第六話 伝説の魔法使い
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私はアグニエスカ。
生まれ変わる前は黒髪、黒目だった事を考えると、この燃えるような赤い髪、アニメキャラみたいな色合いよねえ。
ひいおじいちゃんなんかは、新緑の瞳が綺麗だよって言ってくれるけど、意外に緑色系統の瞳の人間はこの世界には多いのよね。
顔立ちなんかは、親族の贔屓目で可愛いとか言われる程度で、凡庸っていえば凡庸よ。この世界、美人が山のように居るから個性が埋没しちゃってる感じなの。
この世界では、十六歳から二十歳の間に女性は結婚する事が多く、二十三歳を超えたらいき遅れ認定です。
平民であっても、大体二十五歳までに一度は結婚するという感じなので、18歳という私の年齢では、それほど焦る必要もないんだけど・・
「良い人を早いところ見つけてあげないとねえ」
おばあちゃんは山のような釣書を前に、
「軍人さんから文官から、山のようにあるけど、アグニエスカは年上だったらどこまでが許容範囲かしら?」
ニコニコしながら私の方を見上げてきた。
「どうやったらそんなに、釣り書きを取り揃えられるわけ?」
「あら!大魔法使いであるスコリモフスキ家をなめないで欲しいわね!」
おばあちゃんはツンと顎を上げ、胸を逸らして言い出した。
「可愛い孫が失恋したって言って久しぶりに我が家に帰って来たのよ?だったら、新しい恋でもして、元気を出してもらいたいなって思うじゃない」
「新しい恋?」
いらない、いらない、いらない、いらない。
自分の男運の悪さは十分に理解しておりますから。
ダメンズを引き寄せる男運の悪さは前世から続いている因縁なんだと思うのよ。
今度は、浮気発覚、失恋からの家飛び出して撥ねられ死亡は絶対に避けたい。
浮気されるくらいだったら、一生独身で構わない。
独身万歳!じゃないかしら?
「それにしてもねえ、あのマルツェルが・・アグニエスカを裏切るだなんてねえ・・・」
おばあちゃんは釣り書きに目を通しながら、
「二人がお付き合いしていたっていう話だけでも驚きだったのに」
と、言い出した。
いや、あの・・だって・・・
「つきあっ・・・て・・・いたのかどうか・・・」
分からないんです〜ぶっちゃけ分からないんです〜。
幼馴染だし、付き合いは長いんだけど、酔った勢いからの深い交際だったし、お互いに好意を口に出したことがなかったし。後から考えてみたら、あら、やっぱり、ただの都合の良い女枠だったんじゃないかなあって。
ため息をつく私の顔を横目に見ると、
「ねえ!この方はどう?辺境伯の息子さんよ!」
と言って、逞しい男の人の写真が貼り付けられた釣り書きを、私の方へ掲げてみせた。
「おばあちゃん、私、一年前にパスカ男爵家を出たときに家の籍から出ているから、姓なしだっていうのは分かっているよねえ?」
そうなんです、異母妹に婚約者を奪われ、家から追い出された私は籍から抜かれ、現在、姓なし、戸籍上平民扱いとなっているわけです。
「そういうお貴族様じゃなくて、平民はいないの?私、自分が平民だから相手は平民がいいのだけど?」
「ねえアグニエスカ、貴女が望むならスコリモフスキ家にいつでも養子に入ることは出来るのよ?」
「それね〜ー」
実の母親が亡くなって早々に、父親が後妻を家に連れてきて、私はネグレクト状態となっていたんだけど、祖母や曽祖父は私をスコリモフスキ家へ引き取る際に籍も移動すると申し出たそうなんです。その時、父が激しく抵抗して、籍はパスカ家のままとなったわけですよ。
この世界は十六歳で成人となるんだけど、成人を機に、曽祖父の家から生家へと移動する事となり、そこで父から婚約者を紹介される事となったんだけど、婚約者と異母妹の裏切り行為によって婚約は破棄となり、家を出て働く事となったわけ。
この時にも祖母はすごく心配してくれて、スコリモフスキ家の籍に入れって、それはしつこく言ってくれたんだけど、私自身が拒否したんだよね。
もう貴族なんて懲り懲りだと思ったし、平民として自由にやっていければいいかなあなんて思ったんだもの。
その時に再会した幼馴染のマルツェルが平民のままでもいいんじゃないって言ってくれたから、やっぱりそうだよねと思って、戸籍は平民扱いのままできちゃったんだけど・・
「くそっ、マルツェルの事なんか思い出したくもなかったのに!」
マルツェルに添い寝する金髪美女の裸姿を見た私はマルツェルの家を飛び出したわけですが、その後、奴とは顔を合わせてはいません。
マルツェル・ヴァエンサは、ひいおじいちゃんの知り合いの子供なのだそうで、五歳の時に弟子入りしたそうです。私より2歳上の彼は、私とほぼ同時期に引き取られ、その後の十年間を一緒に過ごしたわけですから、兄弟みたいな間柄だったと思います。
そんなあいつも、女をとっかえひっかえするような人間に成長してしまったのか。ああ、嘆かわしい。
「奥様、また王家からお手紙が届いておりますが」
お手伝いのマーサが封蝋が施された一通の手紙を差し出してきたので、釣り書きを眺めていたおばあちゃんは、思わずといった様子でため息を吐き出した。
私のひいおじいちゃんが世界的に有名なパヴェウ大魔法使い。その娘が、今、ため息をついたマリアおばあちゃん。そのおばあちゃんの娘ジャネタが私の亡くなった母という事になりますね。
マリアおばあちゃんの旦那様はすでに亡くなっていて、ポズナンの田舎町にある一軒家に、ひいおじいちゃんとマリアおばあちゃんの二人で暮らしています。
ひいおじいちゃんは長年、王家に仕えていましたが、今は80をゆうに過ぎた超高齢者となっているため、引退して、
「ふむ、ふむ、ふむ」
暖炉の前に置かれた揺り椅子に腰掛けながら、鼻を鳴らして毎日うとうとしているのが日課となっております。
「おじいちゃん!また王宮から召喚状が届いているんだけど!」
と、大声を上げているのだった。
「ふむ、なあに?なんだって?」
「おじいちゃんが戦争で戦うなんて出来るわけがないのに、一体なにを考えているのかしらねえ」
この世界には魔法がある。
母方の生家であるスコリモフスキ家は代々有名な魔法使いを輩出してきた子爵家で、現在、私の叔父と従弟は魔法使いとして王宮に勤めています。
ひいおじいちゃんであるパヴェウ・スコリモフスキは86歳の大魔法使い。おばあちゃんも有名な魔法使いらしいんだけど、今は引退しているので、どれ位すごいのか良くわかりません。
男関係で色々と失敗を重ねた私は王都を飛び出し、曽祖父と祖母の家へと戻ってきたんだけど、
「大旦那様!奥様!遂に敵機がポズナンにも向かって来ているようです!お早くお逃げください!」
部屋に飛び込んできた庭師が必死な様子で叫びだした。
「戦闘飛空艇が向かってきます!アグニエスカ様も早く!お早く移動を!」
それ、マジですか!
私が椅子から慌てて立ち上がると、
「アグニエスカ、大丈夫ですよ」
おばあちゃんは逆に椅子に座ってしまう。
「おじいちゃん、お願いしますね」
「うむ、うむ」
ひいおじいちゃんは人差し指をチョイ、チョイと指揮棒のように振ると、グオーッといびきをかいて眠り始める。
「王都の方にちらほら現れだしたなんて事は聞いていたけど、遂にポズナンまで現れたのねえ」
おばあちゃんはそう言って肩をコキコキと鳴らすと、
「よっこいしょ」
と、言って立ち上がりながら、
「それじゃあ外を見に行きましょうか」
と、のんびりした様子で言い出したのだった。
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