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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

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第65話 オーロラは自覚する

 しばらく泣いたオーロラちゃんは、今は真っ赤な顔で椅子に座っている。


「忘れて……さっきまでのは忘れて……」


「お嬢様……私、感動です」


「……死にたい」


 さっきまでのことを思い出して悶絶しているオーロラちゃんと、感動して涙を流しているリサさんの姿が印象的だった。

 しばらく二人にしてあげた方が良いかもしれないと思って、機器を取り出して俺は立ち上がる。


「じゃあ、俺はそろそろ時間だから行くよ。オーロラちゃん、リサさん、お茶ありがとう」


「……ええ」


「はいっ、ありがとうございました」


 オーロラちゃんは顔を上げて少し赤らんだ表情で、そしてリサさんは涙ぐみながらもそう言ってくれた。

 ナタさんの研究室を思い描いて、機器を起動する。そうして軽く手を振ってゲートに入ろうとしたところで。


「ノヴァお兄様」


 オーロラちゃんの声を聞いて、振り返った。


「また来てね」


 晴れやかな顔でそう言うオーロラちゃんに、笑顔で返した。


「ああ、また来るよ」


 お互いに微笑みあい、俺はゲートの中へと入っていった。




 ×××




 閉じていくゲートを見て、私は大きく息を吐いて椅子に座った。そしてそのままテーブルに顔を伏せて、ばたばたと足を動かす。


「お嬢様? 大丈夫ですか?」


 心配するリサの声に足をパタリと止めて、伏せたままで「大丈夫」と呟く。そして顔だけをリサの方向に向けた。


「ねえ……リサ……」


「はい?」


「……どうしよう」


「……はい?」


 首を傾げるリサに、ゆっくりと自分の今の体について打ち明けた。


「……さっきからドキドキが止まらないの。ノヴァお兄様の事を考えるだけで、胸が痛くて、体が熱くなるっていうか……」


「お嬢様……それは……」


 リサが恐る恐る口に出すけど、私だってこれがなんなのかは分かってる。


「これ……ノヴァお兄様の事が好きってことよね?」


「はい……その通りです」


 とっても真面目な顔をして返すリサに、私はまた顔を腕に押し付けた。少しだけ悶絶した後で、体を起こす。


「どうしよう……いくらなんでもお姉様の大事な人にだなんて……」


「…………」


 悩む私とは対照的に、リサは何かを真剣に考えているみたいで。


「リサ? 聞いてる?」


「はい、聞いています……その、お嬢様はノヴァさんと夫婦の関係になりたいということでしょうか?」


「ふ、夫婦!? きゅ、急になにを言って……」


 突然のリサの質問に慌ててしまう。ノヴァお兄様と夫婦の関係になるなんて、そんなこと考えたことなかった。そもそもドキドキし始めたのも今が初めてなわけで。

 けどリサは落ち着いた様子で私に語り掛けてくる。


「ですが、愛し合う二人の行く末というのはそういう事――」


「わ、分かるけどそんな急に言われても!」


「お嬢様、よく聞いてください。今私はどのように返答すれば良いのかとても迷っています」


「……お、お姉様のことよね?」


 お姉様がノヴァお兄様を心から愛していることは分かっているし、ノヴァお兄様だってそうなのは分かる。ちょっと悲しいけど、ノヴァお兄様が私に向ける感情が妹に対するようなものだっていうのもよく分かっている。

 ただその……火がついちゃったから私もどうしたらいいのか分からないわけで。


 困ったようにリサを見ると、彼女はやっぱり難しそうな顔をして、ゆっくりと口を開いた。


「まず、お嬢様の気持ちはいけない事ではありません。人を好きになる、それ自体が悪であるはずがありません。だから別に今の段階でお嬢様は自分の気持ちを悔やんだり、嫌悪するひつようはありません」


「……そうなの?」


 お姉様が愛している人を好きになってしまうなんて、良くないことだって思ったけど、そうじゃないのかしら。


「その上で、私の考えていることを説明します。ただこれは説明できるだけで、どうするのが正解かと言うのは私にもわかりません。人の心は複雑ですし、それ以外にも色々ありますから」


「……き、聞かせてもらえるかしら?」


 珍しく真面目なリサに、私は唾を飲み込んだ。リサが何を言おうとも、私は彼女のこれからの言葉を聞いて、そして考えたかった。


「まずはお嬢様にとって良いと思われることを考えました。先ほど言った夫婦の関係ですが、これに関しては『側室という関係なら、対外的には』問題ないと思われます」


 やけに一部を強調して、リサはそう言う。確認を取るように、リサは私に続けて尋ねた。


「仮にこの場合、まさかと思いますが正室を狙うわけじゃありませんよね?」


「……仮定の話よね? もちろんよ。私はノヴァお兄様も好きだけど、お姉様だって好き。

 それにノヴァお兄様とお姉様ほど想い合っている二人は知らないもの」


 というよりも、ノヴァお兄様を巡ってお姉様と争うなんて嫌だった。勝てないっていうのもあるけど、お姉様には恨まれるだろうし、お兄様には悲しい顔をさせると思ったから。


「良かったです。略奪愛を好んだらどうしようかと」


「りゃくだつ?」


「いえ、なんでもありません」


 聞き慣れない言葉を聞いたけど、リサはそれ以上言わないで自分の考えの続きを言い始めた。


「今言った話についてですが、特に問題はないと思います。貴族の当主が複数の側室を持つなんてことは普通ですし。また姉妹で正室、側室になるのは同じ家を嫁ぎ先にするので効果はないとされますが、お嬢様はアークゲート家ですからそういった心配もないです。今更お嬢様を嫁に出してまで関係を結びたい家がアークゲートにあるとも思えませんし」


「……そ、そうよね」


 政略結婚はよく言われていることだけど、アークゲート家に関しては当てはまらない。そもそもお母様の時は男性を外から連れてきていたし、お姉様に関してはユティお姉様や私を政治の道具とみなしていない。

 つまり今のアークゲート家はどこかの貴族と結婚で関係を結ぶ必要がない。ということはつまり。


「ノヴァお兄様の側室になる分には問題がない?」


「いえ、お嬢様側の問題はありませんが、ノヴァさん側は別です。彼は当主ではありませんから」


「あ……」


 その言葉で思い至った。


「……当主でもないのに側室ってのもおかしな話?」


「おかしいとまでは言いませんが、ちょっと微妙ではあります。しかも妻の妹となると、やや白い目で見られても仕方ないかと。分家になれば多少はマシになるでしょうが……」


 あんまりノヴァお兄様の迷惑になることはしたくないなぁ、と思う。


「また当主様についてですが、こればっかりは分かりません。ただ上手くいく確率は半々、いえ、ちょっと低いくらいかと。今の関係性を見ていると側室として受け入れてくれる……いえ、流石に即排除にはならないかと」


「うっ……」


 ちょっと想像して、怖さに息が詰まった。なんか身震いするほどの寒さを感じるけど、胸の奥からはお兄様への気持ちが溢れて来ていて、変な感じだ。


「これが良い事になります」


「……あんまり良くなかった気もするけど」


「ちなみにお嬢様だからこれだけありますが、他の人なら望みなんてないです。無理です」


「……そうね」


 リサに言われるまでもなく、無理だと分かる。可能性が出てくるのが身内って、それはそれでどういうことなのよ。


「で、一方で問題点なのですが……」


「覚悟はできているわ。遠慮なく教えて頂戴」


 むしろこっちを聞きたかったまである。「こほんっ」ともったいぶって咳払いをして、リサは口を開いた。


「問題点と言いましたが、唯一にして最大の問題点でして、ノヴァさんの気持ちを射止める必要があります。ノヴァさんがお嬢様の事を愛さない限り、厳しいことを言うと難しいでしょう。

 これが独身で婚約者も好いている人もいない殿方なら問題ありませんが、当主様を愛している彼の心にすっと入っていけるのかどうかというのが……」


「うぅ……そうよね……」


 私達は、二人がとても愛し合っているのを知っている。私だって、二人の様子を見てロマンチックだなぁって思っていたくらいだ。今はちょっとそれが羨ましいけど。

 そしてそんな二人の間に入れるかと言われると、妹としては入れるけど、恋人として入れるかは自信がない。

 あぁ、ちょっと胸が痛くなってきた。


「ただ、もしもノヴァさんの心を射止められて二人の間に入れた場合、全てが解決します。

 当主様もノヴァさんが認めた人なら認めてくれるでしょう。それがお嬢様ならなおさらです。

 これがさっきからずっと考えていた事ですね」


「…………」


 リサの言葉を聞き終わって、私はよく考える。目を瞑って考えるけど、その間にも胸の奥底から熱い思いはあふれ出してくる。でも頭は冷静に、色々と考えてみよう。

 まず、リサは私の恋心を否定しなくていいって言った。その上で考えてみると、もし私がノヴァお兄様と……その……結ばれても誰かが不幸になるわけじゃない。お姉様を追い落としたいなんて考えてもいないし。


 ただ、その道のりは果てしなく険しい。特に最大の障害がまさかのノヴァお兄様自身になるなんて。


「……でもやっぱり、この気持ちを諦めたくはないわ。いけない事じゃないなら、私は二人の間に入りたい」


 色々話を聞いたけど、結局この胸の火が消えることはなかった。消えるわけがなかった。

 私はノヴァお兄様が好き。それは否定のしようもない事実だから。


「もしも出来ることがあれば、お手伝いします」


「ありがとう。でも、この気持ちはお姉様には伝えておいた方がいいかしら?」


「……いえ、まだ良いかと」


「? そうなの?」


 あまりこういうことはよく分からないけど、年長者であるリサは辞めた方が良い、と言った。


「当主様とノヴァさんを取り巻く環境は少しドタバタしていますから……少し待っていいと思います。また、今の段階ではノヴァさんに想いを伝えても妹のように見られていて話が終わってしまいます。こちらも覚えておいてください」


「流石にそれはそうだって私も分かるけど、リサ、なんか隠してない?」


 少し歯切れの悪いリサに聞いてみれば、彼女は心底困ったように笑った。


「ノヴァさんについては伝えないのが正解だと思いますが、当主様については本当に分からないんですよね。先に伝えたら糾弾されるかもしれませんし、ひょっとしたら協力してくれるかもしれません。昔なら糾弾に間違いなかったんですけど、ノヴァさんが絡むとちょっと変わりますし……でもそのノヴァさんに関わることですから、ひょっとしたら逆鱗に触れるかもしれませんし。

 ただ、報告するにしても後回しにして怒られるようなことはないと思うので、それが良いのかなぁ、なんて……すみません、こればっかりは本当に分かりません」


「……な、なるほど」


 リサの言葉を聞いてよく分かった。確かに私で考えてみても、お姉様に伝えたときにどうなるかは分からない。だからとりあえず保留にしとくのはどうだろうっていうリサの考えはよく分かる。

 ということは、お姉様にもノヴァお兄様にも保留だから、特に何かが変わったわけではなくて。


「よし、とりあえずは現状維持しつつ、お兄様の気持ちを惹けるように頑張ってみるわ……とはいえ、もう少し成長する必要はありそうだけど」


 お姉様やユティお姉様を見る限り、将来性はありそうなんだけどなぁ、と自分の体を見下ろしてそんなことを思った。


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