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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

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第193話 オーロラちゃんとの相談

「よし、今日はこのくらいかな」


 シアに両家を一つにする案を共有した翌日、俺は夕方に仕事を終えて一息つく。その様子を見ていたからか、ターニャが声をかけてくれた。


「お疲れ様です旦那様、今日はこの後オーロラさんのところですか?」


「うん、便箋で連絡を取ったら、今日時間を作ってくれるみたいだからね」


 ターニャには昼間に両家を一つにする案については共有してある。まだ考えている段階だから周りには言わないでね、と念のために伝えたけどそこまで心配はしていない。ターニャが口が堅く、優秀な侍女なのを一番よく知っているのは俺だからだ。


 昨日シアにも言ったことだけど、両家を一つにする案について話すためにユティさんとオーロラちゃんには便箋で連絡を取った。ユティさんもオーロラちゃんもいつでも良いと言ってくれたから、今日はオーロラちゃん、明日はユティさんに相談する予定だ。


「オーロラさんに会うのは久しぶりではないですか?」


「そうだね、結構長いこと会っていないかなぁ」


 便箋でのやり取りを毎日のようにしているから忘れそうになるけど、彼女と会ったのは親睦会よりもさらに前だ。元気にしているのは便箋から分かっているけど、面と向かって会うのは久しぶりで少しだけ変な感じがする。以前はこの屋敷に住み込みで働いてくれていたから、っていうのもあるだろうけど。


「では、外出の準備を行いますね。夕食はどうしますか?」


「帰ってきて食べるよ」


「かしこまりました。一同お待ちしております」


 ターニャにそう告げて、俺は外出の準備を始めた。




 ×××




 オーロラちゃんは現在、レスタリアという地域の領主を務めている。元々ノークさんが治めていた土地を彼女が引き継いだ形だ。彼女の住む屋敷にはシアと一緒に訪れたことがあるから、今回はゲートの機器を使用することが出来た。


 フォルスの屋敷で機器を使用してオーロラちゃんの屋敷にやってくれば、待っていたかのようにリサさんが出迎えてくれた。


「お久しぶりです、旦那様」


「お久しぶりです。リサさんもお元気そうで」


「はい、変わらず元気にやれています。あっ、お嬢様は執務室でお待ちですので、案内いたします」


「お願いします」


 リサさんと軽い挨拶を交わして俺は屋敷の中へ。シアの屋敷とは違う造りだけど、こちらもこちらでなかなか大きな屋敷だ。執務室がある場所は二階だって知っているし、場所も分かる。以前来た時と内装はあまり変わっていないようで、それらを眺めながらリサさんに導かれてオーロラちゃんの待つ執務室へとやってきた。


 ノックをして、リサさんは両開きの扉を開ける。横に退いたリサさんを通り過ぎて中に入ると、奥の執務机で、ゆったりと椅子に座るオーロラちゃんが目に入った。


「ようこそノヴァお兄様、私の屋敷へ」


「おー、中々に様になっているねぇ」


「お兄様たちと同じ領主だからね。威厳も自然と出てきている筈よ。さあ、そこに座って、ゆっくり話をしましょう」


 少し揶揄って大げさに言ってみたけど、オーロラちゃんは落ち着いた様子で部屋に設置されてある長椅子を手で指し示した。立ち上がり歩き始めたオーロラちゃんの雰囲気を見て、息を呑む。

 しばらく会っていなかっただけなのに、随分と大人びた気がする。見かけがではなく、纏う雰囲気がシアに似てきた印象だ。


 余裕もあるようで、リサさんに簡単に指示を出して腰かける様は、仕事が出来る領主様、という感じだった。


 オーロラちゃんに言われたとおりに彼女の向かいに腰を下ろす。リサさんは部屋に残ってお茶を淹れてくれているようで、しばらくするとコーヒーの香ばしさが鼻を擽った。


「それで、何か相談? があるみたいだったけど」


「うん、オーロラちゃんに聞いて欲しい考えがあるんだ。シアには話していて、ユティさんにはこの後話すつもりなんだけど、オーロラちゃんにも聞いて欲しくてね」


「ふーん、どんな考えなの?」


 促されて、俺はあっさりと考えを口に出す。


「フォルス家とアークゲート家を一つにしようと考えているんだ。新しい家として、名前も一新するかもしれない」


「……す、すごい話が出たわね」


 シアに伝えた時と同じように驚いているオーロラちゃん。俺は続けてシアやターニャと話し合ったことを彼女に伝えた。こう思ったきっかけや、一つになった後の事について。領地の問題や、将来の事についても、事細かにそのまま伝えた。


 少し長い話になって、リサさんが用意してくれたコーヒーも少しだけ冷めた頃にようやく話し終わったくらいだ。俺の話を聞きながら、オーロラちゃんは何度も頷いてくれた。ただ全てを話し終えた時には、少しだけ難しそうな顔をしているように思えた。


「どう……かな?」


「……いいと思うわ。今、両家は仲が良いけど、それが一時期だけの事になるかもしれない、っていうのは思っていた事でもあるの。一つの家になればノヴァお兄様とお姉様の……子供が継ぐときもだし、継いだ後も家の事で問題が起こる可能性は下げられると思うわ」


 尋ねてみると、オーロラちゃんは笑顔になって答えてくれる。言葉といい表情といい、受け入れてくれているし肯定してくれているのは間違いないけど、彼女の様子がどことなく気になった。


「えっと……なにか不安に思う事とかはないかな?」


 そう聞いてみると、オーロラちゃんは考えるそぶりを見せる。しかし少ししてから首を横に振った。


「少なくとも大きな問題というのは思いつかないわね。統治の体制も大きく変わるわけじゃないし、慣れるまで時間はかかると思うけど、それが出来るのは今しかないとも思うわ……周りでは反発する勢力が出てくるかもしれないけど、お姉様なら強行突破するでしょうし」


「今しかない……そうだよね」


 最後の方は小さくて聞き取れなかったけど、オーロラちゃんは概ねこの案に肯定的なようだ。シアに引き続き、心強い味方を得ることが出来た。まあ、オーロラちゃんなら受け入れてくれるかなと思っていたんだけど。


「それにしても、両家が一つになる……ね。塔でフォルス家が宿敵だと教え込まれてきた身からすると不思議な感覚だわ」


「俺はそこまででもないけど、シアも同じ感じだって言っていたよ」


「そういえば、一つの家になるっていう事は家の名前も変わるのよね?」


「え? まあ、そうなると思うよ」


 流石にフォルスかアークゲートどちらかに統一するってことはないと思う。


「新しい名前か……フォルス……アークゲート……フォ……フォーゲート、とか?」


「フォーゲート……か」


 二つを組み合わせたのは良い案だと思う。そう思って復唱していると、オーロラちゃんは苦笑いした。


「単純すぎるかもね。まあ、なんとなく思っただけだから、気にしないで」


「いや、貴重な意見だよ」


 本格的に考えるなら新しい家名も決めないといけない。その時のための一つの候補として覚えておこうと、そう思った。

 不意にオーロラちゃんは小さく息を吐いて、口を開いた。


「……それにしても、思いついたきっかけがお姉様との間の子供……か」


 どこか遠い目をしてそう言うオーロラちゃんを訝しく思ったものの、特におかしいことは言っていないから頷いて返す。するとオーロラちゃんは再び笑顔になって口を開いた。


「私はお母様から愛情らしい愛情を受け取ってこなかったけど、ノヴァお兄様とお姉様の子供は幸せになって欲しいわ」


「そうだね。男の子なら剣を俺が教えて、女の子ならシアやオーロラちゃんが魔法を教えるのも良いかもなんてことをたまにシアと話したりするんだ。ちょっと気は早いかもしれないけど」


「いえ、二人が幸せだからこそできる会話だし、そう遠くない未来だと私は思うわ……そう……遠くない未来ね」


 そう言ったオーロラちゃんはリサさんが出してくれた紅茶を一口飲む。そして俺の方を見て、口を開いた。


「ねえノヴァお兄様」


「ん、なに? オーロラちゃん」


「…………」


 呼ばれたので返事をするものの、オーロラちゃんはどこか言葉に窮しているようだった。伝えたいことでもあるのかと言葉を待ってみるけど、彼女はゆっくりと首を横に振った。


「いえ、なんでもないわ」


「そう? もしなにかあったら言ってね」


「ええ」


 オーロラちゃんとの話が一段落着いて、コーヒーを俺も一口飲む。

 話してみたけど、彼女は受け入れてくれた。この調子で明日はユティさんに話を共有して、近いうちにカイラスの兄上やライラックの叔伯父上にも話をしていこう。カイラスの兄上やライラックの叔父上が受け入れてくれるかは分からないけど、それは話してみて、かな。


「ああ、そうだオーロラちゃん。ソニアちゃんについてなんだけどさ……」


 次の話題を出して、俺はオーロラちゃんとの会話を楽しんだ。その間、オーロラちゃんも笑顔で話に応じてくれていた。




 ×××




 ある程度話に花を咲かせた後、良い感じの時間になったことを確認して俺は立ち上がる。


「そろそろ屋敷に帰るよ。今日は色々と話せて楽しかった」


「え? ノヴァお兄様、良ければ夕食食べていかない?」


「あー、ごめん、ターニャに家で食べるって伝えちゃったんだ」


「そう……じゃあ今度また一緒に食べましょ?」


「うん、次にまた来るときはそのつもりで来るようにするよ」


 少しだけ寂しそうな表情を見せたオーロラちゃんに謝れば、彼女は再び笑顔になってくれた。立派で凛々しい領主になったようだけど、時々年相応の甘えるような様子が垣間見れて、ちょっとだけ微笑ましく思えてしまう。


 とくに隠れて使う必要もないから、オーロラちゃんの執務室で俺の屋敷にゲートを繋ぐ。金色の光が部屋の中を照らし、楕円の光の門が一瞬で遠くの距離を無くしてくれる。無事にゲートの魔法が発動したことを確認して、オーロラちゃんとリサさんの方を振り返った。


「じゃあ、またね」


「ええ、また遊びに来てね。ノヴァお兄様ならいつでも歓迎よ」


「使用人一同、次回もおもてなしさせていただきます」


「うん、楽しみにしているよ」


 手を軽く振って、笑顔で俺はゲートの中へと入っていく。久しぶりだったけど、オーロラちゃんやリサさんと話すのは楽しかった。今日は無理だったけど、次回は夕食もこっちの屋敷で頂いてから帰ろうとそう思った。


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