表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/237

第166話 ユティさんによる考察

「私は当主様がメリッサお姉様を殺害したのではないかと、考えています」


 その発言は衝撃的だった。シアが自身の身内……しかも姉を殺しているかもしれないという突拍子もない話。けれどユティさんは真剣な表情だ。


「私がそう思う理由はいくつかありますが、一番大きなものはその後の流れです」


「その後の流れ?」


 オーロラちゃんの言葉に、ユティさんははっきりと頷いた。


「今もそうですが以前のアークゲート家は外に向けて情報を一切公開しない一族でした。そのため、戦場でメリッサお姉様が死亡したことは極力秘匿されました。戦場ではメリッサ将軍と呼ばれていましたし、アークゲートの関係者ではあるものの一族の、しかも次期当主であることを知っていた人は少ないでしょう。もちろん王族を始めとする国の中核を担う方達は知っていましたが。

 ですが内部にはそうはいきません。それまでは最大派閥だったメリッサお姉様を失ったことで、アークゲート家は小さな混乱に陥りました。対抗馬であった私を推す声や、将来はオーラに期待する声が大きくなったのは言うまでもありません。

 ……正直私も、メリッサお姉様の代わりにアークゲート家を率いるべきだと思い始めたところでした」


 ですが、とユティさんは言って、首を横に振った。


「メリッサお姉様に続いて、お母様も亡くなられました」


 姉に続いて母も、それは急な話に思えるけど、このことは事前に聞いていた。当主が交代する流れは二種類。俺のように先代から円滑に譲り受けるのが一つ。

 そしてもう一つは、先代を無理やり当主の座から退かすこと。シアがこちらであることは、もう知っている。


「結末は知っていると思いますが、経緯をお話ししましょう。

 メリッサお姉様の戦死による家の中の混乱がまだ収まっていないあの日、あの子は……当主様は一族が一堂に会する場に姿を現しました。お母様が来るのが遅いと思っていた矢先の事でした。

 当主様は誰にも目をくれることもなくまっすぐに進み、当主の座る席に腰を下ろした。最初は誰もがその光景に混乱していました。今まで表に全く姿を現さなかった人が、急にですからね。

 当然ですが反発の声が多く上がりました。ティアラ叔母様やアイギス、レインは勿論の事、多くの一族の者が糾弾の声を上げ、責め立てる中で、当主様はただ笑っていました」


 目を瞑って、大きく息を吸うユティさん。


「前当主、エリザベート・アークゲートは一騎打ちの末に私が殺しました。掟に則り、私が現在よりアークゲート家の当主となります」


 まるでその場を再現したかのような口調に抑揚。そのくらい記憶に残る発言だったんだと、悟った。


「その一言と共に、当主様は暴力的と言えるほどの魔力をその場に居る全員にぶつけました。彼女はその場の全員を力で抑えつけたんです。逆らう者には容赦なく魔法をもって叩きのめし、その差を思い知らせました。

 ……ティアラ叔母様も、メリッサお姉様に迫る程の強さを持っていたアイギスも、手も足も出ませんでした。彼女達を相手にして当主様は椅子に座ったまま、立つことすらなく下しました」


「……すごい」


 オーロラちゃんが呟く。彼女の言葉には同意だった。その場に居たわけじゃないから分からないけど、ユティさんから聞かされる言葉だけでその場が「すごい」としか言えないくらいの状況だったのは分かる。


「……この後、私はノクターン先生からの勧めを受けて当主様の補佐を願い出ました。先生は当主様の力を見て私が敵対することは避けるべきだと思ったようですし、私としてもあの子に対峙するのは色々な意味で嫌でしたから。

 あとはノヴァさんの知っている通りです。当主様はかつてのアークゲート家に関わりのあるものを極力遠ざけ、メイドや執事も一部入れ替えました。オーラを塔から解放し、北のコールレイクとの戦争を終わらせ、ノヴァさんに縁談を申し込んだ。

 ……これが、私の知っている限りのアークゲート家の過去です」


「……ユティお姉様がお姉様を敬愛しているのは、償いの意味もあるかもしれないけど、他ならぬお姉様が正面からアークゲートの全部を壊してくれたから、なんですね」


 オーロラちゃんの言葉に、ユティさんは少しだけ寂しそうにしながらも頷いた。

 結果として、シア達はかつてのアークゲートの束縛から放たれることになった。それは嬉しいことだし、ユティさんにしても最善の今、という事なんだろう。

 でもそれをしようとしたユティさんは力が及ばず、シアは苦しんで、そしてそんなシアがかつてのアークゲートを破壊して、結果としてユティさんを救ってしまった。だからユティさんとしては複雑な気持ちなんだろうと、そう思った。


「……ありがとうございます。話してくれて」


「いえ……むしろ聞いて頂いてありがとうございました。誰かに話すのは初めてでしたが、ほんの少しだけ気が楽になりました」


 寂しそうな笑顔を小さく浮かべるユティさんを見て、考える。

 彼女から聞いたアークゲート家の過去はかなり重いものだった。幼い頃の辛い日々や、姉と母の死。けれどそれらを聞いても、俺は一つの引っ掛かりを覚えていた。


「……ですが、俺はなんだかシアがメリッサという人を殺した、という風には思えなくてですね」


「……そうですか?」


「はい……何と言うか、ちゃんとした理由を言えるわけじゃないんですけど……」


「ですが……お母様に関しては本人の口からも聞いていることです。なのでメリッサお姉様に関してもおかしくはない……そう思ったのですが……」


 ユティさんの言葉を聞いて、少しだけ考える。

 シアが言っている以上、前当主に関してはそうだろう。そこからユティさんの言うようにメリッサという人を殺めているんじゃないかっていう考察は筋が通っているように思える。

 俺としては彼女が前当主とメリッサの二人を亡き者にしていたとしても思うところはない。彼女にはそれをするだけの力も資格もあると思う。顔も知らない、ただ妻を苦しめた人物なんて、そうなって当然だと思うし。


 ただ何と言うか、どこかすっきりとしないところがある。

 もやもやを抱えていると、隣に座るオーロラちゃんが口を開いた。


「私もそう思う。お姉様はゲートを使えるから、そのメリッサ? って人を戦場で殺すことは出来るとは思うけど……なんかお姉様のやり方っぽくないと言うか……」


 オーロラちゃんはそこまで考えて、あ、と声を上げた。


「分かったかも……必要がないのよ」


「必要がない?」


 聞き返すと、オーロラちゃんは俺の方を向いて頷いた。


「お姉様は圧倒的な力で当主になった。その場にメリッサって人が居ても、力でねじ伏せられるでしょ? あのお母様ですら及ばなかった力に、メリッサって人が敵うわけないじゃない。だから二度手間になるのよ。あらゆる物事を早く終わらせたいお姉様からすると嫌う行為だわ」

「……いやいや、シアはそんな感じじゃないでしょ」


 確かにシアは優秀だし仕事も早いけど、オーロラちゃんの言う姿とは少し違うような気がした。けどオーロラちゃんは首を横に振る。


「えっと、ノヴァお兄様に関することには時間を使うことを厭わないけど、それ以外は大体そんな感じよ?」


「……なるほど」


 俺の知らないところでは、と言われてしまうと納得するしかない。一方で、オーロラちゃんの言葉を聞いていたユティさんは少し難しい表情をしていた。


「そう……なのかもしれませんね。真相はあの子にしか分かりませんが」


 ユティさんの言う通り、結局は予想でしかない。その時何が起こったのかは、当事者にしか分からないわけで。

 そうだ、当事者にしか分からない。


「……ユティさん、シアはいつ帰ってきますか?」


「え? ……用事で少しだけ外出しているだけなので、夜には帰ってくると思いますよ?」


「じゃあ、直接聞きましょう。もうここまで来たら、過去に何があったのかを、この三人で直接シアに。俺は覚悟が出来ています。この家の過去の全てを聞いて、それを理解して……それでも今まで通り変わらない日常を送るって」


「…………」


 驚いたように俺を見るユティさんとオーロラちゃん。覚悟を決め、俺は言い放った。


「シアの夫として、ユティさんの義弟として、そしてオーロラちゃんの義兄として、俺は全部を知りたいんです」


 自らの今の気持ちを、伝えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ