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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

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第125話 突然の訪問

 そのノックが響いたのは何の変哲もない一日だった。いつものように「どうぞ」と返せば、部屋に入ってきたのは難しい顔をしたローエンさんで、彼は困ったような顔で口を開いた。

 

「面会を求めている方がいらっしゃるのですが……」

 

「面会?」

 

 俺が当主になったあと、この屋敷を訪れる人はかなり限られるようになっている。シアやオーロラちゃんはゲートを使うだろうし、アランさんなら事前に手紙で連絡してくれるはずだ。一体誰だろう?

 

「その方は、ただレイ、とだけ名乗っているのですが……」

 

「え? レイさん?」

 

 思わぬ名前が出てきて目を見開く。レイさんと言うのは名前の一部で、本名はレイモンド。この国の王子だ。加えてシアの協力者って立ち位置らしいけど、そんな彼がどうしてここに?

 

 不思議には思ったけど、王子である彼を待たせるわけにはいかない。知り合いであることに違いはないし、ローエンさんにはここまで通すように告げた。

 困惑したローエンさんは「は、はぁ……」と要領を得ないような答えだったけど、それも仕方ないだろう。俺だってレイとだけ名乗る知らない人が来たら、なんだ?って思うだろうし。

 

 ローエンさんが出て行った扉をじっと見ながら、思う。なぜレイさんはこのタイミングで来たんだろうか。

 シアに関する話? それならシア経由で聞くような気がするけど。念のためにシアにも連絡を入れておいた方が良いのかな。

 

「あっ……」

 

 そう思って便箋があるかを念のために確認しようとしたとき、あることに気づいた。

 そもそも、相手が王子なのに俺が出迎えに行かなくていいのか? それはそれで失礼じゃないだろうか。

 

 そう思ったものの、それならレイモンド王子という名前で来るだろうし、レイさんで来るなら別にいいのか? なんてそんなことを思い始めた。

 

 しばらく待つ。すると足音が聞こえてきた。扉が開かれれば、開いたローエンさんの奥に彼はいた。

 見知らぬ彼だったけど。

 

 その見知らぬ人は平然と執務室に入ってくる。警戒のあまり、机に立てかけてあるシアから貰った剣に手をかけたとき。

 

「ま、待て待て、俺だ。レイだ!」

 

「……変身魔法、解いて頂けますか?」

 

 なんとなくおかしな魔法を使っている感覚はあるけど、中身がレイさんである確信はなかった。俺が剣を手に取ったことでローエンさんも警戒心を露わにして、構えている。

 

 俺の言葉に、見知らぬ彼は姿を変える。全く知らない姿から、見知ったレイさん、いやレイモンド王子の姿へと。

 

「レ、レイモンド王子!? も、申し訳ありません!」

 

 急に現れた王子に対してローエンさんはすぐに頭を下げた。父上の代から補佐を務めていたローエンさんは、レイモンド王子の事も知っていたんだろう。

 その言葉に、レイさんは「あー」と言って頭を掻いた。

 

「いや、気にしないでくれ。それよりも、ノヴァくんと二人で話がしたいんだけど?」

 

「ですが……」

 

 チラリと俺の様子を伺うローエンさん。そんな彼の態度にレイさんは「ほぅ」と呟いた。

 

「大丈夫だよローエンさん、彼とはもう知っている仲だから」

 

「……かしこまりました」

 

 大丈夫だと伝えると、ローエンさんはチラリとレイさんを一瞥して部屋を後にした。

 閉まる扉を見ていたレイさんが、ぽつりと呟く。

 

「俺ではなく、ノヴァくんの方を優先する……ねぇ……中々出来た人を補佐に置いてるんだな」

 

「ローエンさんは優秀な補佐ですよ……それでレイさん、今日はどんな用事ですか? シアなら普段昼間はアークゲート家の屋敷で仕事しているので、こちらには居ませんよ」

 

 用件を聞くのと同時にシアの事も告げると、レイさんは体を一瞬ブルリと震わせた。

 

「辞めてくれ、その名前を出すな……まあ、挨拶みたいなものだ。王城での父上の謁見の際には助けになれたか?」

 

「はい、正直助かりました。王子だってことはもう少し早く教えて欲しいとは思いましたが……」

 

「それに関しては愛しの妻を責めてくれ。俺の管轄外だろ」

 

 確かにレイさんの言う通りではある。彼と最初に会ったのは王都でだし……その時に王子だと明かしてくれればよかったけど。

 

「というか、知っているかと思っていたが……そもそも会ったことはなかったな」

 

「王都には子供の頃、たまに行ってましたけど、王族と会う機会なんてありませんでしたからね」

 

 というよりも、他の貴族と会うときも最初に紹介されるだけで後は放置だったから、仮に王族と会っていても俺の事なんて記憶に残っていないと思うけど。

 

「それであの……一体どんな用でここに?」

 

「だから挨拶だって言ってるだろ?」

 

「いや、シアの協力者という事ならシアから聞いていますけど……」

 

 二人がどういった関係性なのかは詳しくは聞いていないけど、シアはある程度レイさんの事を信頼しているようではあった。レイさんは国の王子だし、色々と便宜を図って貰っているってことだとは思うけど。

 だから、顔合わせというか、挨拶という意味ではすでに終わっている筈で。

 

「……いや、俺はノヴァくんと仲良くなりたいのさ」

 

「俺と、ですか?」

 

 これが王子としてのレイモンドとしての来訪なら、フォルス家の当主と王子という関係を意識してきてくれたんだと思うけど、レイさんとして来たとなるとよく分からない。

 さっきも思ったように、シアの協力者としては、王都で顔合わせは済ませているはずだけど。

 

 首を傾げてレイさんを見ると、彼はニヤリと笑った。

 

「なに、今日ここに来たのは王子としてでも、あいつの協力者としてでもない。ただのレイとして、ノヴァくんと仲良くなりに来た」

 

「えっと……ありがとうございます?」

 

 好意的な感情は感じるので頭を軽く下げる。王子としてでもシアの協力者としてでもなく、レイさん個人として、ってことなのかな。

 

 そんな事を思っているとレイさんは口を開く。

 

「なあノヴァくん、俺と友人にならないか?」

 

 出てきた言葉は、予想もしていなかったものだった。

 

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