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死骸

 形のない空を浮遊しながら人々の生きる姿を眺めている。俺は全ての人間が生きるべきであるとは考えていないため、殺す必要がある場合は速やかに殺処分する。そうやって段々と病魔が蔓延するのを見下ろして、最強の存在とは何人かを殺めるだけで達成できるものだと夢想していた。

 可能なだけの量刑は俺を苦しめるに値せず、次々に現れる人相を柱にくくりつければよかった。簡単なことの連続で日常が過ぎていき、俺は魔王のような地位に上り詰めていられるのである。それを第二の蒼穹から視線を突きつけてはあげている。それが本当の人間の役目であった時代がいつしかきていた。

 聞いていない人々のために作り続ける魔法などなく、俺は片隅で繰り広げられている戦争を広げていた。それが世界を覆い尽くすほどの勢いにまで至ったのであった。その後七月あたりになって、もう一人の協力者が現れた。それは俺と共に戦いに参加する若者であったはずだが、年齢などは黒く被された。

 隠されたままの衝撃に刀を持っていたものも力を隠していたものも全てが全て失われていた時間の陰に潜んでいる。産み落とされた諸侯の輝きに俺の位置をずらすほどの力などなく、どこからともなく現れていた血の温もりに味わいを覚えている。それが俺の中でのヒーローとしての立ち位置を強化する。

 そうやって世界は暗くなっていく。俺は空を飛んでいながら、どこへも行けない感覚に陥っていた。国内で競争を続けている限り勝ち続けなければならないと理解していたが、それでも戦争は生活の中に入り込む。美しい嘘を雨の中に明らかにしていたようなひと時を思い出していた。

 スーパーマーケットの魔力を引き込みながら、俺は並べられた商品の意義を盗み出すようにその場を立ち去っていた。次に現れたのは国会議事堂のような場所で、それ以外に相当する盤面もなかった。駒のように過去を取り繕って言いたいことを勝手に変容する人々の中に引き込まれている。

 手に取っていたものを金と交換するだけの余裕もないままに、俺は自分の食べるためだけの菓子パンをつかみ取って空へと逃れていった。見下ろしてみると、それを追うものが俺を見失っているようだったが、気にしていても仕方がない。同様の手法で街は混迷を極めていくのであろう。

 わかりきった味を口の中に広げながら、俺は空を舞い続けていた。そのような表現が適切であったかは定かではないにしても、魔法のような衝撃を受け止めながら青さを暗くしている。明るい世界には雨など降る必要がないのにも関わらず、俺が刺激をするだけで世界は衝動的に薄暗くなるのである。

 それを理解するだけの知識を持っていない人々の中に逃れながら、俺は次の仕事に取り掛かろうとしていた。指定された場所まで行って、ただ惨殺するのみである。仕業もなく人間の技ではなく、まさしく闇の中に果たされる遅延であある。歓声もないまま、強い時間が俺を覆い尽くしていった。

 最強のものになっているという感覚を持ちながら、悪に立ち向かっている。悪というのはまさしく人間のことであって、悪辣な集団心理の中に悪行は満たされている。意識のないままに生きているゴミのような理想郷には常に隠されている黄金を引き出すだけの価値を追い求めているのである。

 インターネット上の繋がりだけでは人間は薄弱なものであり、常に生身のやり取りを求めている。俺はそこに現れながら、人々の語る意図を聞き分けている。そうやって選別を開始していた。それなのに人間は何も感じることのない無感性な怪物としての知恵ばかりを必要としている。

 勝ち続けるために必要であったのは黄金のような仕業であったのだろうか? 俺にはそのような力を持っていないにも関わらず、右隣を並走していたサラリーマンの耳元に小さな知識を吹き込んでみていた。そうすることで彼は一つ賢くなり、世界は部分的に新しくなるのである。

 声をかける間も無く潰えていった人々と共に俺は数百万の死骸の上に立ち上がっていた。見下ろす光景は美しいように思え、それらが夕闇の中で蠢いている。一つ一つが新しい生命として蘇るはずもなく、敗北者の紺碧に煌めいていた。ただ俺を押し上げるための土台に過ぎなくなっている。

 仮にも感謝をすれば遠ざかっていく。全ての感覚が薄らいでいく中で、罪を洗い流す雨が降り注いでいた。俺は雲の中を行き交いながら雪を降らそうと試みていた。それが霜のような力として血を流すのであれば、明日など来るはずもなかった。次の時代の幕開けに、俺は新しい魔法を作り出そうとしている。

 片足で入り込んでいた世界には重ね合わされた実力の色合いに、俺以外の実力者を迎え入れるだけの環境が整えられている。それなのに、誰もそこには訪れず自分自身を弱めている。常に強力な呪文のように叫ばれ続けている慟哭が現れたり失われたりを繰り返しながら、青空の中に虹を走らせている。

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