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 未婚のうら若き女王マリアンヌ。またの名をグリーズデン7世。

 その治世は決して平穏なものではなかった。


 荒れ果てたヨーゼンラントの立て直しに始まり、巷で蔓延はびこる悪徳商法の撲滅に至るまで、やらねばならないことが余りに多すぎた。

 そして消えたはずの鉄道事業という困難までもが、彼女の目の前に立ちはだかる。


 元はアントワネットが資金を集めるためにでっちあげた詐欺だった。だが、その企画自体はバロウンス公が賛同し出資するほど、魅力的なものだったのだ。多くの貴族や富裕層が企画の再立ち上げを望み、今度こそはと王家主導で行うことを願った。


 即位してから長い間不眠不休で働いているマリアンヌは、疲労が色濃くにじむ顔で、王都の街並みを見下ろした。その容姿はすっかり大人びている。

 彼女を悩ませる問題のほぼすべてにアントワネットの顔がちらつく。


 懐かしい気持ちと、寂しい気持ちと、腹立たしい気持ちが入り混じる。

 マリアンヌが未だ結婚できていないのも、アントワネットのせいだ。


 どこからか、リュートが奏でる旋律が聞こえてきた。

 最近王都で流行っている歌だ。愚者の歌と呼ばれ、人々を騙す悪人が成敗される物語を詠っている。

 マリアンヌは口元を緩ませた。


 アントワネットの伝説は尾ひれがついてどんどん大きくなりながら、王国中に広がっていた。

 そして愚者の歌が流行ったことで、アントワネットについて本を書きたいという者まで現れだした。


「上手く流行らせましたの」


 小さな足音がした。

 腰が曲がり、さらに小さくなったコルドゥアン元男爵だ。体の衰えを理由に、ついに息子に家を譲ったばかりだ。視力も衰えているのか、侍女に手を引かれている。

 一歩一歩の歩幅が小さくすり足で、足音を立てることが逆に難しいそうだ。


「ええ、思ったよりうまくいきましたわ」


 愚者の歌は、マリアンヌが吟遊詩人に作らせたものだった。そして、彼女が気に入ったフリをするマッチポンプで流行らせたものでもある。

 狙い通りに広がったときには、少しだけアントワネットに近づいたような気がした。


「どんな形であれ、歴史に名が刻めそうですね」


 マリアンヌは悪戯が成功した子どものように、無邪気に笑った。




 神の眼前に、どこかで見覚えのある魂が漂っていた。

 以前とは少しだけ様子の違う魂を見て、神はそっと引き寄せる。


 カスは相変わらずカスだった。嘘をついて多くの人を騙し、金を未来を巻き上げたことに変わりはない。

 その死に方も、手を尽くせば避けられたかもしれない処刑を受け入れたというもの。人を悲しませ、あるいは喜ばせ、そして死の間際にまでも嘘をついている。


「嘘つきは治らなかったか」


 神は言った。

 魂は答えた。


「世の為、人の為に生きた。生き様で証明して見せた。だから私は神には嘘をついていない」


 神は心の内で魂の功罪を天秤にかけた。そして少しだけ考えてから言う。


「では、今一度慈悲をやろう。地球に戻りたいか?」

「もう十分に楽しんだ。終わりでいい」


 神はそれもまた選択だと思い、魂に手をかけた。

 崩れ消え、輪廻の中に溶けていく間際。


「まぁ、欠片も悔い改めなかったわけだけどさ」


 それだけ言い残し、魂は消えた。

 神はしばしの間呆然とし、それから怒りを露わにして叫んだ。


「騙された!!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 詐欺師としての死に方、最後のオチともにもとても良かったです 個人的には最近の中で一番読んでて面白かったです
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