蜜蜂
飛来する竜のような軍勢に抵抗する手段を模索している。俺の目の前から光が取り払われたのを察知して、元に戻すように自分の剣を鞘に近づけた。それが間に合ったかどうか判断がつかないまでに月が煌めきを弱めた気がした。怪物のような地下牢に閉ざされているのは人間存在の魔境的観測絵図だった。
それらの光景を一概には語り明かせないものの、現れるたびに形を変えて硬い対象であるはずのものが柔らかく変容している。静かな光として伸びている敷設に不思議な感性を覚えながら、俺はその上を歩いていく。どこからともなく慈悲として降り注いでいた雨に威圧感を足しながら、濡れた頬を揺らした。
それからしばらくして、協力者であったはずの男が死んでいた。俺は彼を弔うつもりなど元からなかったにも関わらず、多少なりの悲しみを抱いた。そのため発見していたはずの花の名前を彼の長命にかけては、言葉というものの強さがどこか繋ぎに変わっているという錯覚を思い出した。
感覚だけで生きていた時代が過ぎ去っていくのを目の前にしながら、俺は数値だけが優れていた人間の中に戻ろうとしていた。後ろ髪をないままに引き裂かれては、自分の血液を心臓に押し戻した。その度に息切れを起こす大地のかけらに立ち上がっていて、振り返る姿をどこか情けなく感じさせた。
滑らないような足場に立っている時間が長く感じられるままに雨を流していた。どこからともなく生じている絵本の端に括り付けられている魔力を自分のものにしようと必死になっていた。力のないものが魔法などを使えばすなわち死に至るはずである。感動する場合ではなく、ただ誤字を増やす。
生きながらにして死んでいるのと同じ感覚に近づいていた。日々の中に暮らしがないと知りながら、愛しいと錯覚していたのは他に楽しみが見出せないからだった。諦めかけた秋の夜空を月が高くしていくのを目撃していて、七月以来に綺麗に裏返っている星空の歌を聴いていた。
心地よい時間が過ぎていく。俺は有能な影として真っ当する仕事につけていた。そのうちに人々の中から消失していくのを覚えて、再び振り返った先には誰もいなくなっている。感じたままに心を流している音が、世間に川の流域として浸透していくのを譬え話から本当の現実まで押し下げていくのである。
実力通りに期待してきたために全てが転がる先の杖として記憶していた。言いたいこともなくなってくるのを受け取るものもなくなっているのをどこか寂しげにみていて、俺の命の形を作るものがどこか遠くに消えていくのを冷たい視線でぶつけていた。衝突した時に空には鈍い衝撃波が起こっていた。
その時の実感を言葉にできないままに、八月はとっくに消え去り九月も終わりが過ぎ去っている。十月という言葉の冷たさをどこか春めいた感性とともに言い尽くせていたら俺は満足できただろう。逆説的な魂胆など持たない人間として立ち上がっては、歩く先に草花を満たすような行動をとっていた。
光は影の中に現れるのであって、それから全地を満たしていく。俺はその光景に満足を覚えながら、重なり合わされた言葉の意義を拾おうと蜜蜂のように腐心していた。それでも作り上げられた蜜というものはどこか味わいが鉄片のような苦味を持っていて、到底人間を魅了するほどには力強くなかった。
新しい仕掛けを考慮しつつ少女と過ごす時間を作ろうとしてきた俺にとって、右隣に座っているものが男性であったとしても今は十分な理解を受け入れられるはずだった。彼と言葉を交わしながら、彼女という過程の中に帰っていく反応を取ろうとして、魚のように死んでいた湖の粒だった光景を脳裏に焼き付けた。
言葉に言い表せないほどの流れがやがて俺の脳内に襲いかかってきた。それが破壊しているのは俺の墓石だけではなかったにしても、苦しめられている明滅が近づいている。幻滅している時間が長過ぎたために、本来の感性が失われているという主張に選択の余地のなかった調教の調子を思い出そうとしている。
強いられたままに繰り返されていく雰囲気に呑まれながら、世界はどこか遠くなっていた。俺の意識の陰に朦朧としていた羊を全身を丸刈りにするように自由な意思を働かせている。困難に思えてきた自制を再び脳内へと押し戻すようにして、乾き切っていた全身を詰まらせるように水圧で押し縮めている。
繰り上げられてきた問答を不意にした後悔を目の前の像に付け替えるようにして、言葉は不自由に散乱していった。知性のないところから怪物が登ってきて、俺を食い荒らそうとしている。拒絶しても間に合わないと知っていて、一定の意味を求めて声にならない感情を彼らの魂に刻んでいくのである。
重ね合わされる思いが不協和音を鳴らしながらドス黒い蒼穹を満たしていた魔力なる生命を養っていく。積み木を壊すような健気さを働かせて、世界は彼方へと突貫に崩れていく。見渡す限りに暴虐が尽くされているのを月夜の下で仕方なく見つめていて、機能不全なる時間が過ぎ去るのを待ち遠しく感じた。