悪名
桜の花びらがちらちらと舞い降りているのを見ていた。久しぶりの光景にどこか俺は満足しながら、卒業の悲哀を覚えていた。そのうち消えていく感情の中に、本当に大切なものを忍ばせていた。今日という一日の流れには、俺が愛してやまなかったはずの人たちが次々にどこか遠いところへと果ててしまう。
教室の窓際の席に座っていた頃を思い出しつつ、メールボックスに好きな人からの返信が来ていないかを確認した。そのかいも虚しく、俺の青春は土俵際ギリギリだった。まだここから立ち直ることができるはずと希望を持っていたのは俺以外の全ての煌めきのためだった。
俺以外の人間の顔などは記憶から消されていく。朝食を微睡の中で食べるような感覚に落ち込んでいたため、俺はぐちゃぐちゃになった脳みそに思い描いていた大好きだったアイドルの横顔を自分と重ね合わせようと鏡を見ていた。ここから始まる物語があるものかと思いつつ、出会う全ての人を遠ざけた。
歩いているだけでは遠くなっていく意識の真ん中に立ち止まっている。俺は再び自分の人生を進めなければと思って、立ち上がった。今日は何もできずに時間が過ぎていくのを目の当たりにしていた。二階から窓の外を眺めてみると、そこにはいつもと同じ木々の立ち並ぶ様子を一望できている。
ピアノの演奏を右耳に聞きながら目を静かに閉じていくと、ここが俺の居場所だったのだと再確認できていた。聞いているはずの音楽はいつしかすり替わっていて、俺の一生と同化するような錯覚に陥っている。クラスメートは一人として新しくなるはずもなく、彼らは彼らの人生へと向かっていく。
俺はそれをどこか寂しく感じながら、再び歩き出すという日々の中にあった。誰もいない教室にはピエロを探し求める時空があって、そこに俺が踊り始めるような意味を持っていた。足取りがおぼつかないまま、窓へと近づいていく。そこから落ちてしまえれば気が楽だっただろうか?
何もわからないままの一生を過ごしていたために、俺は魔法のような方法論を求めていた。いつしか人気者になれれば良いと考えていて、その手法は卑怯なものでも構わなかった。悪名は無名に勝るということが度々あったようだが、俺の考える悪名というのはいつも自分の責任を他人に押し付けるものだった。
手元を見つめてそこに炎を出すイメージを浮かべる。中学二年生の頃までに卒業できていない妄想癖が残っているのである。ただ陽炎のように追い求められた俺の力がみなぎるのを感じて、放出すると小さな音を立てて潰えていく。座ってみても移動を求められるのは駅の構内にすがっている時だった。
俺の痛みを知る由もない人混みの中には弁当箱を持っている老人など一人もいなかった。彼らに奢ってもらう必要もなかったとはいえ、食い扶持を得る手段を常に失いかけている。俺の頭にはわからない分布が世界を覆っていくのを感じながら、俺が一生続けられる仕事とは何かと模索し始める。
全てはゴミの中から現れて、ゴミの中に消えていくものである。それは創作という作業がまさしく模倣の上に成り立っているからであって、俺の計算づくでは到達できない次元に本物の価値が隠されている。世の中の価値というものは二つの手段で覆い尽くせる程には単純だったと言えるだろうか。
本当の命の果てにたどり着けるべきヒーローはこの世界には存在しなかった。スポーツの世界で活躍する選手が初めて本当の意味で世界に出現する瞬間を俺は覚えていた。その時の体の暑さを思い返しながら、しかしスポーツには生きていく上での意味があるのかを再検討しなければならない。
働いている全ての人間は偉大であるように思えてくる中で、自分の頭で計算を始める給料の永遠は少し小さめに思えていた。それは並べていくたびに小さくなっていく家畜の一つのようであって、俺の隣には羊が一匹、二匹、三匹と並んで行く。それが俺を高める日がいつしか来ると願っていた。
頭の中をぐるぐると回り続けている思いを吐き出すたびに、俺は一人であった時間に本当には必要な人を遠ざけていたのだと思い出した。それが父親であれ、母親であれ、友達、恋人などはいない。死体のように転がっていく沿線に引っ掛かるようにして、自分を永遠の渦の中に巻き込もうとした。
失敗に終わっているのは承知の上で、歩いている時間が長くなっていた。交換される入力画面の様相はいつも降り積もっている不満に押しつぶされそうだった。描き出しているものは自分の表情ではなく、他人のようになった壺の絵柄なのだと確信を覚えながら、自分の家にそれらを転げていく。
何もないはずの自分の家に活気が戻ってきたような錯覚を覚えながら、全ての時を自分とは関係ないように演出していく。それは俺が大切にして生きていた人々との交流をすでに果たせなくなっていると感じているからであって、押し問答ばかりが繰り返されていく世界線に留まっていた。