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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

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第151話 アークゲート式警備予想

 式典の会場は前方に大きな舞台がある。待っていると、そこに2組が左右裏手からそれぞれ登壇した。左側からは白い礼服に身を包んだレイさんと、その後に続くオズワルド陛下。

 そして右側からは、同じく白いドレスに身を包んだベルさんと、彼女の後ろを歩く白髪壮年の男性。


 あれがコールレイク帝国のガイセル皇帝だろう。左右から現れた二組は舞台の中央で合流。そしてオズワルド陛下が一歩前に出た。


「これより我が息子レイモンドと、コールレイク帝国の皇女マリアベル様の婚姻の儀を始める」


 開始の挨拶に会場から拍手が巻き起こる。この場にいる全員が二人の結婚を祝福しているのを示していた。国王陛下は会場を見渡して満足そうに頷くと手を挙げて拍手を制止し、声高々に宣言する。


「二人とも、前へ!」


 オズワルド陛下の一言でレイさんとベルさんが一歩前に出た。いつもとは違って白い礼服をきっちりと着こなしたレイさんの姿も、金髪と白いドレスの色合いが神秘さを演出しているベルさんの姿も、どちらもこの場に相応しい。


「レイモンド・フォン・ファルケンハイン。そなたはこの者を妻とし、生涯愛し、そして護ることを誓うか?」


「誓います」


 レイさんのはっきりとした声が、会場に響き渡った。

 その言葉を聞いて、今度はベルさんの隣に立つガイセル皇帝が一歩前に出る。


「マリアベル・グロース・コールレイク。そなたはこの者を夫にし、生涯愛し、そして支えることを誓うか?」


「誓います」


 ベルさんの声もまた、レイさんの声と同じように会場に響き渡った。オズワルド陛下とガイセル皇帝は互いの顔を見て、頷き合う。そして最後とばかりに、ガイセル皇帝が高らかに宣言した。


「では、誓いの口づけを!」


 その言葉を聞いて、念のために警戒していた気持ちをさらに引き締める。もしも仕掛けてくるなら、このタイミングは絶好の機会だからだ。

 しかし特に大きな音が聞こえるようなこともなく、舞台の上でレイさんがベルさんに口づけを落とすことで、二人の誓いはなされた。二人は晴れて、夫婦となったのである。


 会場に拍手が巻き起こる。最初の挨拶の時よりも大きな拍手の音は二人を盛大に祝福していた。

 オズワルド陛下も満足そうに頷いているし、ガイセル皇帝はベルさんを見て少し泣きそうな顔をしている。

 実の娘が嫁ぐのだから、そうなのだろう。俺はもちろん分からない気持ちだけど、彼の嬉しくもあり寂しくもある気持ちを推し測ることは出来た。


「二人は結ばれた! 我が国とコールレイク帝国もまた、これからはさらに関係を良好かつ強固なものにしていくつもりだ!」


「二人の結婚が、両国にかかるさらなる懸け橋にならんことを、儂も祈っている。手を取り合い、共に長きに渡る繁栄を約束しよう!」


 オズワルド陛下とガイセル皇帝が共に宣言する。どちらも会場全体を見渡しての、響き渡るほど大きな声での宣言。そして二人はレイさんとベルさんの後で、固い握手を交わした。


 王子と皇女の結婚に国王と皇帝の握手という立て続けの出来事。会場に拍手が満ちる。

 結婚宣誓の儀。その終わりまで大きな問題が起こることはなく、そして俺達の国とコールレイク帝国の関係性はさらに良く、そして強固なものになったと、会場にいる全員がよく知ることになった。




 ×××




 結婚宣誓の儀が終わった後、俺達は式場の外へと移動する。軽食が用意されたパーティのような会場で、今日は天気にも恵まれたために外で実施できた。天気が悪ければ室内でやる予定だったものの、どうやらレイさん達二人は天にも祝福されていたらしい。


 そんな中、俺はシア達と一緒に居た。遠くではレイさんとベルさんが一緒に居て、王国や帝国の貴族達から挨拶を受けていた。俺達も挨拶をしようと思ったものの、挨拶をしたい貴族を優先させようという事でしばらく経ってからにしようという結論になり、少し遠くから様子を伺っている形だ。


 王国のほとんどの貴族と帝国の貴族が参加しているから、今この屋外の会場に居る人の数はかなり多い。室内だと有事の際に混乱が発生しやすいから、警備の観点で言っても外で行えたのは本当に良かった。


「……特に問題もなく、結婚式典は終わりそうだね」


「はい、一応定期的にシスティと連絡を取り合っていますが、怪しい人影や物体はないようです。この後二人が乗車する馬車も点検を済ませた後はシスティ達に監視させているので、万全の体制ですね」


 シアにも確認を取ると、彼女も問題ないと頷いてくれた。フォルスの兵達からも不審者や不審物の連絡は来ていないから、問題は無さそうだ。


「フォルス家とアークゲート家が警備している会場に忍び込んで悪さをしようとする奴なんていないでしょ。むしろどんな奴が出来るのよ」


「オーラ、油断は禁物ですよ……まあ、言いたいことは分かりますが」


 自信満々に胸を張るオーロラちゃんを宥めるユティさん。でも彼女も同意なのか、チラリとシアを見ていた。ふとそんなとき、グラスを持っていたノークさんが口を開いた。


「では、どうせならここにいる全員で考えてみますか。どうすればこの会場に忍び込んで……そうですね、要人を殺めることが出来るのか」


「……不謹慎じゃないですか?」


「あくまでも予想ですよ。……ですがそれなら、ここまで忍び込んで花火を打ち上げる、とかでも構いません」


「……はぁ」


 ノークさんの言い方は中々に苛烈だったけど、まあ警備に対する穴を探るための対策だろうと思って強くは言わなかった。オーロラちゃんはすでに悩み始めていたし、水を差すのもどうかと思ったからだ。


「うーん、まずは会場に忍び込む必要があるわよね? システィ達やフォルス家の兵の警備を潜り抜けてって、厳しくない?」


「やり方はいくつかあります。正面から突破する、隠れてこっそり入り込む、誰かに変身して堂々と中に入り込む、などですね。どうですか?」


 ユティさんの質問にオーロラちゃんは考え込む。


「……正面からは無理じゃないかしら」


「おや、少なくともオーラならシスティやフォルスの兵に後れを取ることはないのでは?」


 揶揄うようなシアの言葉に、オーロラちゃんはジト目を向けた。


「私が侵入するんですか? だとしても正面からは行きません。そんなのお姉様に見つかって終わりじゃないですか。私なら……姿を消して侵入するかと」


「でも当主様の感知魔法に引っかかりますね」


「そして当主様の魔法でボコボコにされると……オーラ、おいたわしや」


「だからなんでさっきから私が侵入する前提なのよ……」


 よよよっ、と涙を流すふりをするユティさんとノークさんの師弟に弄られ、オーロラちゃんが青筋と作り笑顔を浮かべる。というかユティさんとノークさんって師弟の関係だけあって、こうして見てみると仕草が似ているな、なんてことを思った。


 するとオーロラちゃんは深く息を吐いて、ユティさんに冷たい視線を向ける。


「っていうか、それじゃあお姉様が居る時点で勝てないじゃないですか。……いや、ここは逆転の発想でお姉様がこの会場に侵入すると考えればいいんですよ! お姉様ならどうやってこの会場に入りますか?」


 どう頑張ってもシアという最大の障壁に阻まれることが明らかになったので、オーロラちゃんは前提条件から変えてきた。というか侵入するのがシアって、それもう最初の警備の穴がないか探す目的がどこかに行っていないだろうか?


「私ですか? 私なら事前にこの会場に足を運んで、当日にゲートを繋いで侵入します」


「……身も蓋もないじゃないですか、お姉様」


「あぁ、でも会場に私とノヴァさんが居るなら結局は勝てないので、そこで負けてしまうと思います」


「……え? 自分も勘定に入れるの? もはや意味わからなくない?」


 ついにシアの話にシアが出てきて、訳が分からなくなった俺は会話に割り込んでしまう。けれどシアとオーロラちゃんの会話は止まらなかった。


「なら、ノヴァお兄様が侵入者ならどうです? お姉様でも止められない!」


「た、確かに……しかもその場合、侵入者のノヴァさんと会場のノヴァさんで私は迷ってしまうでしょう……まずいです。計画が遂行されてしまうかもしれません」


「シア落ち着いて……俺は一人だから」


 シアの肩を優しく掴んで少しだけ体を揺らすと、彼女ははっとしたように我に返って、「そうでした」と呟いた。たまに思うけど、俺の妻大丈夫だろうか。いやまあそんなところも可愛いんだけど。


 そんな俺達の様子を見ていたノークさんはくすくすと笑って、軽く手を叩く。


「というふうに、色々考えて突破できるのが当主様だけ、みたいな結論に至るなら大丈夫です」


「……いや、それは下手したら思考放棄では?」


「ですが、今までこの考え方で失敗したことはありません」


「…………」


 それでいいのかアークゲート家、と思ったけど、まあ上手くいっているならいいのかと思った。俺の妻が強すぎて、対策を考えるだけ意味のない点について。うん、本を書けば売れそうだ。主にアークゲート家の人に対して。


 そんな馬鹿なことを考えていると、ユティさんが何かに気づいたようだった。


「あ、ちょうど人が少なくなってきましたね。今回の主役の元へ行きましょうか」


 その言葉に見てみれば、あれほど並んでいたレイさんとベルさんの所には今は一組の貴族しか居なかった。好機と思い、俺達は全員で二人の主役の元へ向かった。


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