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第五十五話  裏切りの果て

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 どうやら、前世も今世も結婚なんて出来そうにない。


「私たち、将来結婚して、いつまでも幸せに!なんていう風になりたいよねぇ!」


 バカな私は結婚への憧れからそんな事を交際相手に言っていた。


「俺、お前と結婚しなくちゃなんないわけ?」

 なんて嫌そうに言われた事もあったけど、

「うん、そうだね。結婚して幸せになろうっか」

 と言ってくれた彼もいた。


心がこもっていたわけじゃないけれど。


 前世ははっきり言って、ダメだったなあ。浮気されて、外に飛び出して車に轢かれてあっけなく死んじゃったくらいだし。それで、今世はどうなのかって言うと、結局、やっぱり駄目だったみたい。


 ようやっとお互いの気持ちがわかって、愛情を確認して、戦地に向かう最後の夜は、指輪を持ったマルツェルが私の部屋までやってきて、

「アグニエスカ、僕と結婚してください」

 と、跪いて、私の手を取って、瞳を潤ませながら私に申し込んでくれた。


「はい、マルツェルと結婚します」

 と、答えた私は馬鹿だ。


 なんなの、王様の血をひいているとか、マジで聞いてないんだけど?こっち平民だよ?平民の前は男爵の娘だよ?マジで無理じゃん!結婚できるわけがないじゃん!


 というか、なんでマリアおばあちゃん教えてくれなかったわけ?意味わかんないんだけど。ひいおじいちゃんも知っていたんだよね?私、三歳からずっと一緒にいたんだけど、王族とかなんとか?一度も聞いたことなんかないんだけど?


 昔、生まれ変わる前の日本でのことだけど、

『結婚は、したい、したいと思い続けている時に限って、出会いというものは一向に訪れない。諦めた時こそチャンス到来、伏して待つべし』

 とかなんとか、おみくじに書いてあったんだよね。結局、諦めようが何をしようが、これ、もう無理じゃないのかな。


 前世からの悲願である誰かの嫁、これになりたいんだったら、修道院にでも行って、神さまの嫁にでもなった方が手っ取り早いんじゃないのかな。


 バンッバンッバンッ


 高らかな銃声の音で目を覚ますと、目の前には見上げるほどの藁が積まれていた。


「何?ここどこ?」


 まだ夜みたい、辺りは真っ暗、納屋のような場所という事はわかっているんだけど、ここが何処なのか分からない。


 夜中にイザベラが迎えに来て、昼間に私が移動すると大騒ぎになるからっていう理由で、夜中にこっそりと、着のみきのままの状態で村から出る事になったのだ。


 馬車に乗り込んだらゲンリフが居て、チクッと何かが刺さったなと思ったら、気を失ってしまった。


 外が騒がしくて、あちこちから悲鳴のような声が聞こえる。


 ここが何処なのか分からない。頭の中が混乱しまくっている間に、ギシギシと音を立てながら木の扉が開いていく。


 外で銃声が響き渡り、男の人の怒鳴り声も聞こえた。


 隅に隠れるようにして移動すると、納屋の中に飛び込んできた男が私の腕を捉えて、

「若い女発見!」

 大声を上げると、押さえつけるようにしながら馬乗りになってくる。


 もう一人の男が持っていたランタンをこちらの方へ向けると、

「赤毛の良〜い女じゃん、お前、さっさとやっちまえよ、次は俺の番ってことにしてやるから」

 と、言い出した。


 男たちが着ている衣服はルテニア軍の物で、馬乗りになった黒髪のカバみたいな男が、私の衣服をひきちぎり、スカートの中へと手を突っ込んでくる。


「ヤダ!ヤダ!やめてよ!」

 叫び声をあげて必死に抵抗すると、思いっきり顔を殴られた。


「時間ないから変な抵抗はやめとけよ、お互い楽しんだ方が利口だろ?」


 イヒヒヒッと笑いながら、男が首筋を舐め回す。

 ゾッとして、体が震え上がった。


 外の銃声、悲鳴、怒号、タルヌフ村が敵の襲撃を受けたって事?

 いいえ、違う、ここはタルヌフ村じゃない。

 外の声は悲鳴ばかり、自国の兵士が抵抗する音が何一つ聞こえてこない。


 ボタンを引きちぎられ、露わになった胸に男の手が伸びる。

 自由になった左手でのしかかる男を引き剥がそうとしても、全然力が入らない。


「暴れてもダメだよ?二人がかりで襲われたいんだったら別だけどね」


 口が塞がれて、口腔内を気持ち悪いネタネタした舌で蹂躙される。

 

 助けて、助けて、助けて、助けて。

 振り上げた自分の左手を、転がるレンガの上に叩きつけた。



     ◇◇◇



 左手の指輪にはめ込んだのは、新緑の若葉のような色の魔石。この魔石が弾けるように砕けると、渦を巻くように広がっていく。


 立ち上がったマルツェルは、うずの中へ手を差し入れると、空間がぐにゃりと歪んで、突き抜けるようにして移動する。


 移動した先は納屋で、男二人が女一人を押さえつけていた。

 涙でぐちゃぐちゃになったアグニエスカの顔が目に入った瞬間、全身を戒めていた呪いが、グニャリと音をたてて折れ曲がった事に気がついた。


 溢れる出る魔力で、アグニエスカを押さえつける男たちが血まみれになりながら切り刻まれていく。


 前魔法省長官が僕にかけた戒め、人には絶対に攻撃できないという呪いが、体の中で歪んでいく。


「マルツェル・・・」


 藁に塗れたアグニエスカは半分裸みたいな状態で僕を見上げた。こんな結末に導いた人間は万死に値する。


「アグニエスカ・・・」


 アグニエスカを抱きしめたい・・だけど・・抱きしめられない。


 戒めが歪んだ状態のまま、魔力が破裂しそうだ。

 全身から血が零れ落ち、目から血が溢れ、鼻血が口の中へと流れ込む。 


「ガハッ・・」


 血を吐き出しながら外へと転げ出ると、目に付く軍服は全て殺していった。


 ルテニアの兵士が蹂躙しているのはわかるけど、ここが何処か分からない。


 僕の魔力は膨大で、魔力暴走を恐れた王宮の魔法使いは、僕が絶対に人を傷つけないように呪いを与えた。その戒めを中途半端に曲げた僕は、かなりまずい状態に陥っていた。


「ここに居るのは分かっているんだろ!早く迎えに来い!」


 血を吐き出しながら、空に向かって大声をあげる。


 すると僕に向かって一斉射撃をしたのか、無数の弾丸がこちらの方へ向かってきた。ルテニアは兵器開発に力を入れている国であり、兵士が持つライフル銃は最新のものだろう。


 野砲はまだ持ち込んでいないのか、小さな弾丸だけが幕となって僕に向かってくる。


「鬱陶しい、死にたくないなら僕に構うな!」


 弾丸を全て撃ち返す、逆転の魔法、人に向かっての魔法の行使が、僕の大量の魔力を爆発寸前にまで持っていく。


「マルツェル!」

 納屋から飛び出してきたアグニエスカが僕の方へ向かってくる。

 まだ敵兵が潜んでいるんだから、出てきたらダメだって。


「うわああああああああ」


 結界、反射、軍服を狙って押しつぶす。

 もう無理、もう無理、もう無理、もう無理、抑えられない、暴走に彼女を巻き込んだらダメだ。


「ホロファグス!」


 丸呑みせしものは、僕を夜空の上へと攫って行った。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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