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第四十三話  元恋人フリッツ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 フリッツ・ツィブルスキは、ユレック第二王子が公務に出る際に護衛につくことが多い。元恋人のクリスティーナ・ピンスケルは、母親同士が友達で、最近まで親密な交際をしていた女性である。


 クリスティーナは金髪碧眼の美人であり、見かけは淑女然としていたとしても、中身がとんでもない性悪だという事は、母親同士の会話からも理解していた。


「あのね、またあの子、婚約者がいる人を奪い取ったみたいなの」


 彼女が王立の学園に通っている時に、何度この言葉を聞いただろうか。


 貴族の子女は魔力持ちの子供を作るために、魔力を持っている貴族同士で幼いうちから婚約関係を結ぶ事が多い。そのため、16歳から通う事になる学園の生徒の半数以上に婚約者がすでに居るような状態となっている。


 クリスティーナは頭の出来が良かったし、恋人関係にある二人の間を引き裂く才能もずば抜けていた。


 親同士が決めた婚約関係であってもお互いに深い愛情を抱いている、そんなカップルの間に入り込んで、いつの前にか男の方の好意を奪い取る。そして元々の婚約者の悪評をこっそりと流して周り、

「あんな人と比べたら、クリスティナ様の方がよっぽどお似合いよ!」

と、周りは婚約者の方を邪魔者扱いにして、クリスティーナこそが相応しいと言い出すのだった。


 婚約者がいかに酷い女性であるか、婚約相手がどれだけ被害を被っているか、婚姻相手の家の人間も相当不満に思っている。などという話を、実際の彼女の行動、生活スタイルに混ぜ合わせて広めていく。


 気の弱い女性であれば、劣等感を鋭く突いていくので、男の方から婚約解消を求めても何も言わずに受け入れるし、ノイローゼになって自分から婚約解消を申し出るという事もある。


 気が強いタイプの女性の場合は、相手の自尊心を刺激し、婚約した男性と仲が良いことを見せつけ、相手から暴力を奮われれば成功したも同じこと。


 真面目で淑女で、一見儚げにも見えるので、

「わ・・私・・ごめんなさい・・・」

 と言って瞳を潤ませれば、暴力を振るったほうが周りから轟々と非難を受ける事となるのだった。


 学校内の悪評は大概、相手の親の元へも流れていったりするため、この事がきっかけとなって婚約破棄に帰着する。


 婚約破棄をした男たちは、クリスティーナを次の恋人にするつもりで居るのだろうが、楽しく過ごすのはいっときの事、すぐに飽きられて捨てられる。


 何せクリスティーナは他人から奪い取れれば満足で、自分が勝者になればそれでゲームは終了。その後も愛を育むとか、人生を共にするとか、そんな事に興味を見出さない。


 頭の良いクリスティーナが卒業後に王宮に勤める事になった時には、

「お願いだからあの子の手綱をしっかりと握っておいてくれないかしら?」

 と、フリッツは彼女の母親から直接お願いされる事になったのだ。


 卒業パーティーの時に、それほど粉をかけた覚えもない男子生徒がクリスティーナにパーティーでのエスコートを申し出て、さらにはパーティーの最中に、自分の婚約者に婚約破棄を申し出たらしい。


 親同士が決めた婚約、学園卒業後には結婚も決まっていた二人だっただけに、破棄を言い渡された女子生徒はその日のうちに自殺未遂をした。


 大して興味もない男子生徒だったし、

「婚約者との関係はもう終わっている」

 と言われてエスコートを申し出たのだから、

「私は彼にまだ婚約者が居るだなんて知らなかったんです!まさか、あんな事になるなんて!」

 と、クリスティナは事情を聞きにきた学校関係者に涙を流しながら訴えた。


 二人の女性を手玉に取った男子生徒が悪い。という事になって、男の方は貴族籍を剥奪されて家を放逐されたという。


 クリスティナには何のお咎めもなかったけれど、彼女の母親は今度は王宮で何をしでかすかと心配で仕方がない。


 母親の要望通り、王宮に勤め始めたクリスティナとフリッツは交際を始める事になったものの、侯爵家の次男とあってフリッツは女にモテるタイプであったし、そんなフリッツと働いて早々付き合う事になったクリスティーナは虚栄心を満たされる事にはなったらしい。


 だが、それだけで収まるような女じゃないのは当然のことであり、働き始めて一年後、クリスティーナは結婚間近の上司に手を出してしまったのだ。


 フリッツと体の関係を持っていたクリスティーナは、上司に対しても簡単に自分の体を差し出した。フリッツは面倒くさくなってクリスティーナと別れる事にしたのだった。


 上司の婚約者は幹部の娘であり、結果的にクリスティーナは部署移動をする事となったのだが、その配属先を手配する。恋人に夢中な上司を別れさせても良いと条件をつけてやったら、クリスティーナは二つ返事で承諾した。


 王の血をひくマルツェル・ヴァウェンサが大魔法使いのひ孫と深い交際をしている。マルツェルとアグニエスカが縁組するなんて事は、なるべく避けたいという勢力が王宮内には少なからずいたため、クリスティーナが上司の略奪に成功したとしても、失敗したとしても、大して問題にはならないだろう。


 こうしてフリッツは無事にクリスティーナと別れる事が出来たのだが、

「君、面白いことをしているみたいだね」

 と、第二王子であるユレックが直々に声をかけてきたのだった。


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