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 ルアルが小屋に戻ると、ピッピがギャーギャー騒いでいた。


(え、……何?)


 よく見ると、リシャールがピッピに襲われていた。




「………………」


 リシャールは無言で手当てをするルアルをじっと見上げてくる。


(まさかこっちに来ているとは思わなかったけど、久しぶりの再会がまた血だらけの状態なんて……)


 ルアルは気まずくて、目を合わせないように努めた。


「ルアル」

「…………」

「話したくなければ、黙ってていいから聞いて」

「…………」

「ルアルはこの町の人が言うような存在ではないよ。全く逆の存在だ」

(逆……?)

「うん。忌み子ではなく、精霊の愛し子だ。呪われた存在なんてふざけてる。寧ろ愛されて祝福された存在なんだ。精霊の愛し子はそこにいるだけでその地を豊かにする。祝福されているからその地は護られるし、大切にされるべき存在だ。だから、精霊の愛し子の証である銀白色の髪を隠して生活しているのは勿体ないとずっと思っていた」

(アンヌさんも言ってた……銀白色って……)

「それで……衣料品店の前でフードを脱がせてしまった。すまない。この町の人が真逆の認識を持っていると知らなかった。ルアルがどうして頑なにフードを被り続けているのか、少し考えたら予想できたことだったのに……。本当に申し訳ない」

「…………(お父様から言われていた話とは全然違う。私は呪われた存在である忌み子だから、本当は生きていてはいけない存在で……人々に知られると殺されてしまうかもしれなくて……)」


 父親からいつも言われていた言葉や断片的に語られることを繋ぎ合わせて、自分なりに導き出した答え。

 ルアルがそれを思い返していると、リシャールの表情がどんどん険しくなっていく。


「もしかして……ルアルは、隣国の出身?」


 ルアルは隣国で生まれ、国境沿いの森に捨てられた。

 そして、ピッピが国境を越えたこの小屋に連れてきてくれた。

 誰にも言ったことはないし、リシャールの前では隣国出身ということは心の中でさえ呟いたことはない。


 逡巡したが、リシャールには嘘をついてもいつか必ずバレてしまうはず。


「……そうだよ」

「もしかして、今から十年くらい前にここに移ってきた?」

「どうして、そんなことまで……」

「やっぱりそうか。なるほど、分かったぞ(それで魔物が増えていたんだな)」

「え?」

「隣国では確かに忌み子という災いをもたらす存在が信じられているそうだ。俺は国に戻ってからどうしてあの時、この町の者はあんな反応をしたのか気になって。アンヌさんから少し聞いたが、詳しいことは分からなかったからちゃんと調べたんだ。隣国では白い髪をして生まれた子供を忌み子と言って、生まれてすぐに殺してしまうか、殺されなくても忌避され迫害の対象になってきたようだな」

「…………」

「その理由は、その昔、隣国の王族が白い髪の女性に恋をしたけど気持ちに応えて貰えなかったことに腹を立てて、虐げて殺してしまった。その直後から異常気象や疫病、魔物の大量発生など、国が滅ぶ寸前まで行ってしまった。それが、白い髪の娘は災いをもたらすと思われている原因だ。隣国に実効支配されていたから、この土地もその考えが根付いているのだろう。俺の国が宗主国になったときにこの国にここの土地が返還されたけど、長い間信じられてきたことを覆すには三十年では短すぎるのかもしれない。――だけど、俺の国は精霊を信じ信仰しているから、その女性は精霊の愛し子だったと思われている。自分勝手に虐げて殺したことで精霊の怒りをかって、隣国は国が滅ぶ寸前までいったというのが、俺の国の考え」

「だからって……私が同じとは限らない」


 本当はリシャールの言葉をまっすぐに信じたい。

 しかし、物心ついたときには既に始まっていた『忌み子』という刷り込みは、ルアルの芯にまで浸透し、巣くっていた。

 

「ルアルは確実に精霊の愛し子だよ」

「どうしてそんなことが言いきれるの?髪の色は、他にもいるかも(アンヌさんも宗主国の王都で白髪の人がいたって言ってたし)」

「へぇ。アンヌさんも見たんだ。精霊の愛し子は別に一人や二人ってわけではないからね。珍しいけど、いないわけではない。(ルアルのように精霊と言葉を交わせる愛し子は多分いないけど)ルアルが精霊の愛し子だと思う理由は、髪の色も立派な証拠だけど、それだけじゃない。ルアルの魔力量の多さは常人の量ではない」

「でも、私、魔術は苦手で。魔法陣を使わないと上手くできないけど……」

「これは解明されていないけど、精霊の愛し子は膨大な魔力量を有しているのに、魔術師適性はないとされている。それは精霊と通じるために魔力が必要になるからで、魔術を使うための魔力ではないという説がある。それと、愛し子には治癒の力がある。例えば歌うのが得意な愛し子はその歌声を聞かせることで傷の治りを早めるとか、料理が得意な愛し子はその愛し子が作った料理を口にすると傷が治ったという報告がある。ルアルの場合は、作る薬の効果が抜群に高いから、薬に効果が現れている」

「…………薬はそもそも傷や病気を治すものだし」

「普通、塗ったそばから傷が塞がることはないよ。それに決定的なのは、ルアルはピッピと話ができていることだ」

「ん?人の心の声が聞こえるし、それでじゃなくて?」

「俺も人の心の声が聞こえるけど、ピッピの言葉は分からない。ルアルは全ての生き物の声が聞こえるの?」

「聞こえないけど……。あ、じゃあ契約をしているって言ってたからそれでじゃない?」

「精霊と守護契約をするのにお互いの名前を呼ぶ必要はあるけど、言葉が通じあっている必要はないとされている。どうやっているか知らないが、愛し子以外でも何かのきっかけで気に入られて、守護契約を持ちかけてくる精霊はいると聞く。が……その場合は契約成立後でも言葉は通じないから、通常は身振り手振りで意志を伝え合うと言われている」

「…………でも……」

「ルアルの母親はどうだった?精霊の愛し子はその親も精霊に好かれやすいから、守護精霊がいる確率が高いと言われているけど(たしか、前に母親もピッピと話せたと言っていた気が……)」

「お母様は…………」


 ルアルは俯いて考えた。

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