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宿敵の家の当主を妻に貰いました。~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~  作者: 紗沙
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

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第121話 波長の合う人

「そもそも北のコールレイク帝国との戦争は少し前に集結し、南のナインロッド国とは長らく大きな争いをしていません。むしろこのタイミングで行うべきは国力の向上かと考えます」


「そうだよね、そう考えると北側と南側で仲が悪いっていうのはあんまり良くない事だとは思う」


「余分な消耗になりますからね。数年前までは北側と小規模な武力衝突もあったみたいですし」


 サイモン家のメイドさんが運んできてくれたコーヒーを飲みながら、アランさんと国に関する話をする。この応接間に来てから少し時間が経つけど、剣のこと以外にもこの国の今後に関する話についてもアランさんとは意見が合った。


 彼も彼でシアによる戦争終結は大きな節目だと考えているらしく、これから先は争いではなくて穏やかな日常の維持を考えているって俺が話すと、同意してくれた。

 ただその上で抑止力となる力は必要だし、攻めるための力ではなく護るための力は必要だっていう意見を持っているみたいだ。


 これに関しては俺も同意で、アランさんとの話は同じ方向を向いているからか、とても楽しく感じていた。


「っと……すみません、話し過ぎましたね。お時間を取ってしまって申し訳ない」


「いや、全然気にしてないよ。むしろいろんな話が聞けて嬉しかったし」


「そう言って頂けるとありがたい」


 ちなみに会話の途中で俺が無理して丁寧口調で話していることを見抜かれて、いつもの調子で構わないとアランさんには気を使われてしまった。

 彼は彼でシアのように普段からこの丁寧な口調で話すことが多いらしく、そのままだけど。今はお言葉に甘えて俺は普段通りに話させてもらっている。


『拙い敬語だったみたいで……』


 って言うと、アランさんは首を横に振った。


『いえ、自分の前では普段通りのノヴァさんでいて欲しい。それが自分の考えですので』


 そう返されてしまって、アランさんの懐の深さをありがたく思った。

 正直どうしてここまで好かれているのか少し困惑はあるけど、嬉しさの方が大きい。ほぼ同年代で、同じような考えをもって、しかも剣の心得があるであろうアランさんに好かれて悪い気はしないからだ。


「……アランさん、よければこの後、剣を交えない? 結構うずうずしているんだ」


「先ほども言いましたが、自分は嗜んでいる程度です。ノヴァさんには敵わないと思いますが、それでも良ければ、ぜひ」


 アランさんは剣が得意ではあるけど、のめり込んでいるほどではないと自分では言っていた。けど俺が感じ取っている限り、それは謙遜なんじゃないかと思っている。

 いずれにせよ、剣を交えれば分かることだ。


 俺とアランさんは同時に立ち上がり、アランさんに従って、剣を存分に振るえる場所へと向かった。




 ×××




 案内されたのは屋敷の裏手にある庭だった。ここに来るまでにアランさんはメイドに指示を出していたから、既に数人の人が集まっている。その中にはルートヴィヒさんも居た。


『若い二人が剣で語り合うということで、興味が出ましてな』


 と穏やかに笑ったルートヴィヒさんは離れたところで座って俺達を眺めている。

 一方で俺とアランさんは互いにメイドから渡された木刀を持って一定の距離を取っていた。


「……おぉ、ちゃんと管理されてる」


 当たり前だけど木刀はしっかりと手入れされていてボロボロじゃなかった。いや、ゼロードとの戦いで使った木刀がおかしいだけなんだけど。

 それを見ながら、不意にゼロードのことを思い出した。正確には彼に砕かれた剣の事を。


 あの剣はサリアの街で購入したもので、気に入ってはいた。ただ砕かれてしまったために、今は予備の剣を持ち歩いている。近いうちに、街に剣を見に行ってもいいかもしれないな。


「ノヴァさん、準備はよろしいですか?」


 木刀を手にしたアランさんに、大きく頷いて返す。木刀を一振りして、慣れて体に染みついた構えを取った。

 それを見てアランさんもまた構えを取る。とても嗜んでいる程度とは思えない気迫を感じた。


 じっと見つめ合う事数秒。風が吹くと同時に、俺達は同時に前に出て木刀を振るい合う。反応しづらい角度から打ち込んだにもかかわらず、あっさりと防がれてしまった。

 それから二撃目、三撃目と打ち込むものの、しっかりと対応している。隙を見て返してくる一撃も鋭く、重い。


 楽しい。木刀での一撃一撃の往来がなされる度に、心が跳ねる。


「やっぱり、嗜んでいるなんてものじゃないよ、アランさんっ!」


 楽しい。真正面からのぶつかり合いほど、楽しいものはない。


「ノヴァさんもっ……流石ですっ……」


 楽しい。彼の太刀筋がまっすぐで、それでいて洗練されたものであるからこそ、木刀がぶつかり合う音を聞くたびに嬉しくなる。


 言葉では謙遜しているけど、アランさんは強い。きっと優れた剣の才を持っていて、それをしっかりと伸ばしているからだろう。

 でも、剣では負けるつもりはない。俺も人生の時間の多くを剣に割いてきたから。


「っ!」


 波に乗りはじめ、さらに動きを最適化させて、速くする。

 まだ行ける。もっと速く、もっと鋭く、もっと上手く。


 木刀を振る中で、自分が成長していたことを感じる。いやきっとシアが強化してくれた時の動きを体が覚えているからだ。

 もちろん彼女の力を得たときのような常軌を逸した動きは絶対に出来ない。けどそれを覚えているからこそ、それに少しでも追いつこうと体が先に進んでいる。


 シアの力に引きずられるような形で、これまでの俺を越えていく。


「やはり……間違っていなかった……すごい」


 一閃。

 下から上に振り上げた一撃がアランさんの木刀を勢い良く吹き飛ばす。そのまま流れるような動きで首筋に木刀を添えて、決着。

 最後に彼が何かを言った気がしたけど木刀の打撃音で聞き取れなかった。


 けど俺は満足していた。それはアランさんも同じだと、確信する。


「アランさん、ありがとう。久しぶりに、心が躍ったよ」


「自分もです。また、剣を合わせて頂けると嬉しく思います」


「うん、ぜひ」


 ターニャのメイドの友達が語ったアランさんは、笑顔を見せない人だった。

 けど今俺の前にいるアランさんは、笑顔は見せていないけど確かに口角は上がっていて、雰囲気は喜びに満ちているように感じられた。


 この後俺はルートヴィヒさんとも少し話をした。彼曰く家督は早い段階でアランさんに譲るらしく、その時は出来れば仲良くしてやって欲しいとも言われた。

 家の事ではなく息子の事を思ってそう言うルートヴィヒさんには何かを感じたけど、断る理由は無いのでもちろん受け入れた。


 こうして初めての貴族への挨拶は成功に終わった。今思い返してみても、ここでサイモン家を選んだのは正解だったと思う。


 アランさんとの出会いは、今後の俺にとっても良い……いや、良すぎるものだったからだ。


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