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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

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第61話 ユティさんとの共同作業

 ゲートを通り抜けてすぐに感じたのは視線だった。感じた方に目を向けてみると、そこには椅子に座って驚いた表情で俺を見るユティさんの姿がある。彼女の周りには散乱した本があって、ここがユティさんの部屋だっていうのがすぐに分かった。

 つまり俺はユティさんの部屋にゲートを繋いだみたいで。


「え、えぇ!? す、すみませんユティさん!」


 慌てて振り返るけど、そこにはゲートはもうなくて、本が散らばった部屋が視界に映るだけだ。どうやらアークゲート家を思い浮かべるときに一番衝撃的だったユティさんの部屋を思い浮かべてしまって、ここにゲートが繋がっちゃったみたいだ。

 流石にまずいだろ。今回はまだ良かったけど、もしも着替え中とかだったら目も当てられない。


「急にゲートが開いたときは何事かと思いましたが……ゲートの機器が完成したんですね」


 けどユティさんはすぐに平静を取り戻していた。慌てて頭を下げて、彼女に謝罪する。


「本当にごめんなさい!」


「いえ、別に怒ってはいません……ですが、どうして私の部屋にゲートを?」


「そ、そのですね……アークゲート家に行こうと思って色々な部屋を思い浮かべていたんですけど、この部屋が印象に残っていたみたいで……」


「ああ、なるほど……確かにゲートの魔法で場所を思い浮かべるのが難しいというのを当主様から聞いたことがありますね。だから直接座標を設定することも多いらしいですし」


「はい……本当にすみません……」


 視界の隅で、ユティさんが自分の手を握るのが見えた。ゆっくりと頭を上げてみると、ほんの少しだけ彼女の口角が上がっているように思える。


「大丈夫ですよ。少し驚きましたが」


 どうやら怒っても不機嫌でもないようだ。むしろちょっと機嫌が良いようにも思える。タイミングが良かったのかもしれないけど、これからは行き先を思い浮かべるときは慎重にやろうと心に誓った。


「……それにしても」


 辺りを見回せば、相変わらずの本、本、本。数こそ減っているけど、ユティさんは部屋の片づけは追いついていないみたいだ。


「その……あまり見ないでください」


「いや、こんだけあったら目に入っちゃいますよ」


「……ノヴァさんは少し意地が悪いと言われませんか?」


「……今回も片付けますから」


「間違えました、とても良い人だと言われませんか?」


「ははは……」


 ユティさんも冗談を言ったり揶揄ったりするんだ、なんてことを思いながら、本の整理をしていく。本の題名を言うたびにいるか要らないかをユティさんは教えてくれるけど、今回は声の聞こえ方が少し違った。


 顔を上げてみると、椅子に座ったユティさんはこっちをじっと見ていた。


「あの……ユティさん?」


「はい?」


「お仕事とかないんですか?」


「はい。今日は珍しく片付いているので」


「……それなら、ユティさんも本の整理をしてくれていいのでは?」


 そういうとユティさんは本当にそこに思いつかなかったのか目を見開いた。慌てて椅子を降りて、傍にある本に手をかける。


「ご、ごめんなさい……ノヴァさんとのやり取りが楽しくてつい……もちろん私もやります……」


 耳まで真っ赤になっているユティさんに苦笑いしながら、本の整理を再開する。本の題名を言って、ユティさんが答えるのは相変わらずだ。

 ふと、読み上げる本の題名に歴史に関するものが多いことに気づいた。前回もそうだった気がするけど。


「ユティさん、なんか歴史関連の本が多いみたいですけど、普段から歴史の仕事をしているんですか?」


「いえ、今調べているのがこの国の歴史に関係しているだけで、むしろ珍しい部類に入りますね」


「そうなんですね。それにしても、こんなに沢山あるんですね」


「実はここの書庫室だけでなく、他から借りたりもしていまして、増えていく一方なんです。

 一応整理はしてはいるのですが、今回はちょっとタイミングが……」


 すまなそうに言うユティさんに、俺は笑って返事をする。


「でも逆に片付いちゃってたらやることなかったので、良かったかもしれません」


 実際、以前片づけた時よりは散らかっていないから、ユティさんのいう片付けているは本当だと思う。

 そう思いながら次の本へと手を伸ばしたとき、同じように伸びていたユティさんの手とぶつかってしまった。いや、俺の手の方が先に延ばしていたので、それをユティさんが触れてしまった、という方が正しいか。


 やっぱり姉妹だからなのか、シアと同じように小さい手をしているな、なんて思うと同時に、ユティさんの手が引っ込む。


「す、すみません」


「いえ、こちらは俺が」


「はい……お願いします」


 本の整理は順調に進んでいく。部屋の脇に不要な本を積み重ねていくと、ちょうど二人で持てるくらいの分量にはなった。


「こちらの本で最後です」


「はい」


 ユティさんから最後の一冊を受け取って不要な本の塔の一番上へ。これで片付けは終了だ。

 部屋を見渡してみれば、貴族の部屋らしい広さが目に入る。初めて来たときは本に埋もれていた部屋がここまで綺麗になるのを見るのは、いつ見ても爽快な気分だ。


 部屋の奥には洗面所があるし、きっとその奥には浴場もあるのだろう。エマさんはこの部屋だけで生活が出来るくらいの設備があるとは言っていたし。


「ところでユティさん、最近は部屋から出ていますか?」


「はい……一日に一回散歩の時間を設けています。昼過ぎに中庭を歩いたりしていますよ」


「本当ですか? 凄いじゃないですか!」


 エマさんいわく、部屋に籠りっぱなしになっていたユティさん。それが今は一日一回屋敷の中を散歩しているなんて、良い変化だ。


「今まで中庭に行くことはあまりなかったんですが、外の空気を吸うと気持ちがいいですね。

 さて、申し訳ありませんが不要な本を書庫室に持っていくのを手伝ってもらってもいいですか?」


「何言っているんですか、ここまで来たらもちろん付き合いますよ」


「ふふっ……ありがとうございます」


「あっ……」


 初めて見たユティさんの表情だった。笑顔と呼んでいいかは分からないくらいだけど、でも確かに微笑んでいるし、なにより雰囲気や笑顔がシアと似ているような気がした。


「?」


「いえ……行きましょうか」


 オーロラちゃんもそうだけど、シアに近しいものを持っている人に弱いというか、心奪われやすいというか……でもユティさんは微笑んでいた方が良いなって、そう思った。


 俺達は二人で不要な本の塔を持つ。もちろん俺の方が分量多くして、ユティさんは少なめだ。初めて会った日みたいに量が多いと前が見えなくて危ないからね。

 二人して部屋を出て、図書室へと向かった。


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