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第六十二話  マルツェルの覚醒

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「超絶ストレス発散〜」


 開放した魔力に乗って自身の力を最大限にまで引き出して王都を破壊した古竜ホロファグスは、

「ガハハハッハハハ」

 と笑っていたんものの、瓦礫の上に僕が落下したのを認めて、思わず吐き出そうとしていた火炎を飲み込んだようだった。


「お前、もう死ぬのか?人の生とは儚いものよ」


 いやいや、人の生ってもうちょっと長いよ?二十歳なのに僕だってまだ死にたくはないよ?


 全身に打ち込まれた楔の力を弱めるために、最大限の魔力を放出したため、もはや体の中は空っぽ状態。腕と胸の呪印だけがぐるぐると回って、肉を引き裂いているような状態だ。


 痛いし苦しい、アグニエスカがこの痛みを取ってくれたらいいのに。


 ああ、アグニエスカ、あんなよくわからない田舎の村に置いてきちゃったけど、大丈夫だったかな?敵兵は全て潰したつもりだから、あれから誰かに襲われるなんて事はないと思うんだけど。


 ああ、死ぬって辛いな。

 こんなに痛いものなのか。

 これ、いつまで続くんだ?


「いや、僕が絶対に死なせない」


 声が聞こえたかと思うと、目の前が真っ暗になった。


 僕の母親っていうのが、砂漠の国カイルアンの踊り子姫だったらしくって、スタニスワフ王に手を出されて僕を妊娠したわけだ。母の事はあんまりよく覚えていないけれど、胎児となって母体の中に居る間は、こんな状態になっていたんじゃないのかな。


 繭に包まれるようにして体を保護されて、呪いの発動で弾け飛ぶ魔力の炎を外へ、外へと弾き出す。

 あまりの高圧魔力に、手練れの魔法使いだって手の出しようがないはずだ。

 何も飲まず、何も食わずで過ごしているけれど、生身の体だけに、いつかは限界が訪れるような気がする。


 ああ、死ぬ前に一目だけでいいから、アグニエスカの無事な姿を見たい。彼女の無事な姿が見られたなら、僕はいつだって死んでもいいのに。


「どうしたのマルツェル、何か飲めそう?お水だったら持ってきてあるけど?」

「み・・・みず・・・」

「はい、コップ」


 冷え切った水を口に含むと、ゴクゴクと音をたてて喉に流し込んだ。


「果物とか買ってきたけど食べる?スープは作ってあるんだけど飲む?」

「果物食べたい」

「リンゴでいい?」

「うん」


 僕をベッドに起こしてくれたアグニエスカは、椅子に座ってりんごの皮を器用に剥き始めた。


「市場に行ったら立派なリンゴがあったんだよね。しかも結構お値段お得な感じでさ、帰りにひいおじいちゃんにも買って行ってあげようかな」


「アグニエスカ、抱きしめてもいい?」

「いいよ?」


 アグニエスカはナイフとリンゴを皿の上に置くと、ベッドの上に乗り上げるようにして僕に抱きついてきた。


「ここって僕の家の寝室だよね?」

「うん」

「これって僕の都合の良い妄想?それとも現実?」

「現実だよ」

 僕の顔を見下ろしたアグニエスカは、

「マルツェル、泣かないでよ」

 と言って、タオルでゴシゴシと僕の顔を拭き始めた。


 一体どれだけの日にちが経過したのか全く分からなかったけど、ホロファグスとルテニアの王都を破壊してからちょうど22日目となるらしい。


 あの後、アグニエスカは転移魔法で移動してきたアガタっていう子に助けられたらしいんだけど、彼女も彼女で5日間、寝たままの状態で過ごしていたらしい。


 僕の家に顔を出したのが今日で二日めで、家の中を掃除したり、料理をしたりして過ごしていたらしい。


「なんか、すごい事になっているなあ・・・」


 僕の両腕と胸には、人に対して一切攻撃をする事が出来ないように封印術が施されていたわけだけど、何かでゴシゴシ擦ったような跡だけが残っていた。


「ごめん、マルツェルがなんだかすっごく汗臭くって、温かいタオルで拭いてあげようとしたんだけど、何故だか上半身を中心に泥だらけになっていて、あまりに酷い状態だから、ゴシゴシとタオルで拭きすぎたみたいで」


 ゴシゴシとタオルで拭きすぎただけで、呪印を消すってどういう事なのだろうか。


「部屋の中も空気が澱んでいて、湿度も高くでカビが生えそうだったから、空気の入れ替えをして掃除もしちゃったのね。勝手にしちゃってごめん」


「いや、いいよ。もう、とにかく色々と鬱陶しいから、アグニエスカ、掃除ついでに僕の髪の毛も切っちゃってくれる?」


「切っていいの?切っていいのならやっちゃうよ?なにしろ伸び放題になりすぎていて、何処が鼻だかわからない状態になっちゃっているからさ」


 キッチンの椅子に僕を座らせると、アグニエスカは意外な器用さで僕の髪の毛を短く切ってくれた。目の前に髪の毛がかかっていないのは、生まれてこの方初めてかもしれない。


「マルツェルの瞳の中に、何か模様みたいなものが見えるんだけど」

「古の文様、王家の血を引く特徴とも言われているらしい」


 僕は王様の子供だと正式には認められていないけれど、今のままだったら到底アグニエスカを守れないっていう事には気がついた。


 瞳の色も、瞳の中の文様も、隠していたら何も出来ないんだって、ようやっと僕は気がついたわけだ。


 その日の夜、寝室ではなく、キッチンに食事を用意してくれたアグニエスカは、一緒に食事をしながら自分の思いを語ってくれた。


「人生の目標が結婚っていうのが間違っていたんだと、私はようやっと気がついたわけ。大切な人が平穏無事に過ごせるのなら、とりあえずは幸せだって事に気がついたのよ」


 アグニエスカは、王子様には用はないけど、幼い時から一緒に居るマルツェル・ヴァウェンサには用があるって言ってくれた。


 王子様と平民の自分が将来的に結婚する事など出来ないにしても、今、一緒に居る時間を大切に出来るのなら、それでいいんじゃないのかなって言い出した。


「私ね、今までマルツェルが王族の血を引くだなんて、おばあちゃんもひいおじいちゃんも、おじさんだっておばさんだって言わないものだから、全然知らなかったんだけど、だからなんなんだって思ったんだよね。マルツェルはマルツェルだし、私だって私だもの。今が楽しければ〜なんて刹那的でもいいんじゃないのかなって」


「じゃあ、結婚式はもういいの?」

「別にいいかなあ」


 ランプの灯を受けて、君の深紅の髪の毛がキラキラと輝いて見える。新緑の瞳は太陽の煌めきを浴びたように輝いて見えて、同じ色で揃えた魔石が砕けて壊れた事を、その時、僕は思い出した。


 アグニエスカの薬指にも、僕の薬指にも、石が嵌め込まれていない不恰好な指輪だけがはめられていて、まるで僕らの関係性を象徴しているみたいじゃないか。


「ねえ、アグニエスカ、今日は帰らなくてもいいよね?」

「ねえ、マルツェル、私、今日は家に帰りたくないの」


 僕が手を握りしめると、僕たちは引き寄せられるようにして口づけをした。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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