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 アントワネットがもともと男だったいうことも、他の世界から来たということも、カスの詐欺師でカスの死に方をしたことも。そして、神によってこの世界に来たことも。


 ――ああ、本当だったのだ。


 マリアンヌはアントワネットの隣に体を横たえた。


「最初から私には本当のことばかり言っていたんですね」

「ウソつきが真実を言うって、それ自体がウソみたいで面白いじゃない」

「面白くないですよ。貴女って結構私のことを特別扱いしてますよね」

「そうだね。命を懸けてみたいくらいに特別だよ」


 アントワネットはクリスチャンのことを思い出した。きっと彼もこんな気持ちだったのかもしれない。

 ――難儀なものだ。相手を想えば想うほど、相手の望みから離れてしまう。


「もっと素直に喜べるときに言って欲しかったです」


 マリアンヌはアントワネットの手に、自分の手を重ねた。


「ごめんね。自分自身の感情に気が付くのにもなかなか時間がかかったものでね」


 他人を騙してばかりいたから。他人に嘘ばかりついていたから。アントワネットは自分の心の正直な本音にも気づけなかった。

 他人の心を弄んだ報いだ。


 因果は廻る。

 どれだけ上手くやったつもりでも。どれだけ綺麗に逃げ、世界そのものに別れを告げたとしても。

 罪というのは執念深く、その心に棘を食い込ませてまとわりつく。


「どうして私と貴女は出会ったのでしょうね」


 マリアンヌは呟いた。その声はすっかり落ち着いている。

 アントワネットが受け入れた彼女の未来に、異論を唱えることもしなかった。それはある意味アントワネットにとって意外なことだった。そして、いざこのときになると、それが自然であるかのように思える。

 今さらだ。今さらになって、マリアンヌという人のことを理解する。


「それが運命だというなら、そうだったのかもしれない。人を騙してきてばかりの私が、騙されそうになっているマリアンヌに出会ったのは、必然だったような気がするよ」

「必然であって欲しいですよね」

「そうだね。君の近くに来たのが神様の気遣いだったなら、心から感謝したいところだ」


 アントワネットはマリアンヌの手を強く握り返した。


「神を恨みます。きっと、私は一生貴女を引きずると思います」


 マリアンヌの目からこぼれた涙が、顔の横を伝いシーツを濡らす。


「じゃあ、神様もいつか報いを受けるだろう。いっぱい恨まれているだろうから大変だ」

「いえ、やっぱり出会えたことで相殺です」

「感謝まではいかないんだ」


 アントワネットは小さく笑った。


「何か希望はありますか? せめて、最期のときまでの全てを優先させてください」


 マリアンヌの言葉にアントワネットは少しだけ考え、それから言う。


「じゃあ、私が知る限りの詐欺のノウハウを書き残しておこうかな。それを参考に法整備でもしてよ。どんな世界のどの国よりも、詐欺師にとって居心地の悪い国にしちゃおう」

「良いんですか、そんなことで」

「いいんだよ。これで私は、この国の歴史で最高最悪の詐欺師として名前が残る」


 アントワネットのふざけた物言いに、マリアンヌも笑った。


「あとさ。出来るだけ派手に死にたいな。やっぱり心の中の男の子が、そういうのに憧れちゃうんだよね」


 アントワネットは前世で見たアニメのことを思い出した。

 くれてやるモノも財宝も持ち合わせちゃいない。すべてはヨーゼンラントに置いてきた。


「そうだ。バロウンス公に取り仕切ってもらおうかな。きっと、多少の我儘は聞いてくれると思うし」


 マリアンヌは体を回し、アントワネットの上に覆いかぶさる。

 美を体現したアントワネットのうなじに指を這わせる。


「傷がついてしまいますね」

「傷なんてものじゃないけどね」

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