人間模様
俺は綴りのない言葉を使うのをやめて、叫びにならない感情を文字に落とし込もうとしている。俺の作為に引っかかった連中が最強の称号など得られるはずもなく、俺の手元に落ち窪んでいる。それを眺めながら、次にこれらをどこへと運ぼうかと首を傾けていた。獣のような存在に俺を接近させている。
背筋が凍りつくような感覚になっていて、扉を作ろうと強いていた人類の欲望を改めて更新する。世界から消え去っているのを目の当たりにしながら、石の煉瓦の構造物を叩き壊そうという算段であった。我々という言葉の連続には、意識が薄れていく雨宿りの最中の認識をくくり付けている。
口から落としていた液状の黄金を再び雨のように降らせる時期が近づいていた。恐ろしいと叫びが聞かれ、人間の愚かさを俺は愚弄している。探し求めているのは価値のある武器のようなもので、それは攻撃を受ける対象が存在しない限りは無用の長物である。
それなのに元通りに壊れきっているのは家々の並びであった。瓦礫の中から慌てて飛び出すような鳥の姿を模倣して、逃げ足だけを早めた羊飼いの男と共に並走している。俺が追いかけているうちに、彼は脱落者へと変貌しやがては人間であるという矜持を忘却の彼方へと投げ出していた。
そのための悲しみを奏でている音楽家を招聘すべく俺は自分の空を駆けていた。青い景色の中に飛び回っているのは蛙の姿にひしゃげている肉片のような棍棒であって、俺の言葉の流れを掴み取ろうと渡る影のようなものである。物々しいとはこのことだと感じながら、振り返って唾を投げかける。
誰のことでもないもののために何かを犠牲にするはずもなく、俺は自分が残してきた意識の無駄の多さを嘆いている。どこからともなく現れていたはずの機械形式が溶け込むように、世界に歯車を差し込むのである。その一つ一つの歯が決してかけることのないように監視するだけの仕事もある。
俺は誇りを持って渡っている人間風情を嘲笑っていた。魔法のように煌めいている花火が一つ空を明るくしていた。呑気に生きている場合ではないと言葉を投げかけてみても、膨らんでいく衝撃には何も載せられない。ただそこにある明るさばかりが照明器具を不要だと宣言して、俺との関係を断ち切る。
完成間近の門を押しては開かないと気がついている人たちに全ての言葉を告げなければならなかった。それから近づいてくるのは滅びだけではなく施策の段階では理解から遠ざけられていた実在の本性である。俺は確かな仕事を果たすためにこの場所を凌いでいたが、雨に侵されていつの間にか倒れていた。
起き上がった時に見上げてみると、いつもの天井ではなかった気がした。雨漏りでもしているのか染みついた黒い塊が俺の居場所を低くしている。飼育していたはずの脳内牧場に興奮物質を分泌させる感動もなく、電子機器を俺の目の前で明るくしてみると、つまらない音を発しながら回転を始めた。
その力強さにどこか人間性を捉えられないかと思って、霊的に力を持っていたはずの俺の右手を近づけていた。気がつくとそれらは音声を人間の声のように惰性で交換していた。金塊でもあれば、それらは行商人の手の内へと傾れ込んでいくはずであったが、実際には平凡な男の轍として踏まれている。
冒険を続けなければならない若者のような感傷に浸りながら、目の前の光景には映り損ねている真実があるものだとどこか感慨深い気持ちになっていた。勘定を行う場所において俺はただ機械染みた格好の文字が刻まれた貨幣を置くのであるが、受付の女性はそれを満足には受け取ってくれなかった。
雨の日以外であれば感覚も捕まえられたものだと思いながらその場を離れて、再び空の中にあった。見上げている場面だけが過ぎ去っていって、俺以外の怪物が出現する時を求めている。さまざまな人間模様を都市が薄く切り刻んでいるようだったので、俺はその隙間に侵入しては分前をいただいていた。
個性的な空間に作り出されている紋様を本来の形に戻す気持ちでいながら、俺は走り始めた頃の感性を取り戻そうと躍起になっている。不可能であると知りながらかつて達成できたはずの実績が今では遠い賜盃のように見えるのである。冷たい悲しみを胸に抱きながら、振り返ってみた空はどこか青ざめていた。
二人だけの時間を過ごしたかったと思いながら少女との日常を避けてきた自分の人生を振り返っていた。街道に敷かれていた石畳の上に立って星を見上げている時間を思い返す。永遠とは名ばかりの寒空の下には煌めきを散乱するだけの星座に満ちている街の暗さを思い起こしていたのである。
そうして学校に入り直す時期が近づいていると感じた頃には俺はもはや若者ではなくなっていたように思える。実際に立ち上がってみると巨人とまでは行かないまでも、それなりの大男に風貌を改めていた。顔立ちは気にしている場合ではなくても、海沿いの街では弱々しくは生きてはいけない。
その土地土地の支配者に靡くような思いを心に描き出しながら、肺に吸い込んでいた空気はどこか澱んでいた。彼は彼と三人称を告げられるような人々の真ん中に立っては、自分の実力であったはずの魔力的な魅力がどこか遠いところへと置き忘れていたのだとため息の中に振り返っていた。