第六十話 王家の結末
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ヴァルチェフスキ公爵家もストラス子爵家も、権力を欲したわけでもなく、国家転覆を狙ったわけでもない。
両者ともに、望んで娘を王家へ差し出したわけでは決してなく、国家の安寧を願って、国に従事し続けた忠臣でもある。
今回、何が一番問題だったのかというと、
「イエジー!あなたやめて頂戴!お母様にこんな首輪をつけるなんて正気の沙汰じゃないわ!」
嫉妬深すぎる王妃ユスティナと、
「イエジー!私は王位を譲るなど一言も言ってはいないぞ!お前がやっている事は叛逆だ!分かっているのかイエジー!」
愚かな王スタニスワフが夫婦になったという事だろう。
魔力を封じる首輪をつけられた王と王妃は熱愛の末に結ばれた結果、多大な魔力を持つイエジーが生まれたわけだけれど、より強大な魔力を持つ子供が生まれる事を望んだ王は、第二妃としてマグダレーナの輿入れを望んだ。
マグダレーナ妃の産んだ二人の子供の保有魔力量はそれほどではなかったものの、夫に愛されたという事実が王妃は気に入らない。
王妃ユスティナはマグダレーナを貶めるために離宮へと隔離し、一切の費用を渡す事を望まず、その事を王は認めた。
その後、お遊び程度で複数の女性に手を出していた王が、第三妃としてヴァルチェフスキ公爵家の令嬢であるカロリーナを迎える事を決めた。
わずか十五歳という年齢で輿入れしてきたカロリーナ妃はすぐにバルトシュ第三王子を懐妊する事となったが、王妃の心の中では憎しみの炎が渦巻く事となったのは言うまでもない。
マグダレーナ妃の離宮を使って、他国の王族を相手に魔力持ちの子供を産むためだけの特別な娼館を作ろうと計画したのがユスティナ王妃であり、それに賛同したのがスタニスワフ王。
王妃は、ゆくゆくは、カロリーナ妃もこの娼館に閉じ込めてしまおうと考えていたようだが、そんな事をカロリーナ妃は思いもしなかっただろう。
王が愛するのはあくまでユスティナ妃であり、自分は2番目以降の存在に過ぎない。ヴォルイーニ王家が一夫多妻なのは昔から決まっていた事であり、一番愛されている王妃が、まさか側妃にそこまでの嫉妬を覚えていた等とは思いもしなかっただろう。
「父上が母上を愛するというのなら、真実、ただ一人だけを愛すれば良かったものを、他の女にも手を出して、道具のように扱う事を続けたが為にこのような結果になってしまったのでしょう。僕は親孝行ですから、母上にも父上にも幸せになってもらいたい。ですからお二人夫婦仲睦まじく、東の森の別荘にて余生を過ごして頂きたいと考えています」
東の森の別荘とは、つい最近まで大魔法使いのパヴェウ・スコリモフスキが暮らしていた場所となる。複雑な結界が施された場所であり、外にいる魔獣が中に入ってくる事は出来ないが、中にいる人間も外にでる事は出来ない。
「母上、ようやっと父上を独占する事が出来るのですよ?僕は親孝行な息子だと思いませんか?」
母はごくりと唾を飲み込んだ。
「嫌だ・・私は絶対に行かんぞ・・絶対に嫌だ・・・」
「ああ、父上は母上と二人きりになるのが嫌なようですね」
「まあ!なんですって!」
「いや、そういう事ではなくて」
「私と一緒なのが嫌とはどういう事ですか?私と永遠に一緒だと言ったのは誰なのですか?」
「そうじゃない、そうじゃなくて」
言い争う二人を王家のプライベートルームに残して、ようやっと自室へと帰ったイエジーは、
「エルヴィラ、僕、疲れたよ〜」
集めた資料を読み漁っていた、隣国の姫君であるエルヴィラに抱きついた。
ルテニアの王都から移動したエルヴィラはすでにイエジーの婚約者になっている、次期王妃としての教育も始まっていた。
部屋も妃の部屋を与えているし、イエジーの伴侶はエルヴィラで決定だ。
「イエジー様、お疲れのようですね」
イエジーの背中を優しく撫でるエルヴィラはまさに天使だ。
「僕にとっては顔が満足に見えない父上も母上も、正直に言って、心底どうでも良い存在なんだよね」
ヴォルイーニ王家の血筋はちょっと特殊なようで、膨大な魔力を持っていればいる程、魔力の有無によって顔の認識が変わってくる。
父母のように魔力が大してない人間は、いくら同じ血筋であってもぼんやりとしか見えないし、魔力が膨大だったり、自分に有用である人間であれば、だいぶ顔がしっかりと見えてくる。
イエジーの父は王位を継承したものの、魔力も少なく、結界術を施すことが出来なかった為、若い時は出来損ないと散々罵られる事もあったらしい。
だからこそ、魔力持ちの子供を持つことに執着しつつ、異様なほど膨大な魔力を持つマルツェルなんかは自分の近くには寄せ付けず、遠くに追いやる手段を選ぶことになった。
だけど、魔獣の被害で国に危機が及ぶと『王国の剣』などと格好いい名前で呼び出して、都合の良いように酷使する。人を人とも思わぬ王様だったけど、最後には良い事を一つだけしてくれたものだ。
ソファに座ったエルヴィラは、膝枕をしながらイエジーの頭を撫でてくれる。彼女の美しい顔をじっと下から見つめるのが好きだ。
「今回の国王の不始末を理由に、国王の一夫多妻制度は見直される事になったよ」
「え?」
「だから、僕の妃はエルヴィラただ一人という事になる」
「えええ?」
エルヴィラは、少し戸惑ったような表情を浮かべると、耳まで真っ赤になりながら、
「でも、もしも私が子供を授からなかった場合、どうなさるおつもりですか?」
と、問いかけてきた。
「そうだね、もしも授からなかったら、兄弟の子供を養子に迎えればいいんじゃないかなと思うんだけど」
次男のユレックは国外に出すし、三男のバルトシュは情けで公爵にするのだから、なるべく王位には関わらせたくない。
「僕らがもしも授からなかったら、マルツェルの子供を貰おう。大魔法使いの最後の弟子であり、今回の戦争の英雄様だから、きっと誰も文句なんか言わないよ」
「マルツェル様は、ご病気じゃありませんでしたか?」
「・・・・・」
そろそろ、マルツェルの奴を叩き起こしてやらなければならないようだ。
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