第五十九話 ユレックの結末
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「殺すなら殺せばいい」
第二妃に与えられた寂れた離宮にあるユレック第二王子の私室にイエジーが訪れた日のこと。ユレックは王家の闇を洗いざらい告白し、王国を滅ぼすことが出来なかった恨みを吐き出し、涙を流しながら自分の首を差し出した。
母と妹、そして祖父の姿が頭の中に浮かんでは消えるが、そんな事はどうでも良いほど追い詰められていた。
しかし、髪の毛の先から爪先まで真っ黒となったイエジーは、思い悩むような瞳をユレックの方へ向けたのだ。
「つまりは、魔力を持つ人間の出生率の低下を思い悩んだ他国の王家の話を聞き、国王は他国向けの売春宿をこの王宮内に作り出そうとしていたわけかい?」
「そうだ、すでに我が母はチェスワフ王国の王弟と閨を共にしている。魔力持ちの子供を産んで、高額で売りつけるのだと王は嘲るように笑っていたよ」
「ロサティ大佐の伴侶が死んだのも?」
「王宮に召し抱えられるのを拒んで逃げ出そうとしたから、腹立たしく思った王が他民族が殺したように見せかけて殺したってさ」
「マグダレーナ妃所有のこの離宮には、すでに三人の女性が召し抱えられているのか?」
「すべて既婚者、経産婦で揃えているってところが、質が悪い冗談みたいな話だよ。だけど、全て魔力持ち、若さや美しさよりも、とにかく魔力持ちの子供を産むためだけのラインナップだってさ」
「それは、この国を滅ぼしたくもなるだろうなあ」
イエジーはそう言ってしばらくの間、考え込むと、
「マグダレーナ妃とチェスワフ王国の王弟はお互い憎からず思いあっているし、王弟は妃だけでなく、お前や妹も国に連れて帰りたいと言っているのは本当か?」
と、言い出した。
「そういった訳で、チェスワフ王国の王弟、サンドロ・フォス・チェスワフ殿にも確認したところ、マグダレーナ妃の輿入れを望むと言っている。すでに妃の腹も大きいため、今のうちにチェスワフへと移動をして、向こうで出産する形にした方が良いだろうという事で話しはついた」
第二妃に与えられた離宮へ、ユレックの祖父となるストラス子爵を連れてきたイエジーは、スタニスワフ王と正式な離縁がなされたと証明する書類を渡すと、
「マグダレーナ妃および、その子ユレックとドミニカは国外追放となり、チェスワフ王国預かりの身分となる。王弟殿下が身元保証人となるそうだから、向こうでは迷惑がかからぬよう励むように」
と言って、にこりと笑った。
そうして殿下はくるりと祖父と母の方を向くと、頭をさっと下げながら、
「魔力の保有量を理由にマグダレーナ妃の輿入れを強要し、子を成した後は、一切の保護も補償もなく放置した我が王家の罪は大きい。父に代わって謝罪する」
と言い出したため、祖父が大慌てに慌てだした。
第二妃とその子供たちが生活する費用のすべてを、この祖父が負担し続けていたのだ。
「我が王家は、貴殿や貴殿の家族に迷惑をかけ続けた事も考慮して、子爵家への咎めは一切行わぬ。第二王子とその母と妹の放逐処分で終わりとする」
本当は、ここまでの事をやったなら、一族郎党縛り首で間違いないというのに・・・
「兄上!あまりにも甘すぎる差配じゃないですか!」
ユレックが思わず声を上げると、イエジーは輝くような笑みを浮かべた。
「初めて兄上と言ったな」
たしかに、そうだったかも。
「産み腹が違うと兄弟といってもなかなか交流できぬものであった。しかも、我が母がいかに嫉妬深い人間であったかという事が今回の事でよくよく分かった。あとの処分はこちらの方でやるので、お前は新天地に移動後は、母と妹を支え続けろ」
「殿下・・・」
腰が抜けたように床に座り込んだ母を支える妹が泣いている。
イエジーは妹の頭をぐりぐりと撫でながら、集められた配下の妻たちを見回すと、
「お前たちも家に戻す、戻れぬものはこちらで保護をする事も約束する」
と言うと、
「何にせよ、王宮の娼館とやらが本格的に始まっていないようで良かったものだ」
そこで、大きなため息を吐き出したのだった。
ユレックはこの国を恨んでいた。
魔力で全てを判断する風潮は王宮の中では特に顕著であり、高位の貴族程度の魔力しか持たない兄妹は、常に嘲笑の的となっていた。
ユレックや妹のドミニカの保有魔力はヴォルイーニ王家の人間としてそれ程ではない魔力量であったとしても、他国にとってはそうとはならない。
使わない側妃の産み腹を、もっと生産的なことに使用してみたら良いのではないかと言い出したのは、この国の王と王妃だ。
一人目の客となったチェスワフ王国の王弟はユレックに、
「最初は君の妹を勧められたんだよ」
と言われた時にはグラリと世界が揺らいでいった。
「若いから、これから何人でも産む事が出来ると言ってね、初夜の権利と一人目の子供を獲得する費用として多額の値段をふっかけられたんだけど、君の母上が泣いて間に入ってね、私だったら確実に自分の方が魔力持ちの子供を産む事が出来ると言い出した」
チェスワフ王国の王弟が意地汚い好色な奴じゃなくて本当によかった。
「そもそも、君の妹はまだ子供が産めるという年ではないし、私の方から、せっかくの人材が死産などで亡くなったら大変ではないかと進言したら、ようやっと納得されたようでね。それでまあ、君の母君と話をしていてつくづく思ったのだが、君たち、ここを逃げ出した方が良いんじゃないのかな?」
王弟の言葉を聞いて、どうせ逃げ出すのなら、出来る限りこの国を破壊してから逃げ出してやろうと決意した。
呪いのネックレスは無事にイエジー殿下に呪いを与え、宣戦布告をした隣国ルテニアは国境線上に軍を配備。この国を滅ぼすのならルテニアの戦力だけでは絶対に足りない。南のコロアからの侵略があってこそ、ようやっと滅ぼすことが可能となるだろう。
綱渡りのようにくだらぬ策略を張り巡らせて、権力を求める人間たちを甘い蜜で誘い込む。
この国の権力に食い込む事が出来ずに不満を持つ新興貴族たちを焚き付け、隣国の誘いに踊らせた。その結果、多くの人の命を奪う結果になっただろう。
ユレックはけっして、自分が助かりたかったわけじゃない。けっして綺麗な結末を迎えたいわけじゃない。
「兄上・・・俺は・・・・」
母と妹、そして祖父の一族は殿下の温情で助かった。
だけど、こんな事を求めていたわけじゃない。
魔力で全てを評価するこの国が嫌いだ。
自分だって、王家独自の結界を施す事など出来やしない癖に、俺と妹を欠陥品のように扱う国王が大嫌いだ。常に俺たちを見下し続ける王妃が大嫌いだ。
人を人として扱わぬ、この国の王家が大嫌いだ。
「ユレック」
イエジー殿下はユレックの肩をそっと掴むと、
「あとは任せてくれればいいんだよ」
と言って、家族としての笑顔をユレックに向けたのだった。
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