じゃ、それが2割毎年増えればあっという間に20000万の兵力となる、100万国と成れば優に3万は超える、100万石にする事が我らの戦いぞ!!」



「流石、我が殿であります、妾の宿した子も安心して産まれて来るでありましょう、京の事は他家に任せて戦国最初の100万石の大家となりましょう!! それと折角なので以前殿が皆に食させる約束の極上の品を用意させております、今日は皆様に御賞味頂きたく手配りしております、今川100万国を目指したっぷりと召し上がって下さい!!」



千寿の話に歓喜する一同、憧れていた極上の品『メロン』を食せる事に賛辞の嵐に!!

侍女に目配りさせ次々と運ばれて来る甘い香りのメロンに釘付けに、皿には三切れと匙が付いていた。

(一切れではあっという間に消えてしまい、気前よく三切れ用意した千寿である)



「お~これじゃ、殿の毒見と申して儂は一口しか食しておらぬ、5玉全部殿に取られてよりこの日を待っておりました、お方様この通り感謝致します!!」



「余計な事を言うな、黙って食さぬか、皆に火が付くであろうに!!」



「ささ殿が何やら皆様に失礼な事をしたと聞きました、ゆえに皿に厚みのある三切れを用意しました、召し上がって下され!!」



甘い匂いに吸い寄せられる無骨な武士達、恐る恐る蜜をたっぷり匙に乗せ口の中へ・・・


「確かにこれは和瓜に似てますが別物じゃ、脳天に響く・・・なんという上品な甘味であろうか!!」



「強面の福島殿の口からそのような言葉が出るとは!!」


「馬鹿を申すな!! 岡部殿こそ味は分かるのか、この素晴らしき甘味を!!」



評定の間は甘い香りに包まれ緩やかな時間が過ぎて行く。



「お方様! 我ら感服致しました、これよりお方様にお足を向け寝る事は致しませぬ、今後とも良しなに何卒よろしくお願い致します!」



「福島殿! おかわり致しますか?」


「はっはー、なにとぞ何卒お願い致します!!」


「儂も、儂もお足を向けませぬ、是非におかわりを所望致します!」



「仕方ありませんねぇー、では侍女に用意させます、これより何時もの通り酒宴となりましょう、最後に食せる様に手配致します、では失礼致します!!」



その場はいつも通り酒宴となり話題は100石とメロンの甘味でもちきりとなった。



「殿!! 驚きましたな! あのメロンの甘味は砂糖とはちと違った極上の甘味でありますな、殿が我らの食する筈であったメロンを独り占めした理由が某には理解出来ましたぞ、あの味を独り占め出来るなら儂も家内に内緒でこっそり独り占めしたいほどの甘味でありましたな、皆様もそう思ったであろう!!」



「儂も独り占めしたい程の甘味じゃった!! 殿は誠に良い奥方をお迎え成された、三国一の果報者でありますな!! 本当に凄いお方様であります!!」



「実はのう、ここだけの話ぞ、千寿の話によるとあの今川焼に匹敵する菓子を二三作っているそうじゃ、試作品を母上に食させたようじゃ!! 母上も千寿の甘味攻めによって最近では食が進みやや肥えて来たのじゃ、痩せておった母上が力漲っておると文を寄こしたのじゃ!!」


「殿はその甘味は食されておりませぬのか?」



「儂にも食させろと申したのだが・・・前回のメロンを独り占めが露見して罰としてまだ作ってもらえぬのじゃ! という訳で儂も千寿に頭が上がらぬと言う話よ!!」



「あっははははー、それは良い事です、男は表で強くあり、女は奥で強くあらねば家は保ちませぬ、まっこと良い話です、しかしそのなんとか殿!! その新しい甘味を早く所望したものでありますな!!」




── 三好と六角 ──



先にも述べたが、戦に敗れた三好家は一旦阿波に戻り再起を計る事に、一方の勝利した六角定頼は細川高国と手を組み中央への足掛かりを得る、将軍足利義植は京から阿波に遁走し将軍職を失う事になった。

そこで新たな将軍を輩出する、第12代足利義春である、新将軍を作り出した功績により六角の地位は高くなり三好に代わる武家が登場した事になる。


この六角定頼は滋賀県近江八幡市に巨大な居城を作る、元々あった城が戦に勝利した事で巨城に変貌していく、戦国初の家臣団を城に集め有力国人領主を居住となる曲輪を作り城割を行い住まわせるという後の一国一城令に近い体制を敷き迅速に外敵に対して行動できるように行い当主の地位を絶対的な支配者としての確立した、要は国人領主達は逆らえない仕組みと言える。


もう一つは、戦国時代初の楽市楽座を行い経済発展の基礎作りを行った、楽市楽座という言葉を聞けば織田信長のイメージが強いが、楽市楽座の創設はこの六角定頼である、商人を観音寺城に集め一大商業都市に発展させた戦国最初の人物である、織田信長はまだ誕生すらしていない時期である。


巨大な城に家臣団を集め、経済基盤を固めた六角定頼は将軍の後ろ盾もあり六角家の全盛期を築いていく、力を得た六角定頼は子供達を有力武将や公家に政略結婚で嫁がせ中央における地位を得ていく。



これらの動きを充分知り尽くしている千寿は駿河国、遠江国の石高を上げる政策と一早く楽市楽座の開設を目指し手を打ち始めた、その大きな武器となるのが人を集める甘味の菓子であった。

その中心が駿府であり他にも掛川と浜松に楽市楽座の市を作り駿府には3店、他は2店の千寿直属の菓子店を開店させた、砂糖はまだこの時代それほど流通はしていないが、以前堺での商人との繋がりがあり毎月50貫《187.5㎏》を仕入れており、千寿の倉庫には沢山の砂糖が備蓄されていた。


そしてこの時代もう一つ流通していない物として鶏の卵があった、時計の無い時代であり、夜明けを誰が知らせるのか? それは勿論鶏であり、時告げ鳥と呼ばれ貴重な鳥とされており朝廷でも鶏を食べる事を忌避されていたため現代の様に養鶏と言う概念が存在しなかった。


牛乳の元になる牛はなんとか手に入るが鶏の卵は千寿自ら養鶏の場を作らねばならなかった、そこで目に付けたのが羽鳥の里で夫を亡くし子育てで苦労している未亡人達に鶏を育てる飼育を仕事として行わせた、卵を産ませ、産まれた卵を千寿が買い取る仕組みで既に羽鳥の里で鶏が300羽程となっていた、同じ様に掛川と浜松にも近くの農村で養鶏を行う場を作り卵の仕入れが出来るように準備を整えた千寿であった、人の流れは甘味に逆らえず蜜を求めて菓子店に集まり、集まった人々は楽市楽座の中でさらに消費して行く、人の戸口とは恐ろしい物で瞬く間に広がり他国からも楽市楽座にこぞって集まる。


メロンという強烈な武器で完全に今川家の重臣達を掌に乗せた千寿、まあ~何しろ前世でフルーツサンドの店を経営していたパテシェールでしたからね。

次章「出会いと別れ・・・1」になります。

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