第四十四話 クリスティーナの破滅
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愛し合っている恋人同士を別れさすことに意義を見出し、恋人を捨てて自分が選ばれた時にこそ、自分が優位であることを実感する。
マルツェル・ヴァエンサを落とそうとして、いつも以上に時間を費やすことになったクリスティーナは、ようやくアグニエスカを王都から追い払うことに成功した。
裁判の最中は落ち込むマルツェルを支え続け、ようやく彼から好意を向けられるようになったと考えているクリスティーナは、
「ど・・ど・・どういう事ですか?」
いつだって自分は安全圏の中に居られるように心掛け、絶対に失敗などしないようにしていたというのに・・
「クリスティナ・・」
拘束された状態でマルツェルの自宅のキッチンの床に転がるフリッツ・ツィブルスキを見詰めて、思わずめまいを起こしそうになった。
今日はマルツェルが夕食の準備をしてくれるという事で、流行のカフェに寄ってケーキを買ってきたクリスティーナは、持っていた鍵でドアを開け、勝手知ったる上司の家を、何の迷いもなく進んでいく。
今の時間、マルツェルは大概、こぢんまりとしたキッチンでのんびりとしているので、ノックをしてキッチンの扉を開けると、マルツェルの副官として働くジガ・キエブラがにこりと笑う。
その足元に転がるフリッツがクリスティーナの名前を呼んだのだ。
「ピンスケルさん、随分とご活躍のようだったね」
ジガは笑いながら紙の束を手に取った。
「マルツェル様がお付き合いしているアグニエスカ嬢と別れさせるために、上司の寝室に裸で入ったり、その姿をわざと令嬢に見せるようにしたり。前の職場の上司との恋愛を殊更面白く広めたり、アグニエスカ嬢が未練たらたらなのだと言いふらしたり」
そんな事を言われたって、何の問題にも問われないはずよ。
「わ・・私は・・・」
「裸で寝室にいたのは魔力暴走を防ごうと考え、先走った行動をしたとでも言うのでしょう?それに噂は噂、誰の口から伝播していくのかなどと検証する事は難しい。そう君は言いたいのだね」
ふふふと笑ってジガは長い足を組む。
「大魔法使いの最後の弟子と言われるマルツェル様とアグニエスカ嬢との親密な関係をよく思わない勢力がいるから?自分は何も悪くない?アグニエスカ嬢に対する様々な噂が流れたところで、何も問題ない?君は実に浅はかだよね」
ジガは持っていた書類を机の上で整理する。
「君とフリッツ・ツィブルスキ君が二人で結託して、マルツェル様とアグニエスカ嬢が別れるように動いていたという事は知っている。君ら二人の会話を録音しているので、証拠に困るという事もない。君はただ、アグニエスカ嬢が元上司に対して今でも懸想しているという内容を、周りの友人、知人を使って面白おかしく伝播させたわけだけれど、そのお陰で、今回、南のコロア王国がこちらに対して大きく出るきっかけを作る事になったわけです」
それが一体なんだっていうの?
「君は恋人が居る男性を奪い取るのが好きで、今まで数々のカップルを破局に導いてきた。奪い取る事に成功することで、自分の虚栄心を満たしていたのだろうが、今回は相手がスコリモフスキ家、取り返しのつかない失敗を犯す事となったのだよ」
「な・・な・・何が失敗だって言うんですか?私、何もしていない」
「君たちの所為で、敵国につけ入る隙を与える事になってしまった。裁判では上手い事言ったと思っているのかもしれないが、君たちの行動が国家を転覆に導くきっかけになったのは言うまでもない」
「は?国家転覆?意味がわかりません!」
「西からルテニアが進軍をしてきているという中、君たちの所為でより一層、南のコロア王国は動きやすくなったんだよ。東のスタンピードは収まったといっても古竜が再び山を降りようとしているのは知っていたかい?」
「そんなの・・私には関係ない」
関係ないわよ、私には全然関係ない。
古竜なんか知らないし、貴族街で暴れたスコリモフスキ家が悪いんでしょう?
「婚約破棄宣言をされた女子生徒が自殺未遂をしても、恋に敗れた令嬢がノイローゼになっても、あまりの悲しみに家から出る事が出来なくなった令嬢が未だに居たとしても、婚約者と別れる事になって自分の親ほど歳の離れた男の元へ嫁入りする事になったとしても、君は今までは全く関係ないと言い切った。だけど今回、君たちは、国家反逆罪で逮捕される事が決定している」
差し出された書類には、ピンスケル子爵家が貴族籍を剥奪されたこと、領地を没収されて平民となったこと。
ツィブルスキ侯爵家は領地の半分を王家に返上し、伯爵へ降爵処分、現侯爵は爵位を嫡男へ移譲する旨が書かれている。
「クリスティナ・・お前がヘマをするから・・殺してやる・・・」
床に転がるマレックが憎々しげにクリスティーナを睨みつける。
「え?結局、ただの噂でしょ?」
「ただの噂で終わらなかったし、それがきっかけで国が滅びかけているというのに、無罪放免で終わるはずがないでしょう?」
兵士が次々と部屋に入ってくる。
「マルツェル様は?」
「君にはもう会いたくないって」
ジガはそう答えながら立ち上がると、
「二人を牢に入れておけ」
と、集まった兵士にジガは命令をした。
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