機械
振り返る間もなく去っていく道のりに己の人生を重ね合わせるように、これまで見てきた光景を全て描こうとした。俺の理想郷が世界のカケラとして煌めいているのを求めている。裏の裏まで読み通す力が欲しかったのは、星空の下に見上げていた月の中でさえも、歪に歪められたサインを残しているからだった。
俺が好きだった人との関係図式を思い出しながら、暗闇の中で立ち止まっている。自転車は乗りこなせるほど得意ではなかったが、きらきらと揺らめいている街の火を見下ろしながら脳内に流れ続けている音楽をどこか荘厳な気風に作り変えていく。そうして俺の実力を誤解して今日まで生きてきた。
裏返り続けている寂しさに錆びついた付け焼き刃を本来の首筋ではなく、肩のあたりに引っさげるようにして俺は嫌いなものも好きなものも吸い込まれるような好奇心として受け入れていた。学校教育では得られなかった珠玉を丈夫な箱の中に収める感覚に捕まえられていて、大切なものを自分の中から取り出した。
それらが反響し合う空間を背に立ち向かう怪物というものが本当には俺が逃れたくて仕方のない人生の連続であった。すぐには価値を証明できない物事のために苦しみ喘ぎながら時空を切り裂いていく。空気を読むだけの能力は体に染み付いていたはずだったが、根拠のない個々の主張のためにバラバラにされた。
鉱物のように埋め込まれている光として放たれた衝撃を掻い潜るように、俺は再び自分自身を高いところへと押し上げていた。飛び降りるはずのない丘の上の様相は、全て見下ろすような船の光景に時間を間に合わせる。古代から続けられている詩作を俺が繰り返していきながらどこか余裕で生きようとしている。
主張は繰り返されていくのに論点は新しくならない。そのような力で揺れている大地を蹴り飛ばすように立ち上がって、俺の居場所であったはずの教室を追い求めている。彷徨い始めた時間には果たして今日がカレンダーに載っているほど近い延長線上の日々に年老いていっただろうか?
俺の疑問が深まっていくにつれて、誰からも相手にされないという気持ちに押しつぶされそうになる。生徒であった頃合いを思い出すように図書館へと向かいながら、俺が読める本の厚さを計算づくで評価する。それは価値のある内容ではなかったにしても、確実に形あるものとして留められていた。
意識が遠くなっていくのを感じながら学生時代に話せなかった女の子との生活を理想的に描き出そうとして失敗している。手を伸ばした先には花のような願望が二つか三つほど揺れているのである。俺はそれを壊さないように自分の手元に引き寄せていって、あえなく枯れていく様を見つめている。
悲しみに包まれた夕暮れの中にあって、俺は立ち上がるという行為を探ることなくただ高架橋の隣で行き交う人の姿に視線を注ぐのである。誰も彼も力ある存在としては現れないのに、それでも確かに大きな空間を占拠している黒い塊として影は次々に過ぎていく。
象られたものの意味するところが判然としないまま、俺の時間が訪れているのを感じていた。それが今日という時のためだったのかは未だにわかっていない。それでも自傷行為を働き続けていた段階に医者など必要とはしていなかった。指定されたままの生活に身を落としている後悔ばかりに苛まれていく。
何もできずに子供時代を過ぎ去っていった儚さを思い返しては、歩き疲れた子供の足を作り替えようと必死になっている。俺の苦しみになど目を向けない人々のために自分を価値ある存在として証明するのが正しかったのか、それは理性的な判断ではなく、感情論の中に押しつぶされていった。
声にならない声のために戦い続けているのを炎のような煌めきに思いの丈をぶつけてみる。死んでも生き返るほどに力のある言葉はなかなか見つけられないまま、俺は自分と友人関係を結んでいる人たちとの距離感を掴み損ねて、常に息が絶えそうになっていた。
どこからともなく生じている効果音を背中に取り付けて、俺は翼のような形をした筋肉を取り戻そうとしていた。それが自分から生み出されたものではなかったにしても、本当の俺を作り出すためには十分な機械のような形だった。空を行くような夢を見ていて、俺は自分の居場所を彷徨っている。
全てがピエロのように見える人々を高層ビルの間から見下ろしながら、どれを殺さずに済むべきかを常に思いとどまらせている。誰も彼も同じような人間しかいない街には価値がない。俺は浮遊しながら選別を開始して、殺さずに済むべき人々に褒賞を与えようと翼をはためかせているのである。
力のある武器を貫くようにして、印が与えられていく。俺はそのようにして本当に意味のある人間を作り出そうと試みていた。初めからあったもののために、終わりに現れるもののために走り出したら止めようがない。時間がないままに、一人のサラリーマンは横顔を走らせながら営業先と通話をしているのである。