第四十五話 スクープ記事
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ポズナンという田舎町に隠居していた大魔法使いパヴェウ・スコリモフスキが娘を連れて居なくなってしまった。
家の中はもぬけの空となり、使用人含め、誰も居なくなっていたという。
王都での騒ぎが起こって以降、ポズナンの大魔法使いの家には常時、王家より派遣された兵士が見張りについていたのだが、その日は人の出入りすらなく、引っ越しの為の家具の移送なども行われていない。だというのに家具も、人も、何もかもがポズナンの家から一切が消え去った。
すぐさま王家から魔法使いが派遣されたのだが、どの魔法使いも首を横に振るばかり。転移の魔法が行使された事は分かるのだが、規模が大きい上に緻密な魔法陣が何重にも重ねがけされている。その為、どこに転移したのかを追跡する事は不可能だと判断された。
大魔法使いの最後の弟子であるマルツェル・ヴァウェンサを派遣する事も考えられたが、スコリモフスキ家の罪を償う為という理由で、すでに古竜討伐に出発している。
過去に国を一晩で滅したという逸話を持つ古竜がカルパティア山脈を降りているという噂は王都にも広まっている為、大魔法使いを追跡するために呼び戻すのは難しい。
そうして、大魔法使いが行方不明となったその日に、王国の頭上を覆いつくす王家の結界が消えた。もちろん、大魔法使い自身が結界を施していたブラス州上空の結界も消失。
第一王子であるイエジー殿下は、
「この呪われた体で不完全ながらも結界を施す事が出来たのは、一重に大魔法使いが陰ながら補助魔法をかけてくれて居たからでしょう」
と、言ったという。
王都に居たスコリモフスキ子爵夫人ジョアンナと息子のヤン、姪のアグニエスカはすでに戦地へと移送されている。
裁判では一年の兵役を科せられる判決が下されたが、大魔法使いに帰ってきてもらう為に、今すぐ、戦地より戻すべきだという意見が噴出したものの、そんな事が出来るわけがない。
南の国境線にコロア王国が兵士を集結させている。
西の国境線に配備した兵士は南のコロアに対応するために、すでに兵の移動を済ませている。その抜けた穴に、スコリモフスキ家が当てられたのだ。
飛空艇開発に成功した西の隣国ルテニアは、完全に結界が消えたヴォルイーニ王国を滅ぼそうと空からの攻撃を仕掛けているが、それを阻止しているのがスコリモフスキ家の魔法使い。
今、この時にスコリモフスキ家を王都に戻したら国が滅びる事になってしまう。
今まで何百年と大空を覆ってきたヴォルイーニの特別な結界は今、上空には存在しない。うっすらと金色に光る幕のような結界を見上げて常に自分たちは安全なのだと実感していた国民はパニックに陥り、スコリモフスキ家を断罪した王家や貴族院の判断に疑問を呈する人間が大騒ぎをする。
そもそも、アグニエスカを良く知る人物であったら、彼女が性悪で男を常に誘惑するような人間だとか、妻子ある上司に懸想をして、別れた後も付き纏い続けたなどという話に疑問を持つだろう。
また以前、スコリモフスキ子爵夫人が勤めていた軍部に所属する人間であれば、彼女が馬鹿にされたとか、姪が侮辱された等といった理由で息子を焚き付け、貴族街を破壊するような行為に出るなどと思いもしない。
軍部に勤めた経験があるからこそ、強大な力を持つからこそ、暴力に対しては理性的であるべきだという信条が大きい。自分に害をなす個人に対して攻撃をしたとしても、近辺の家屋を破壊してまで報復行為に出るはずがない。
そんな事をしたらその後、面倒な事になるなど十分に理解しているからだ。
王国の上空から結界が消えた数日後に、ガゼタ新聞社がスクープを出した。
『アグニエスカ嬢は付き纏いなど一切していない、前上司と交際すらしていない。だとしたら、嘘をついたのは一体誰?』
パスカ家を放逐されたアグニエスカ嬢が平民となり、元は貴族の子女でありながら苦労に苦労を重ねた末、ガゼタ新聞社に入社。取材した記事の文字起こしを仕事として働いていたアグニエスカ嬢は、上司であるマレック・モーガンに優しく声をかけられた。
女性遍歴が派手なモーガン氏は元貴族の娘であるアグニエスカ嬢に食指を動かし、何度も食事に誘いながら、彼女の相談に乗っていた。妻子あるモーガン氏は一時の遊び相手としてアグニエスカ嬢に目をつけたわけだが、その間に割り込んで来たのが同僚のアマンダという令嬢で、非常に魅力的な体の持ち主であるアマンダ嬢へモーガン氏は心移りをする結果となった。
アグニエスカ嬢の職場の同僚や友人を起点に詳細な取材が行われており、アグニエスカ嬢が復讐などではなく、今後もモーガン氏に弄ばれる女性社員が増える事を懸念して、退社をする際に社長やモーガン氏の家族に対して告発を行ったとしている。
アグニエスカ嬢の友人の証言で、彼女はモーガン氏ではなく、大魔法使いの最後の弟子、マルツェル・ヴァウェンサと交際していたという証言が載せられ、何故、彼女がモーガン氏に付き纏っていたというありえない嘘が真実のように語られたのか。
何故、アグニエスカ嬢が未練を持って前上司を慕い続けて居たというデマが流れたのか、疑問を呈する形でその日は文章を結ぶ事となっていた。
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