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⑬会社って何する所?



 中堅企業の総合商社、アソマンのオフィスフロアまでやって来た大伝青年(マキナは姿を見えなくしている)は、担当部署の自分の机に辿り着き、やれやれと思いながらパソコンを立ち上げて勤怠管理画面を表示させる。


 【これがおにーさんの職場?】


 彼の直ぐ脇に置かれた机の上にちょこんと座り、周囲を見回しながら茶色のジャージとスニーカーのマキナが尋ねる。


 「そうだよ、これから暫くは真面目に働かんとな……あ、バレないようにしていれば、好きな所を見て回って来て良いぞ?」


 彼は答えながら仕事モードに入り、タカタカとキーボードを打ちながら電話を掛け、入力作業を続けつつ先方の相手に平謝りで詫びる。


 「……はい、はい……仰有る通りで……しかし……」


 マキナは物珍しそうに(しばら)く彼の働きっぷりを眺めていたが、直ぐに飽きたのかフラッと立ち上がり、トコトコとオフィスを横切っていく。


 マキナの姿は透明になっている訳ではなく、ただ認識しても直ぐに忘れてしまうだけなのだが、中には生まれ持った才能か何かで認識阻害を軽く出来る者も居るようで、


 「……あら? 珍しいわね、学生さんが会社見学?」


 若いスーツ姿の女性社員が彼女を見つけ、不思議そうに呟くと、


 「ううん、違うよ? だから()()()()()()()()もらえないかな?」


 そうマキナに念押しされ、コクリと頷き仕事に戻っていった。


 「いやー、危なかったなぁ~、もう少し強めにしとかないとバレちゃうねぇ……」


 マキナはそう呟くと、首飾りの一つを握り締め、魔力を注いで結界の皮膜を厚くし、再び会社探検に出発した。



 「……あー! ご飯いっぱいだぁー!! これ美味しそうだなぁ~♪」


 社員食堂に来たマキナは幾つかの作り置きを摘まみ、モグモグと口を動かしながら適当に道を進んでエレベータフロアまで辿り着いた。


 「……うーん、しゃちょーしつって、何をする所なんだろう?」


 専用のエレベータの前で表示されている文字を眺めていると、背後からドヤドヤとおじさん達が近付いて来たので、隠れなきゃと開いた扉の向こう側に身体を滑り込ませた。


 「……ん? 今、何か通らなかったか?」

 「いえ、社長……私は存じませんが……」


 どうやらおじさん達の中に社長と秘書が居たらしく、マキナが飛び込んだエレベータに乗り込むとそのまま社長室に向かって上昇させていく。


 (……あ、そーか。しゃちょーしつ、って社長さんが居る所か!)


 漸く理解したマキナだったが、専用エレベータは社長室まで停まらず、やっとドアが開いた先には長い一本道の通路と、行き止まりに立派な一枚板の大きな扉だけがある。


 「……では、その件につきましては担当部署の者に説明を……」


 先に降りた秘書が話しながら書類を手渡し、目を通しながら社長が歩き出す。その場の勢いに任せてマキナも社長室に入ると、二人は彼女に気付かぬまま打ち合わせを始める。


 だが、マキナは直ぐに飽きてしまい、何とかして部屋から出る方法は無いかと思案していると、


 「……それで、人事部長から報告の有った、リストラ候補の社員はどうなった」

 「はい、リストアップされたのは、この三人です」


 秘書が手に持った書類の束を差し出し、何となくマキナも覗いてみる。


 (……あっ、おにーさんだ!!)


 すると、見慣れた大伝青年のボーッとした顔の写真を見つけ、何で社長さんがおにーさんに用があるのかと考えてみたのだが、彼女には全く判らない。


 (……うーん、社長さんに褒められるなら、ご飯が豪華になるかな?)


 そう考えると自分に利益が生じるが、どこをどう考えても大伝青年に褒められる要素は見当たらない。ついさっきも電話越しにペコペコしながら謝っていたのである。


 (……うしっ、とにかく何とかしてみよー!)


 部屋の隅に置かれた観葉植物の陰に身を潜めたマキナは、そこで無言のまま腕を上げると、ポケットの中から大伝青年の机に有った小さなカッターナイフを取り出して、ピッと指先をちょっとだけ切る。


 ぷくっ、と血の球が指先に膨らむと、その粒が次第に大きさを増していき、やがて見慣れた小人の姿へと変わっていった。


 【……リストラ? おいおい尋常じゃないねぇ! あんたの相方、下手すると会社を首になるかもしれねぇぞ!!】


 知恵の化身に事情を説明したマキナは、相手の言葉が理解出来た瞬間、顔色を変えて慌て始めた。


 (ど、どうしよう!! し、社長さん殺したらおにーさん助からないかな!?)

 【あのなぁ、雇い主を殺しちまったら更に悪化しちまうだろ?】

 (じゃあ、どーしたらいいんだろ……)


 不安げに呟くマキナだったが、知恵の化身はニヤリと笑い、簡単な事さと言いのけた。


 【リストラってのはよ、業績が悪くなったから雇ってた奴を間引くって訳さ。だったら業績を良くしてやりゃいいんだよ!】

 (……そうなの? でも、どうやったら……)


 そんな都合の良い方法を思い付かないマキナに、知恵の化身はちょっと待てよと何かを探る素振りを見せてから、自信満々に答えたのだ。


 【……どーやら、ここの地霊に問題が起きて会社の命運が下がってるみてぇだからよ、派手に一発カマしてやりな!!】




 屋上までやって来たマキナと知恵の化身は、まず総合商社アソマンの敷地を結界で閉ざしてから、原因の地霊を引き上げる事にしてみた。


 【そーそー、そーやって塩を五角形に盛ってね……真ん中に魔方陣を描いてくれや】


 指導されながら給湯室に有った塩を屋上の床に盛り、準備を整えるマキナ。


 「……よーし、完成!!」


 そして出来上がった召喚陣目掛けて、食堂から拝借してきたお酒と自らの血を注ぎ、魔力を注入すると……


 【 …… 何 用 だ 、 小 娘 !? 】


 召喚陣から現れたのは、古い甲冑を纏い折れた刀を担いだ巨大な骸骨。どうやら流れ着いた亡霊が長くこの地に留まり、地縛霊と化して様々な障害を与えていたようだ。


 「うわあぁ……何だかカビ臭いのが出てきたねぇ」

 【……お前なぁ、あんまり相手を煽るなよ?】


 マキナの言葉に知恵の化身も暢気(のんき)に答えるが、相手の亡霊はカタカタと全身を震わせて怒りを露にし、どす黒い怨念を身体中から迸らせる。


 【きいいいいぃええぇーーーっ!! 小娘ぇ!! 切り刻んで(なます)にしてやるぞぉーーっ!!】


 問答無用で折れた刀を鞘から抜いて振りかざすと、そのままマキナ目掛けて振り下ろした。





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